第24話 ゾロ目階層は攻略させたくない


 ドラゴン階層は攻略されるまで続く祭りみたいなものだ。


 逆に言うと攻略されると終わってしまうので、階層ボスが瞬殺されてしまうと困る。階層ボスがやられたら消えちゃうからな、ドラゴン階層。


 じゃあずっと攻略しなければいいじゃんと思うだろう。階層ボスだけ放置すればいいだろうと。


 だがそうは問屋ではなくてダンジョンが卸さない。ドラゴン階層はずっと放置していると他の階層にまでドラゴンが出現し始める。


 こうなるとものすごく困る。ドラゴンを狩れるのは優秀な冒険者だけなので、並み以下の冒険者は潜らなくなり、徐々に各階層が魔物まみれになっていく。


 そしてどんどんドラゴンや他の魔物も増えていって、最終的にダンジョンの外に漏れ始めるのだ。かつてそれで滅んだダンジョン都市があり、今では魔物の巣穴と化している。


 なのでドラゴン階層はすごく美味しいのだがずっと攻略しないわけにもいかない。


 そのためにダンジョン都市の市長がやることはひとつだ。


 俺は屋敷の応接間で我が都市最強のパーティーである【女神の四剣】のソールレイスと面会していた。


「ソールレイス。頼みがある」

「わかっています。ドラゴン階層についての私たちの攻略速度ですね」

「そうだ。お前たちにはなるべく攻略してのが本音だ」


 ダンジョン都市はドラゴン階層に関して、やることがいつもと真逆になってしまう。


 それは優秀冒険者パーティーに対して、ある程度攻略を自重して欲しいと願わなければならない。これが普通の優秀な冒険者パーティーならば別にいいのだ。

 

 他とある程度歩幅を合わせて攻略してくれるからな。だが【女神の四剣】レベルとなると話は違う。


 彼女らが突出してドラゴン階層を攻略RTAしてしまうと、その時点で階層が消えてしまう。本来得られるはずのドラゴン素材が大きく減ってしまうのだ。


「もちろんお前たちに攻略しないでくれと言うつもりはない。だが普段に比べて少しゆっくりとやって欲しい。もちろん階層ボスの攻略メンバーには加わってもらうが」

「嫌です」


 即答である。知ってた。


 生き急いでいるソールレイスからしたら、ゆっくり攻略する道理なんてないからなあ。普段ならその行動指針はすごくありがたい。


 だが今回ばかりは話が違う。彼女に攻略RTAされてしまうとダンジョン都市の得られる恩恵が減ってしまう。


 俺個人としてはソールレイスのブレなさは好きなのだが、ダンジョン都市の市長の立場としては説得しなければならないのが辛いところである。


 だが説得すると言っても彼女に都合の良いようにしないとな。ドラゴン階層で素材を買ってなるべく儲けたいが、そのために【女神の四剣】の不興を買うのは嫌だ。


 なのでどう話を持って行くかは考えている。


「ソールレイス。実は前から気になっていたことがある」

「なんでしょうか」

「お前のパーティーは各人の優れた実力に比べて、装備が少し劣るんじゃないか? 無論お前たちの優れた力で問題は出ていないが」

「それは否定できませんね」


 これは嘘ではない。【女神の四剣】は全員が優れたメンバーで構成されてるがゆえに、装備が使い手に追いついていないのだ。


 優秀な人材を集めるのも大変だが、その人材に釣り合う装備を用意するのもまた難しいからな。ましてや【女神の四剣】は優れたどころのメンバーではない。


 ゲームなら勇者になるような逸材たちだ。本来なら勇者の剣とか必要なレベルだが、いまの彼女らは普通の鋼製の武器である。

 

「ですがよい装備はそうそう手に入りません」

「そこでこのドラゴン階層だよ。今回は階層ボスに一直線に向かうんじゃなくて、少し寄り道してドラゴンを狩っていくんだ。その素材を優秀な鍛冶師に渡して、オーダーメイドの装備を作ってもらおう」


 ドラゴンの素材は鋼よりも頑丈なのに軽い。なので装備としてもってこいだ。


 問題はドラゴン自体があまり獲れないことだが、ドラゴン階層攻略中ならば素材はちゃんと確保できるしな。


「冒険者が素材をやり取りできるのは冒険者ギルドだけでは?」

「安心しろ。お前たちから買い取った素材は鍛冶師に渡して、武器に使ってもらおうように融通するから」


 これは闇取引ではないしルール違反でもない。


 ちゃんと冒険者ギルドを通して素材をやり取りして、その後に素材を鍛冶師に渡しているだけだ。そして作ってもらった装備をダンジョン市長の俺が買い取って、【女神の四剣】に差し出すだけ。


 なにひとつ規則も政令も破っていない。いやそもそもこの場合はダンジョン都市が関わっているのだから守る必要もないのだが。


 あくまで闇素材禁止は冒険者が損するのを防ぐためだからな。転売禁止法みたいなものだ。


「ですが鍛冶屋の手が足りていないのでは?」

「最優先させるから大丈夫だ。ダンジョン都市としても優秀な冒険者には、より優秀な装備を持ってほしいし。今回のドラゴン階層で装備を整えることで、次階層以降の攻略が早まるはずだ」


 そもそも本来なら【女神の四剣】にはダンジョン攻略に突っ走って欲しいのだ。なのでドラゴン階層を終えたらまた攻略RTAやって欲しい。


「たしかに仰る通りですね。ドラゴン階層で素材を集めておいて装備を整えた方が、今後のことを考えるとよさそうです」

「よし。じゃあ今回は階層ボス一直線じゃなくて、ダンジョンを少しうろついてくれるな?」

「条件があります。また私のために時間を取ってください」

「わかったよ」


 こうして【女神の四剣】もドラゴン素材を回収してくれることになった。


 さて彼女らはいいとして、次は他のパーティーたちにも働きかけねばならない。今度は【女神の四剣】とは逆に近い提案になるのだが。


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