第20話 攻略は順調に


「市長。サキュバス階層ですが順調に攻略が進んでいるです」


 エリサから報告書を受け取って目を通す。


 どうやら女神の四剣が大暴れしているようで、このまま行けばサキュバスの第九階層は過去最短記録での攻略になるかもしれない。


 というか女神の四剣の活躍度がヤバイ。サキュバス討伐数がすでに百体超えてて、二位の三十体とトリプルスコア以上つけている。


「女神の四剣、本当にすごいですね……」

「リーダーのソールレイスが精神に作用するスキルを無効化するからな。サキュバス階層では負ける要素がないし」


 サキュバスの攻撃手段は基本的に魅了だ。なので魅了が無効化されたらロクな戦闘力が残らない。


 なのでソールレイスはサキュバスにとって天敵だろう。正直サキュバス階層ならパーティーを組む必要もなく、ソールレイスひとりだけでいいんじゃないかなレベルだ。


 サキュバスにとっては悪夢以外の何者でもないな。


「まあこういう理不尽なほどの相性はそれなりにあることだしな。本来ならサキュバス階層は精神耐性のある冒険者を集めるんだが、今回は不要そうで助かるよ」

「アンデッド階層みたいにならなくてよかったですね」

「本当にそれな」


 ノーモアアンデッド階層だ。いやもう頼むから二度と来ないでくれアンデッド階層。


「まあ今回は女神の四剣、というかソールレイスの一人舞台で終わるだろうな。なんなら他の女神の四剣のメンバーも暇してるかも」


 ソールレイスはサキュバス階層では実質無敵みたいなものだし、他のメンバーが戦う意味が薄いからな。


 別の報告書に目を通すと他の冒険者パーティーがどうなってるかも書いてある。


 まず前階層第二位のエルフによる【トェンティの集落(第一部隊)】だが、サキュバス階層には潜っていないらしい。


「なんでエルフたちは潜らないんでしょうか。今まではダンジョンに入ってたのに」

「エルフってサキュバスに相性悪いんだよ。あいつらは優れた五感を持ってるが、それがサキュバスの魅了も人間より多く拾ってしまうんだと」

「エルフがサキュバスに弱いなんて初めて知ったのです」

「まあそうそう知る機会もないからな。エルフたちも自分の弱点を言いふらしたりしないし」


 エルフたちは目も耳もすごくいいのだが、そのせいでよりサキュバスの姿や声を聞いてしまってキツイらしい。長所が悪影響を及ぼすこともあるということだ。


 次に追放者ルメス率いる【月光の牙】だが、なんとサキュバスにやられてしまったらしい。前衛三人がサキュバスに瞬殺されて、残されたルメスちゃんは孤軍奮闘したが最終的に複数のサキュバスに囲まれて詰んだっぽい。


 ……やはりというかルメスちゃんは前衛に足を引っ張られている。以前のパーティーよりはマシだけど【月光の牙】でも前衛と後衛に差があるんだよな。


 パーティー内で力の差があるというのはあまり、いやかなりよろしくない。なぜならどのレベルのダンジョンに挑むべきかの適正レベルが判断しづらいのだ。


 強い側のレベルに合わせると危険だし、かといって弱い側に合わせるとダンジョンの稼ぎが物足りなくなる。


 結局、メンバーに力の差があるパーティーは最終的に解散するハメになる。


「うーん。やはりルメスちゃんは【熱き黒鉄の漢たち】に入れたかったなあ。たぶん今後はさらにルメスちゃんとそれ以外で力の差が出て来るぞ」

「仕方ないのです。ダンジョン都市としてはあまり強く言えませんし」

「冒険者は縛られるの嫌いだからなあ」


 本音を言うなら多少無理やりにでも、【熱き黒鉄の漢たち】にルメスちゃんを入れたかった。だがダンジョン都市が冒険者の内情に口出しするのはタブーと言っていい。


 冒険者たちは無頼漢なところがあるので、束縛されたり命令されることを嫌う者が多い。安定を求めるタイプなら冒険者じゃなくて他の仕事した方がいいからな。


 ダンジョン都市としては冒険者の不興を買いたくないので、彼らに嫌われる行動はとれないのだ。


「それに【熱き黒鉄の漢たち】はルメスちゃんのこと拒否ってましたし。なんか断ってきた時に号泣してましたけど」

「あれはなんだったんだろうな……」


 山賊みたいな三人組が号泣してるのはきつかった。


 しかも泣いてる理由が謎なのでなんなら怖いまである。なんでルメスのことを紹介したら、彼らは泣きながら断ったのだろうか。


 ……アツカンの面子は女アレルギーとかじゃないはずなんだけどな。むしろ女にモテたい雰囲気まで出してるから喜ぶと思ったのに。


「そういえばその【熱き黒鉄の漢たち】ですが、サキュバス階層でもそれなりに活躍してるようです」

「ほう。あいつら思ったより精神的に強いんだな」


 サキュバス階層は魅了に対抗するだけの精神力が求められる。


 なのであの山賊三人組は今回の階層では微妙なのではと思っていたが、なんだかんだでそれなりに活躍するなあ。


「ちなみに現状だとどれくらいの活躍だ?」

「三位ですね」

「知ってた」


 アツカンは平常運転であった。いや常にどんな階層でも活躍してくれる冒険者は貴重なんだけどな?


「サキュバスの唾液とかで惚れ薬作れないかなあ。あいつら、落とす素材が微妙なのがなあ」

「そんなヤバイの仮に作れても販売禁止になるです」

「確かに……」


 そんなこんなでサキュバス階層の攻略は進んでいくのだった。

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