第26話 金がない


 ドラゴン階層攻略時のダンジョン都市には、優秀な冒険者が多く集まって来る。


 そして高く売れるドラゴンの素材も多く買い取れる。


 だがそれは逆に言えば、


「市長! 金貨が足りません!」

「買い取ったドラゴン素材を商人に売り払え! 大至急だ! 少しくらい安くなってもいいから!」

「いいんですか!?」

「背に腹は代えられん! 冒険者が素材を売りに来たのに、金がないから買い取れませんじゃ大恥だ!」


 現金が足りなくなるということだ。俺は急ぎの対応に追われて屋敷の執務室で缶詰め状態になっていた。


 念のため言っておくが決してこの事態を予想していなかったわけではない。


 ちゃんと金貨は多めに用意しておいたのだ。間違いなく。


「ええい! まさかゴールデンドラゴンが出てくるとは!」


 ゴールデンドラゴンはその名の通り、黄金のドラゴンだ。黄金を喰って生きていると言われていて、その身体は黄金の鱗で構成されている。


 この黄金の鱗、死ぬほど高いんだよね……なんと同じ重さの黄金の十倍の価値がある。


 なにせこの黄金の鱗は黄金の輝きを持ちながら、ものすごく頑丈なのである。金は基本的に柔らかいので武器や防具としては使えない。


 だが黄金の鱗ならば鉄よりも頑丈な武器や防具が造れる。しかも黄金の輝きを持った上でだ。なので金持ちがこぞって欲しがる。


 お金持ちって鎧にムダに凝るよな。戦国武将とか変な鎧つけてるの多かったらしいし。


 なんなら大国の王様にとって黄金の鱗のスケイルメイルはステータスだ。正直王様は前線で戦わないだろうし、普通の黄金の防具でいいのではと思うがダメらしい。いちおうは防御力もないとダメらしい。


「市長! 商人たちが結託し始めました! もっと安くしないと素材を買わないと!」

「あいつらこういう時だけムダに連携しやがって! ならもう一生売らないと伝えてやれ!」

「そうしたら金貨がなくなりますよ!?」

「あいつらに一度弱みをつけこまれたら、永遠に調子に乗って来るんだよ! あっちだってドラゴンの素材は欲しいんだからチキンレースだ!」


 そうして商人たちを折れさせて、ドラゴン素材を定価で買い取らせることに成功した。


 だがまだまだ問題は発生してくる。


「市長! 大怪我や死んだ冒険者がものすごく多くなってます! 蘇生や回復魔法の治療が間に合いません!」

「急いで外から応援の魔法使いを応募しろ! なんなら普段は冒険者の奴らでドラゴン階層に潜ってないやつを雇え! だいぶ高給にしていいから!」


 ドラゴン階層は一攫千金が狙えるほど儲かるので、本来なら実力の足りてない奴が無理に潜ったりするのだ。


 だがそうすると怪我人や死体は増える。しかもドラゴンは硬い鱗などで格下相手にめっぽう強いから、ビギナーズラックで勝てる可能性も低い。


 いちおうは逆鱗という弱点はあるが逆に言うとそこだけだ。ドラゴンも当然ながら弱点はかばうので、結局逆鱗を狙うには実力が必要になってしまう。


 なので相応の実力がなければドラゴン階層に潜るべきではない。ないのだが大金狙いで潜ってしまうのが人のサガらしい。


 結果的に治療費や蘇生費で大損になるのになあ。


「市長。なんで実力が足りてない冒険者は、ドラゴン階層を立ち入り禁止にしないんです?」

「そんなことしたら入りたい奴らが暴動を起こすぞ。その対応のために兵士を金払って雇うよりも、ドラゴンに鎮圧してもらった方がいいだろ」

「鎮圧……?」


 そもそも実力不相応でドラゴン階層に潜るのは、自分のことを冷静に見れない奴らだからな。そういう奴らはだいたい過激なので、ドラゴン階層に入らせないとなにするかわからない。


 そして入らせたところでどうせドラゴンにやられるだけなので、それなら入らせてやればいいのだ。


「それで他に問題は起きてないか?」

「いまのところはそれで全部です。あとは各冒険者パーティーの攻略度の報告書です」


 エリサが渡してきた報告書を確認すると、やはり【女神の四剣】が討伐数一位で無双しているようだ。あいつらはチートだからな。


 そして二位だがなんと【熱き黒鉄の漢たち+ルメス】だ。熱き黒鉄の漢たちの弱点だった後衛力を補えたことが大きそうだな。


 そして三位、四位は他都市の冒険者パーティーの名前が連なっている。最近活躍していたエルフたちの【トェンティの集落(第一部隊)】は、今回は八位くらいまで落ちているようだ。


 まあエルフたちの武器は弓に風魔法だから、ドラゴンみたいな頑丈な相手との相性はよくない。鱗を貫けないから急所の逆鱗を狙うしか倒す術がないし。


「ふむふむ。早すぎず遅すぎずで理想的な攻略スピードだな。これなら一か月くらいでドラゴン階層を攻略できそうだ」

「それならよかったです!」


 そう安心しきっていた。油断していたんだ。


 そして一か月後、俺たちは頭を抱えていた。


「どうするかなあ……」

「どうしましょう……」


 だが俺たちにも予想できていなかったことがある。いやダンジョンのことを全て予想するのは不可能に近い。

 

 端的に言おう。階層ボスが死ぬほど強くて苦戦中だった。



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魔物の王たる魔王様、テイマーになったらだいぶチートでした ~魔物の王が魔物を使役したら反則だし、なんなら魔物使わなくても最強な件~

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タイトル通りの無双作品です。

よろしければ読んでいただけると嬉しいです。

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