第21話 優秀な冒険者をスカウトしよう


 優秀な冒険者はただ待っているだけどころか、外から集めようとしてもそうそうやってこない。


 なにせ他都市も優れた冒険者は欲しいのでかなり優遇する。それで優遇されて現状に満足した冒険者はあまり他に行かないのだ。


 うちも優秀な冒険者には色々な特権を与えてるからな。無料で一軒家を与えたり、強制帰還の札を与えたり、他にも武器などの割引なども。


 当然ながら他都市も同じようなことをやっているので、優秀な冒険者にとってダンジョン都市はすごく居心地がいい。


 だがそれでもたまに優れた冒険者が他の都市に移ることがある。


「市長。【くれない白僧隊しろかぶと】が、我が都市への移住を検討しているとのことです!」

「なんだと!?」


 いつものように執務室で仕事していると、エリサから衝撃的な報告が入った。


 紅の白僧隊。それはかなり優秀な神官たちの四人パーティーだ。


 四人神官だけあってアンデッド相手には無敗を誇るので、彼らがいればアンデッドが詰み階層になる危険が大きく減る。


 そして彼らの強さは対アンデッドだけではない。全員が回復魔法を扱えて前衛能力を持つため、普通の魔物相手も関係なく安定感のある強さを持つ。


「彼らのステータスはわかるか?」

「はい!」


 エリサから紙を受け取って目を通すと。


くれない白僧隊しろかぶと

前衛力D 後衛力E 魔法D 回復術B

【神官】・・・少しの精神耐性を得る。

【癒しの担い手】・・・回復魔法の効果上昇。


 ステータスにBがあるのは相当な腕前だ。Bというのは非才の人間にはたどり着けず、ひとつでもあれば優秀な冒険者パーティーと言えるだろう。


 しかも他の能力もまとまっている。これは安定感のあるパーティーと言われるわけだ。

  

「いいじゃないか! 問題がなければ我が都市に招き入れたいな。【くれない白僧隊しろかぶと】はなんで元いた都市から出るんだ?」


 優秀な冒険者が都市から出ることはあまりない。だからこのその理由はすごく大事だ。


 優秀な冒険者は多少の問題があっても雇いたいとは思う。だがそれにも限度があるのだ。たとえば十人殺して逃げましたとかなら、いくら優秀な冒険者でも招くのは危険すぎる。


「はい。情報によると彼らの元いたダンジョンが、最下層まで攻略されてしまったようです」

迷宮制覇ダンジョンクリアか。それなら問題はなさそうだな」


 迷宮制覇。またの名を『夢の終わり』と呼ぶ。


 人が生きるに当たって夢や希望、目標などはすごく大事だ。それらがなければものすごく辛くなる。


 そして冒険者にとっての夢とはダンジョンだ。未開の階層に潜ってうまくやれば、まだ誰も手を付けていないお宝を得られるのだから。


 だが無限に続くように思えるダンジョンにも終わりがある。最下層が存在してしまう。


 終わりに到達したダンジョンにはもう夢がなくなる。もちろん今まで攻略した階層は残るが、これからどんな階層が出てくるのかなどの夢が枯れてしまうのだ。


 そしてダンジョン都市ももう攻略する必要がないので、必要以上に優秀な冒険者を優遇しなくなる。なので階層攻略の最前線を走る冒険者たちは、制覇されたダンジョンから他へ移住する流れになるのだ。


迷宮制覇ダンジョンクリアってあまり嬉しくないですよね。本来なら喜ぶべきことなはずなのに」

「嬉しくないで済むんだからいいだろ。クリアしたってダンジョンはなくならないんだから。これが鉱山都市なら悲惨だぞ?」


 ダンジョン都市のメリットは、迷宮制覇されてもダンジョンが残ることだ。


 いままでの階層は残り続けるので、ダンジョンは安定的に魔物の素材を落とす場所になるからな。そしてそのダンジョンが多く獲れる素材なども確定するので、その素材を活かした特産品などが生まれたりもする。


 とある迷宮制覇されたダンジョンは、ゴーレムが出てくる階層が多いのでゴーレムの聖地になっている。他にも氷階層があるダンジョンの都市なら、氷を特産品にして儲けている。


 うちも氷階層欲しいなあ、出てこないかなあ。氷室みたいに扱えばいくらでも儲かりそうだ。


 おっといけない。今は【くれない白僧隊しろかぶと】の話だった。


「話が逸れたな。それで【くれない白僧隊しろかぶと】にはどれくらいの都市から招待が来てるんだ?」


 ダンジョン都市は優秀な冒険者を欲しがる。つまり【くれない白僧隊しろかぶと】にコンタクトを取るのは俺たちだけじゃない。


「およそ五都市ほどです!」

「その五都市はどれくらい階層を攻略してるかわかるか?」


 ダンジョン都市の力を大雑把に図るには、どれだけの階層が攻略されているかを知ればいい。


 ダンジョンの階層が多いほど冒険者が多く集まり、その冒険者目当てに宿屋や酒場などの店や商人が増えていく。つまり階層が多いほど人が集まるので、結果的にダンジョン都市も栄えるのだ。


 あくまで基本的にの話なので例外はあるけどな。例えば氷階層みたいな大儲けできる階層があれば、あまり攻略されてないダンジョンでも儲けてることはある。


「どこの都市も攻略は一桁階層です。うちの都市が一番有力だと思いますです。なにせ我が都市はオーク階層やゴーレム階層もありますからね」


 そして我が都市のダンジョン階層は実はかなり恵まれている。


 オーク階層はけっこうな当たりの部類でゴーレム階層も悪くない。


 なにせオーク階層もゴーレム階層も、ダンジョン都市の特産品にできるほどの当たり階層だ。


 三十階層攻略してもどちらも出ないなんてザラだし、一桁しか攻略していないダンジョンとしては破格と言えるだろう。


 ……まあその一桁でアンデッドという特大の外れも引いたんだけどな! うちのダンジョン、当たりはずれの差がでかすぎるんだよ。


「じゃあ【くれない白僧隊しろかぶと】には、我が都市の魅力を最大限にアピールしろ。将来性が豊かで希望に満ち溢れて、有力な冒険者も多いビジネスライクな都市ですと」

「そこはアットホームじゃないんです?」

「無頼漢の冒険者にホームはいらんだろ」


 ダンジョン都市によってはアットホームだとアピールするところもあるが、冒険者の需要に答えていない。


 冒険者は無頼であることに誇りを持っているし、束縛されるのが嫌いな者たちだ。なのにアットホームアピールは馬鹿だろ。


「あとは強制帰還の札の存在もアピールしろ。あれは我が都市にしかないからな」

「はいです!」


 そうして【くれない白僧隊しろかぶと】との交渉は無事にまとまり、彼女らは我が都市で活躍してくれることになった。


 ちなみに決め手はオーク肉だった。やはり肉か……。



 

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