第25話 ゾロ目階層は攻略させたい


「臨時パーティーを組んでもらいたいんだ」


 俺は【熱き黒鉄の漢たち】のリーダーであるバングと、追放者ルメスの二人に言い放った。


「はあ!? なんで他のパーティーと組まないとダメなんだよ!?」

「お、仰ってる意味がよく……」


 やはりというか二人は困惑して返事をしてくる。


 ここは冒険者ギルドの応接室で、部屋にいるのは俺とエリサとアフロン。そして【熱き黒鉄の漢たち】のリーダーであるバングと、以前に追放されたルメスちゃんだけ。


 二つの冒険者パーティーの代表者に来てもらったのは、この二つのパーティーに協力してダンジョン攻略してもらうためだ。


 俺の言葉を引き継ぐようにアフロンが立ち上がった。


「順を追って説明するぜ。今回はゾロ目ダンジョンで敵はドラゴンですごく強い。オマエラはこの都市で五本の指に入る優秀な冒険者パーティーだ。だがあのダンジョンで暴れるには力不足だ」


 ドラゴンは超強力な魔物だ。鋼より硬い鱗を持つ怪物。


 そんな魔物がちょくちょく出てくるドラゴン階層では、優秀な冒険者パーティーであっても攻略は困難を極める。


 なので優秀な冒険者パーティー同士を組ませて、攻略してもらおうというわけだ。


「おいおいおい! そんなことしたら分け前が減るだろうが!」

「ぶはは! 安心しろ! ドラゴンの素材は超高価で売れるから問題ない!」

「きゅ、急に組めと言われましても上手く連携が取れないです……」

「完全に連携する必要はない。別に1+1が2にならなくてもいいんだ」


 この方法は普段ならば絶対に取れない。


 以前にエリサに話したこともあるが、冒険者が多くなるほど分け前が減ってしまうからだ。なので軍隊での攻略は不可能に近く、結局三~五人くらいのパーティーになっていくと。


 だがドラゴン階層だけは別だ。なにせドラゴンがすごく高く売れるので、分ける人数が多くなっても十分以上に儲かる。


 そしてドラゴンはそこらの階層ボスくらいの強さを持つ。四人くらいのパーティーが単独で倒すのはなかなか厳しい。


 女神の四剣? あいつらはバグみたいなものだから。


「それにそんなことしたらカッコ悪いだろうが! 女にモテない!」

「安心しな。他の都市からやってくる冒険者たちは、だいたいが単独パーティーでは挑まねえぜ。階層ボス相手なら他パーティーと連携するだろ? それと同じだ」


 【熱き黒鉄の漢たち】リーダーのバングの悲痛な叫びを、アフロンはサラッと一蹴する。いやモテないってなんだよモテないって。


「ぶはは! 他の階層ならボスになるようなのがゴロゴロ出てくるような階層だぞ? 【熱き黒鉄の漢たち】と【月光の牙】が組まないと厳しいんじゃねーか?」

「「……」」


 アフロンの問いに対して、バングとルメスちゃんは黙り込んでしまう。


 二人とも階層ボス相手に単独で勝てるとは断言できないようだ。何度でも言うが単独で倒せる【女神の四剣】が異常なだけで。


 ただ少しだけ悲しい事実を言うとするならば、ぶっちゃけ【月光の牙】はルメスちゃん以外は戦力外なことである。


 なので実質的には【熱き黒鉄の漢たち】にルメスちゃんが助っ人に行くであり、ぶっちゃけ欲しいのもルメスちゃんだけだ。


 でも流石にそれを言うわけにはいかないので、冒険者パーティー同士での協力ということにしている。別に俺たちは冒険者パーティーを壊したいわけではないからな。


「ぐぬぬ……しかし女にモテないならダンジョンに潜る意味が……」

「言っておくがよお。ドラゴンの素材を持ち帰った男は英雄だぞ? 二パーティー合同だろうがなんだろうが関係ない」

「俺たち【熱き黒鉄の漢たち】は【月光の牙】と協力しようと思う」


 バングは瞬時に意見を変えてしまった。


 いったいどれだけモテたいんだこいつは。まさかとは思うが本当にモテるためだけにダンジョンに潜ってるんじゃないだろうな。


 いやそれはないか。それなら以前にルメスちゃんをパーティーに入れたはずだ。


 女好きなら美少女がパーティーに入るのを拒否しないわけがない。


 対してルメスちゃんは申し訳なさそうに頭を下げてくる。


「わ、私はあの。他のメンバーにも聞いてみませんと……」

「というかよ。そもそも【月光の牙】はドラゴン階層に潜るのか? 言っちゃなんだが今のお前らじゃあ荷が重いだろう? ルメスはともかく他の三人が」


 アフロンがとうとう本当のことを言ってしまった。


 実際のところ、【月光の牙】でドラゴンに通用するのはルメスちゃんだけだ。他の三人は強化魔法を受けていても大して役に立たない。


 ならドラゴン階層は潜らずに、攻略されるまで他の階層で金を稼いでおくという選択肢はあり得る。


 ただ俺やアフロンとしてはルメスちゃんを遊ばせたくない。それにルメスちゃんとしてもお金や冒険者の名声の稼ぎ時なのだ。


 やはり以前に懸念した通り、パーティー内の強さの差のせいでややこしいことになっている。


「……はい。ドラゴン階層は潜らないかもと相談しています」


 やはり【月光の牙】ではそんな話になっていたか。これは決して間違ってはいない。


 だが俺たちとしてはやはりやめて欲しいので、


「ではルメスさんだけ【熱き黒鉄の漢たち】に助っ人するのはどうでしょうか? ドラゴン素材を得たら他の三人の防具を強化して、少しは力の差を失くせるかもしれませんよ」


 と説得してみることにした。


 実際、ドラゴン素材で作る防具をつければ他の三人も多少は強くなるだろう。


 ……残念ながら多少程度だが。いくら防具や武器が強くなっても中身が伴わなければそこまで強くなれない。


 ルメスちゃんを【月光の牙】から引きはがすような行為だが、今回の件がなくてもいずれ噴出する問題だ。


「……他の人と相談してみますね」


 そうして最終的に、ルメスちゃんだけが【熱き黒鉄の漢たち】に臨時参戦することになった。


 さてこれでドラゴン階層の攻略が進むといいのだが。

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