第4話 キミ、喋れたのかい?
大魔道士と武道家はしばらくして目を覚まして、洞窟の外に逃げていった。
少女――ララは機械であるアテナの周りをグルグルと回って、
「別に女性だから殴らない、ってわけじゃないんだね。でもボクに殴りかかってくるわけじゃないし、逃げる相手は追わない」ララは自分の分析を語る。「しかも……キミは必ず相手の攻撃を1回受けてから反撃してる。先制攻撃は絶対にしない」
今までの戦闘のすべてで、アテナは相手の攻撃を受けている。あれだけのスピードを持ってすれば回避は容易だろうに。
「察するに……キミはあくまでガーディアンなんだな。相手を殺すことを目的としていない。ここにあるお宝が守れたらOK。だから相手が戦意をなくしたら攻撃をやめる」
攻めることではなく守ること。それがアテナの使命だとララは推測した。
「でも解せないなぁ……」ララは独り言を続ける。「相手を殺さないのはなんで? まぁあいつらがまたお宝を狙ってくることはないだろうけど……殺したほうが良くない? そっちのほうが確実じゃないか」
アテナは何も答えない。
ララは気にした様子もなく言う。
「キミは相手の力量に合わせて手加減をしてる。最初の冒険者たちの……戦士を殴ったときの威力と、魔法使いのを殴ったときの威力。明らかに差があるよね。そりゃあ……魔法使いを殺さないように手加減してたってことだ」
他の相手に対しても同様である。アテナは相手を殺さないレベルの攻撃しかしていない。
「なんでキミが手加減をする必要があるのか、全然わからないんだ。お宝を守るなら、別に殺したって問題はないだろう?」
言ってから、ララはアテナから離れた。どうせ返答なんてないと思っての行動だったのだが、
「私はプログラム通りに動いているだけだ」唐突に、アテナの場所から声が聞こえた。「私は機械。意志は存在しない」
「おや、驚いた」ララは振り返って、「キミ、喋れたのかい?」
「言語設定はプログラムされている」
「じゃあ寡黙なだけか」人間と同じだ。「だったら質問。キミはプログラム通りに動いてるって言うけど……キミを作ったのは誰?」
この超高性能のガーディアンの制作者だ。
「知らない。私は私の創造主の名前を知らない」
「そっか……残念」ララは心底残念そうに、「じゃあ……もうキミのプログラムを制作者に聞き出すことは不可能ってことか。500年なんて、魔族でも生きてるわけないもんな……」
長生きの種族でも500年も生きない。ララの知らない種族なら話は別だが。
「じゃあさ、キミを分解して中身を見ても良い? もちろん元に戻すからさ」
「ダメだ。私の構造に手を加えていいのは、創造主だけだ」
「その創造主も死んじゃったんでしょ? キミもかなり壊れてきてるみたいだし……そんなんで宝を守り切れるの?」
ララが言うと、アテナはなにも喋らなくなった。人間と違って表情はまったく動かないから、なんともコミュニケーションが取りづらかった。
ララは言う。
「悪かったよ。意地悪を言ったみたいだね」言ってから、ララは背負っていた袋を地面に置いた。「ここに住まわせてもらうことは、構わない?」
「それはあなたの自由だ。だが安全は保証しない」
「わかってるよ。自分の身は自分で守る」ララは袋の中から道具を取り出して、「キミに攻撃を加えることは? やっても良い?」
「それもあなたの自由だ。だが――」
「反撃するって?」
「そうだ。私にはそうプログラムされている」
それはララも知っている。今までの戦いを見れば明白だ。
明らかな敵意を持って攻撃してくる相手に反撃をする。それがこのガーディアンの使命なのだろう。
ララは袋から取り出した道具を、少し離れて構える。
「じゃあ攻撃するよー。ぶっ壊しちまったらゴメンな」
言葉と同時にララは取り出した道具――ロケットランチャーをぶっ放した。発射の衝撃が洞窟内を揺らし、地鳴りのような衝撃音が響き渡った。
そしてララの攻撃はアテナに直撃した。ど迫力の煙が巻き上がって、爆風が周囲に広がった。
「どうかな?」
ララがつぶやいた瞬間、爆炎の中からアテナが飛び出してきた。今までと同じように無傷であった。
そしてアテナが右腕のハンマーを振るう瞬間、
「作戦1」ララが言いながら、巨大な盾を展開した。「防御してみる」
アテナの攻撃はララの盾に直撃した。
そして、
「ぐへ……!」盾が粉々になって、ララは壁にまで吹き飛ばされた。「スゲー威力……こりゃ、まいった……」
そのままララは地面に転がって気絶した。
作戦1。防御してみる、は失敗に終わった。
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