第16話 満足度アンケート


「市長、冒険者たちの満足度アンケートが集まりましたです」


 冒険者満足度アンケート。それは冒険者がこの都市にどれくらい満足しているか、また不満があるかを聞き取った結果だ。


 以前に取るように動いていたがようやく集まったというわけだ。


「お、助かるよ。さてどんな感じかなっと」


 エリサから数枚の紙を受け取って目を通すと。


『もっと金寄こせ』

『素材の買取価格を十倍にしろ』

『娼館作れやぶはは!』

『無料の酒場と宿屋を作れ』

『女神の四剣に入りたい』

『エリサちゃん寄こせ』

『性格悪い奴が市長やってるのダメだと思う』

『市長死ね』


 なるほどなるほど。これが冒険者の忌憚なき意見かー……。


「市長!? アンケート結果の紙を破いたらダメなのです!?」

「放せ! 最後はいくらなんでもただの暴言だろうが!」


 アンケート用紙を破きそうになると、エリサが俺の両手を掴んで止めて来た。


 少しすると落ち着いたので改めて紙に目を通すと。


「いやこれいくらなんでも酷いだろ。大半が満足度アンケートじゃなくてただの願望と暴言じゃん」

「冒険者は荒くれ者ですからね……言葉もむき出しの刃なのです」

「よし歯に衣着せた言動を強制させる政令を出すか。これからは好き勝手な発言は禁じよう」

「言論統制はやめるのです!」


 エリサに冗談を言いつつ残りの紙も目を通していくと、二枚目以降はわりとまともなことが書いてあった。


 鍛冶屋が少ない、腕を磨ける場所が欲しい、公式の魔物ガイドブックが欲しいなどなどだ。


 まず一つ目の鍛冶屋が少ない問題だが、これは迂闊には解決できない問題だ。なにせ我が都市の筆頭鍛冶屋であるメイアが、すさまじいコミュ障かつ経営などが下手くそだからだ。


 そのため下手にてきとうな鍛冶屋を入れると、そいつが我が都市の鍛冶関係を乗っ取ってしまう可能性がある。ギルドとか組まれると面倒だしな。


 もちろん俺も鍛冶屋不足を指をくわえて見ているわけではない。ちゃんと鍛冶屋を一店舗増やしているので仕事はしているのだ。


 ……冒険者の増える速度がすごいので追いついてないだけで。


 それと近くのドワーフの集落に招待お手紙を出したりしているので、彼らが受けてくれたらこの問題も解決できるだろう。


 ドワーフはいいぞ。腕は確かだし必要以上に商売っ気を出さないからな。まさに職人気質の者たちなのでメイアとも話が合うだろう。


 これが人間だとまず最初に自分の特権を無理やり作って、なるべく悪いモノを高く売ろうとする奴が多いんだよ……。


「鍛冶屋の数はひとまず現状維持だ。ドワーフたちの返事待ちだが……武器が不足するのは困るから、武器関係の関税を下げるとするか」


 我が都市に入る時の入街料とは別に、商人は商品に対する税を払わなければならない。その税を武器に限って優遇しようというわけだ。


 自前で作るのでは足りないならば、少し高くつくが外から武器が入って来ることにしよう。

 

「次に腕を磨ける場所だが、引退した優秀な冒険者を雇い入れるか。そいつらに若手の指導をさせよう」

「いいんです? 優秀な冒険者の人が教えるのも優秀とは限らないのです」


 エリサの言うことは正しい。


 冒険者として優秀だったからと言って、指導者としても優れているとは限らない。それこそ身体能力に頼って結果を出してきた剣士は、だいたいの場合教えるのが下手くそだ。


 俺が一度指導を聞いてみたらこんな感じだった。


『思いっきり剣を振ったら敵は死ぬんだよ! 死なないなら弱いところを見つけろ! 見つけ方? そんなのなんとなく観察すりゃ分かるだろ! 敵の察知は肌がひりつくのを感じろ! ぶはは!』


 とかいう力のゴリ押しと勘に頼った常人には真似できない教えだった。


 教えることに関してはむしろ優秀ではなかった者の方が、案外上手だったりするのだ。自分が出来なくて苦労してきたからこそ、そのことへの対策も理論的に考えていることが多い。


 だがそれでも優秀だった冒険者を、指導力が低くても指導者にしなければならない。何故なら、


「……結果を残した指導者じゃないと、そもそも指導される側の冒険者が話を聞かないんだよ」

「あー……」


 実績がないコーチの言葉は誰も聞いてくれないんだ。ましてや冒険者は荒くれ者で腕力が支配するので、弱い者の発言は無意味に等しい。


 いくら優秀なコーチでも生徒が話を聞いてくれなかったら無理だ。それなら優秀だった冒険者に僅かでも役立つ話をしてもらった方がいいだろう。


 それにアフロンの指導が合う奴もいるからな、たまに。


「それとコーチに関してだが可能なら綺麗な女性にしてくれ。そっちのほうが野郎どもは集うし、女性冒険者も気兼ねなく教われるからな」

「わかったのです」

「最後に公式の魔物ガイドブックだがこれはいいかもな。戦う魔物の知識がなくて負ける冒険者も多いし」


 魔物ガイドブック自体は存在する。


 だがどれも個人が書いている本であり、嘘も混ざっていて信憑性に欠けるのだ。なのであまり読まれないが、公式で正しい情報ならば読む者も増えるだろう。


 冒険者に正しい魔物の知識を広めるのは大きいからな。知識のあるなしで勝ち負けが変わることもある。


「でも冒険者は本を読みませんよ? それに本にすると高くなっちゃいそうです」

「そこは貸し出し制にするとか。なんなら冒険者ギルドにポスターとして張り出すのもいいかもな。俺たちは利益を出すのが目的ではなくて、冒険者にダンジョンを攻略してもらいたいのだから」


 そうして冒険者ギルド建物の端の方に、各階層ごとに出てくる魔物とその対策を書いた紙を張り出すことにした。


 すると冒険者たちはその紙を見て口々に。


「へえ。オーク相手には匂い玉が効果的なのか」

「アンデッドの肉に反応する習性を利用して、生肉を放り投げて罠にするか……初めて知ったよ」


 などと冒険者たちに好評だった。


 なお最終的にこのコーナーの一番の人気記事は、各魔物の美味しい食べ方になったけどな!


 やれオークの弱点は心臓と肝だが、心臓は美味しいから殺すなら肝を狙えだとか……結局食い気かよ! 


 ……心臓美味いのか。俺もちょっとダンジョン潜って狩ってこようかな、オーク。

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