第22話 冒険者ギルドを増設しよう
「市長。サキュバス階層なのですが、無事に階層ボス手前まで到達したそうです。新たに加入した【
「よしよし。サキュバス階層はダンジョン都市的にはそこまで儲からないし、さっさと攻略してくれた方がいいからな」
俺は執務室でエリサの報告を聞いてうなずいていた。
サキュバス階層が解禁されてから一か月ほどで、すでに階層ボス手前まで到達したのは助かる。
サキュバス階層が攻略層なのは都市的にはそこまで美味しくないんだよ。サキュバスの落とす素材なんて大して売れないから。
最高の攻略層はオークだな。放っておいても上質の豚肉が多数手に入るのが最高過ぎる。オークバンザイ。
「そういえば市長。今日の午後に冒険者ギルド長から面会の申込が入ってます。重要な案件を話したいと」
「アフロンが? いったいなんの用事だ? まあいい、会おうか」
特に思い当たる節はないのだが、冒険者ギルドとの関係は保っておきたい。
面会許可を出すとアフロンが屋敷にやってきたので、応接間に案内した。
「すまねえな。時間を取ってもらって」
「それは構わないが今日はどうしたんだ? 当日に面会希望だなんてなにか緊急の用事でも出来たのか?」
アフロンは見た目こそ強面のオッサンだが、他人にはかなり気を使うタイプだ。なのでいつもなら前日までに面会の申込をしてくるのだが。
「緊急ってほどじゃないんだがわりと急ぎではあるな。サキュバス階層が攻略されたら十一階層目に入るだろ。外の都市の冒険者ギルドからも連絡が来てるんだがよ。よその冒険者がけっこうな人数でこの都市に移動しているらしい」
「いいことじゃないか。宿屋や酒場も増やしているし憂いもない」
ダンジョン都市としては冒険者の人口が増えるのは歓迎だ。
やはり冒険者の数が多いほど優秀な人材も増える傾向があるしな。それに人口が増えることを見越して、酒場とか宿屋とか増やしてるので問題ないはずだ。
だがアフロンは首を横に振った。彼の頭のアフロがゆさゆさ揺れる。
「それが問題があるんだよ。まあ市長のあんたのせいじゃないんだが」
「俺のせいではないが、都市的に冒険者が増えて問題があるだと?」
いったいどんな問題なんだ? 少し考えても思いつかないぞ。
するとアフロンは申し訳なさそうに軽く頭を下げて来た。
「たしかに冒険者が増えても宿屋や酒場は足りてるかもしれねえ。だがよお……俺たち、冒険者ギルドが回らなくなりそうなんだ。悪い」
「あっ」
冒険者がダンジョンに潜るには冒険者ギルドで申し込む必要がある。
その理由は主に冒険者を守るためだ。冒険者にはランクがつけられていて、そのランクより上のレベルの階層には潜らせないようにしている。
他にはダンジョンで死んだ冒険者の把握のためもある。勝手に冒険者がダンジョンに潜って、そのまま死ぬと誰も分からないし、死体がなければ蘇生もできないからな。
だがこのルールのおかげで、冒険者たちがダンジョン内で死んだら分かるのだ。なので冒険者ギルドには死体回収依頼もよく出ている。
あとはひとつの階層にあまりに多くの冒険者が潜って、獲物の奪い合いで喧嘩になるのを避けるためもある。
ともかく冒険者ギルドの手が足りなければ、冒険者たちがダンジョンに潜れなくなるのだ。そうなるとダンジョンに潜る数が減るので、ダンジョン都市的にも損失になってしまう。
「ふーむ。足りてないのはギルドの人手か?」
「いや人手は足りてるんだ。ただ受付カウンターがすでに埋まってて、これ以上受付の数を増やせない。あと都市の冒険者の数に対してギルドの広さも足りなくなりそうだ。このままだと常時大混雑になっちまうかも」
ただでさえ荒くれ者の冒険者だ。混雑した場所に放り込めば喧嘩なり共食いし始めるだろうなあ……。
「そうなると冒険者ギルドの建物を新しく建てるか? サウザン都市冒険者ギルド第二支部みたいな感じで」
「俺もそれがいいと思っている。だがそうなると問題があるよなあ?」
「そうだな。誰が金を出すかという問題がな」
俺とアフロンはニッコリと笑うと、
「冒険者ギルドの仕事場なんだから、冒険者ギルドが建てるのは当たり前だよな? 冒険者を助ける組織なんだから」
「このままじゃ都市が回らなくなるんだから、都市が建てるべきだよな?」
「「…………」」
俺たちは罵詈雑言の応酬を繰り広げた。しばらく延々と話し続けた後に、
「はあはあ……仕方ない。折半だ」
「それしかねえな」
そして最終的に折半という話に落ち着くのだった。
どうせ半々にするなら最初から喧嘩するなって? いや喧嘩するのも市長やギルド長の仕事なんだよ。
「よしじゃあさっそく今日から工事開始だ。冒険者ギルドの手が足りてないのが理由で、冒険者を遊ばせておくのはあまりに損だからな」
「ぶはは! 助かるぜ! じゃあうちもさっそく人手を増やしておくぜ。ちなみに今ある冒険者ギルドは第一支部で、一階層から十階層担当にするぞ。いいよな?」
「いいぞいいぞ。第二支部はいまの建物より少し豪華に建てろよな。予算増えてもいいから」
「わかってるぜ。優れた冒険者に優越感を抱かせるため、だろ?」
「そうそう」
冒険者ギルド第二支部の建物は、選ばれた優秀な冒険者たちだけが使う場所だ。具体的には十一階層以降のみの担当とする。
ついでに第二支部に併設する酒場は割引などもする予定だ。
そうすることで冒険者たちには実力を上げて、第二支部の建物に入るという目標ができるからな。冒険者ランキングと同様に優越感を報酬にするのだ。
まあ第二支部は酒場なども安いし、第一支部より空くだろうから具体的なメリットもあるのだが。
こうして急ピッチで第二支部の工事が始まるのだった。
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