第17話 熱き黒鉄の漢たち


「ぐははは! 今日もゴーレムを二体倒せたな!」

「げははは! 俺たちにかかればゴーレムも楽勝よ!」

「ぶへへへ! 当たり前だろオラぁ!」


 冒険者ギルドに併設された酒場の一角で、男三人衆が酒を飲み交わしていた。


 彼らは強面髭面でガタイがよくてなんだか微妙に小汚い。そして近くに置いてある武器も斧やメイスなどの泥臭い使い方をするものだ。


 はっきりいって山賊の親分たちが集会をしてるようにしか見えない。


「おらぁ! 肉おかわりだあ! 金ならあるぞ!」

「酒もじゃんじゃん持ってきやがれぇ!」


 だが彼らは山賊ではなく盗賊でもなく、これでもれっきとした冒険者だ。


 彼ら三人は給仕の少女をチラチラ見ながら、大きな声で叫び始める。


「まったくよう! ゴーレム階層はめんどくせえなあ! 魔法が必要だなんてよ!」

「まあ俺たちには楽勝だけどな! だって俺たちゃ!」

「「「あの【熱き黒鉄の漢たち】だからな!!!」」」


 彼らのパーティー名は【熱き黒鉄の漢たち】。この都市で期待されている冒険者三人組であった。


 見た目は完全に三十中盤のオッサンだが、実は全員まだ二十歳くらいである。


 三人はチラチラと周囲で酒を飲む可愛い女の子たちを見ながら、さらに大きな声で話を続ける。


「いやあゴーレムは強敵だったな!」

「俺たちみたいに魔法も剣も使える優秀な冒険者じゃないと、とても潜れない階層だよなあ!」

「むんっ! ほれ見てくれこの筋肉をっ!」


 男たちはそれぞれ筋肉を魅せつけるポーズをして、なんとか給仕の少女の気を引こうとしている。


「なんて筋肉! 流石はアツカンだ!」

「あの見た目で魔法も使えるんだからな!」

「俺たちの憧れだよアツカンは! 俺たちの兄貴だ!」


 そんなアツカンたちを見て周囲の男たちは歓声をあげた。なお女性は特に興味もなさげに酒を飲んでいる。


 アツカン三人衆は少しばかり残念そうな顔をしたが、男たちに向けてニヤリと笑みを浮かべると。


「ふふふふ! しかたねえなぁ! 今日は俺らのおごりだ野郎ども!!」

「「「「うおおおおおおお!!!」」」」


 酒場はすごく盛り上がるのだった。そうして夜も遅くなって多くの男が酔いつぶれる中、アツカンたちはへべれけで宿へと帰路を歩いていた。


「……なあ、オマエラよお。俺たちが冒険者になった崇高な理由は覚えてるよな?」

「もちろんだ」

「忘れるわけがないだろう」


 この三人は本来、魔物よりも人間と戦う方が向いていた。


 なんなら三十人程度の数を率いることは、冒険者よりもよほど適正があっただろう。


 だがこの三人はその才能を捨てたのだ。天職であった盗賊の親分ではなく、やや不向きなはずの冒険者になった。


 それにはとてつもない大きい崇高な理由がある。


 アツカンの三人たちは酔っぱらって真っ赤になった顔で、互いに腕を出して空に掲げた。


「我ら三人!」

「生まれた場所は!」

「違えども!」

「「「モテる時は同じ日同じときを願わん!!!」」」


 彼らが冒険者になった理由はモテるためだった。アツカンたちは酒の酔いかいきなり号泣し始める。


「くそう! 昔から老け顔のせいで全然モテねえ!」

「腕っぷしには自信があるのによう! 寄って来るのは男ばかりだちくしょう!」

「なぜあんなヒョロくて弱い奴がモテて! 強い俺たちがモテないんだああああああ!」


 彼らのパーティー名は【熱き黒鉄の漢たち】である。


 なぜ彼らがパーティーとしては少ない三人組で、かつ漢と断言しているかの理由は簡単だ。いくら誘っても女の子が入ってくれないので、もう女なんていらねえと酒の席で決めた名前だからである。


「おかしいよなあ!? こないだもランキング外の冒険者パーティーの男が、女を侍らせているの見たぞ!?」

「何故だ!? 何故俺たちの魅力に誰も気づかないんだ!」

「こんなに有り余る力を持っているのに!」


 三人の毛深い腕の筋肉が膨張する。彼らはかなり毛深かった。


「やはり冒険者ランキング三位じゃダメなんだよ! 一位を取らないと! 女神の四剣を見てみろよ! あいつら女の子にもモテモテだぞ!? 女しかいないのに!」

「ぐっ……負け惜しみを言うんじゃない! 惜しむ暇があれば取りに行くぜ! 俺たちも一位にさえなれば、女の子を侍らせることができるはずだ!」

「おおともよ! 俺たちの力を見せてやろうじゃねえか!」


 三人が吠える光景はまるで山賊たちの勝どきのようであった。


 彼らアツカンは見た目こそ山賊だが優秀な冒険者だ。全員が重い斧を片手で振り回し、さらに見た目に反して攻撃魔法や回復魔法も扱える。


 挙句の果てには弓もけっこう上手と、オークが斧を持ってるような雰囲気とは裏腹に敵によって立ち回りを変える戦闘スタイルだ。


 山賊頭三人組の見た目に反して、パーティーとしての評価は優秀な器用貧乏であった。


「……こんなことなら、以前に紹介された魔法使いの女の子を入れたらよかったんじゃ。ほらルメスちゃんっていう他所で追放されたよ」

「バカ野郎! 俺たち三人組にいまさら少女なんて入れたらよお……間違いなくパーティーが崩壊するわぼけぇ! 俺たちはもう漢を貫くしかねえんだよ! 甘えんな!」

「た、たしかにそうだ! すまねえ! 俺は甘えていた!」


 なにに甘えているかは不明である。


「もしくはルメスちゃんが俺たちの魅力に耐えられず、またパーティーから出ていくことになるだろ! どっちにしても女の子を泣かせたらダメだろうが!」

「たしかにそうだ!」

「その通りだ! 俺たちは熱き黒鉄の漢たち! 熱い心は鋼のように硬く、決して女を泣かせねえ!」

「まあ泣かせるような女もいないんだがな」

「「おいやめろ」」

「そういえば知ってるか? 最近、冒険者ギルドの指南役に来た魔法使いが巨乳で綺麗なんだと。だからよ」

「みなまで言うな」

「行くぞ」


 山賊頭三人衆は今日も行く。


 冒険者として今日も行く、全てはモテるために……。


 アツカンたちは魔法使いの指導によって、魔法と回復術のステータスが上昇した。


【熱き黒鉄の漢たち】・・・前衛力D 後衛力D 魔法E➡D 回復術E➡D


 なお彼らがモテないのはランキング順位ではなくて、純粋に不潔っぽいのと暑苦しいからであった。

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