第19話 サキュバス階層はもうかる?
サキュバス、またの名を淫魔。
サキュバスの見た目はすごく綺麗な人の女性型の魔物だ。
強いか弱いかで言えば弱い。普通に戦えばそこらの冒険者でもそうそう負けることはない。
だが問題は普通に戦えないことだ。奴らは人間を魅了して戦意を喪失させて、その上で精気を吸い上げてしまう。
「サキュバスは面倒だな。あいつらの階層は攻略速度が落ちるんだよなあ……なんだかんだでいずれは攻略されるんだけど」
「そうなんです? アンデッドみたいに最悪詰むのかと思ってるのですが」
「詰みはないかな。サキュバスはな、人間を殺さないんだ。なのでサキュバスにやられた奴らは最終的に階層入り口に送り返されるんだよ」
これは噂話ではなく実話だ。実際にサキュバスが冒険者を階層入り口に運ぶ姿を見た者や、精気を吸われながらも気絶せずに運ばれたことを記憶した冒険者もいる。
「なんで殺さないんです?」
「エサだから。精気を全部吸っちゃったら死ぬけど、生きてたらまた食べられるだろ? 実際サキュバスに一度やられた奴は、また自分からサキュバスに負けに行く奴もいるらしい」
「ひどいのです……」
「負け癖がつくってこういうことを言うんだろうか」
「言わないと思うのです」
サキュバス階層が面倒なのは、強い冒険者パーティーでも負けることがあるからだ。
それともうひとつ厄介なところがある。サキュバスは女系の魔物だが、襲うのは男だけではないことだ。
あいつら普通に女相手でも襲い掛かるし精気吸うんだよな。そうじゃなかったら女冒険者だけ向かわせたら楽勝なのに。
過去に優秀な女冒険者パーティーが、サキュバスに襲われて絡み合ってるところを発見されたのは有名な話だ。
さらにサキュバスは人並みの知性があって、普通に会話まで出来てしまう存在だ。そのせいで微妙に殺しにくいのも厄介なところだ。
「サキュバス相手となると魅了に対抗できるように、街に娼館とか作らないとダメそうだなあ。でも人件費とか高くつくんだよなあ……ん? 待てよ。サキュバス階層、娼館……閃いたぞ」
「ものすごく嫌な予感がするので帰っていいです?」
「ダメ。サキュバスを捕縛して街の娼館で働かせるのはどうだろうか? あいつらは人間を殺さないし」
「なんで! 魔物を!! 利用しようとするんですか!!!」
だって無料だし。娼館は運用にかかる金が高いが、サキュバスなら魔物なのでかなりお安い給与で済みそうだ。
というか給与いらないのでは? 彼女らからすれば金払ってでも人の精気が欲しいだろうし。
「いいじゃないか。サキュバスたちは人間の精気が欲しい。冒険者たちは発散したい。俺たちは娼館の運用費を節約したい。三者全員が損しないでみんな幸せだぞ」
「得すればいいってものじゃないと思うのです!? 先日のゴーレムもですけど、魔物を利用するのは反対なのです!」
エリサはすごく必死に叫んでくるが、俺としてはすでに決定事項だったりする。
サキュバスはダンジョン内でも冒険者を殺さないのだから、安全性は担保されてるし。
「見解の相違だな。使えるものは使うべきだろう」
「使っちゃいけないものもあると思うのです! 魔物は危険なのです!」
なおも食い下がって来るエリサ。この世界では魔物を使うのはあまり受け入れられていない。
だが俺には納得がいってないところがある。
「それなら馬も危険じゃないか。牛だって人間を殺せるぞ」
この世界にも馬車はあるし農業では牛も使っている。
牛馬と魔物でそこまで差があるとは思えない。
「そ、それはそうですが……」
「エリサの言っていることはわかる。サキュバス娼館もやはり安全性を確認してからにするさ」
「どうやって確認するのです?」
「そりゃ普通にサキュバスに娼婦をさせてみるんだよ。精気を吸われても死ななそうな奴らを選んで招待すればいいだろ。と言ってもサキュバスはダンジョンでも人を殺さないし、大丈夫だとは思うけどな」
冒険者ギルド長のアフロンあたりにやらせよう。
あいつならサキュバスに寝首をかかれても死なないだろうし。
「……はっ!? まさか市長もサキュバス娼館に行くつもりです!?」
「まあ行かないとダメだろうな。少なくとも最初のテストは。他人に危険かもしれないことをやらせておいて、自分はやらないというのはクズだし」
別にサキュバスなど抱きたくもないのだが、流石に言い出した張本人が逃げるのは外聞がよろしくない。俺は市長なので評判を大事にする必要がある。
……いや本当にあまり行きたくないのが本音だ。ただでさえ忙しいのだから、そんなの行く時間があったら寝たいのに。
昼間は常に仕事があるので自動的に夜に行くしかない。夜に行くということは睡眠時間が削れてしまう。
「だ、ダメです! 市長は絶対ダメなのです!」
すると何故かエリサが必死に食い下がって来る。
「と言っても街の関係者からも誰か出さないとマズくないか? サキュバスを娼館に使うのは初めての試みだし、公的な人間も人柱にならないと信用してもらえない気が」
「でもダメなのです!」
「うーむ……まさかエリサ、興味あったりする?」
「!?!?!?」
結局誰が言ったかは内緒だが、サキュバス娼館は一か月後に営業を開始した。
そして冒険者たちはこぞって娼館に……行かなかった。サキュバスに興味のある冒険者たちは、みんな九階層に潜っていってしまったのだ。
冷静に考えたらそりゃそうだ。無料でサキュバスに会える場所があるのに、金払ってまで行く奴はいないよなあ。
ではサキュバス娼館は閑古鳥が鳴いたのかと言うとそうではなく、むしろ満員御礼になった。いつもダンジョンに潜る冒険者ではなくて、街の市民たちがこぞって通い始めたのだ。
結果的にサキュバス娼館は冒険者の役には立たなかったが、都市の財政のうるおいには一役かったのだった。
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少しタイトル変えました。
前よりよくなってるといいのですが。
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