第15話 エルフたちとの話し合い


「市長。なかなか九階層の攻略が進みませんね」


 執務室で仕事をしているとエリサが紅茶を入れてきてくれた。


 第九階層が開かれてから百八十日が経ったが、まだ階層ボスまでたどり着けていない。普通の階層ならそろそろ突破されそうなものだが、けっこう苦戦しているようだ。


 だが仕方がない。第九階層に多くいるゴーレムは昼夜問わず動き回る魔物で、しかも遺跡内部のため昼夜がないのが辛いのだ。


 夜は冒険者はキャンプするしかないが、魔物もまた大半は眠るので結果的に休むタイミングになるのだ。だが昼夜がないとなるとその休むタイミングがとりづらい。


 しかもゴーレムは眠らないので比較的安全な時間もない。休む時もずっと警戒し続けなければならないのだ。


 そのため冒険者たちは心身ともに疲れ果てて、普段よりも早めにダンジョンから出る者が多い。結果としてダンジョン攻略も遅くなるわけだ。


「ゴーレム階層はそんなものだ。まあそこまで心配しなくて大丈夫だよ。ゴーレムはアンデッドと違っていい素材を落としてくれるから、冒険者たちもそれなりに潜るしな」

「こう考えるとアンデッド階層って本当にダンジョン都市泣かせですね」

「それな」


 話しながら書類にサインをしていると、エリサが古ぼけた紙を手渡してきた。


「市長。エルフの集落からお手紙なのです」

「エルフから? いったいなんだろう」


 エルフたちは現在、我がダンジョンの第一階層に集落を作っている。


 第一階層は普通の森で普通の獣が多く出てきて、しかも定期的にリポップするのだ。ダンジョンなので魔物もいるが基本的にかなり弱い。


 なので狩猟民族のエルフたちからすれば、肉取り放題のすごく住みやすい場所なのだ。そのため誘ったら来てくれた。


 そして集落の腕利きが我が都市で冒険者として活動しているので、うちのダンジョン攻略の力になってくれている。つまりお得意様なので要望などあれば叶えたい。


「なになに……ゴーレムの素材が大量に欲しい。代わりに我らの秘伝薬を差し出す……まさかエルフの秘薬か!?」

「エルフの秘薬ってなんです? いい薬なんです?」

「病を患っている者が飲めば、どんな病気も瞬時に完治する薬だ」

「それはすごいのです!」


 エリサは褒めたたえるが俺は首を横に振った。


「いやすごくない。ここまでならものすごくいい薬でしかないからな。エルフの秘薬が凄まじいのは健康な者が飲んだ時に、その身体をより優れたモノにする効能があることだ」

「つまりどういうことなのです?」

「特定の冒険者パーティーのステータスが上昇する」

「すごいのです!?」


 エルフの秘薬はダンジョン都市にとって貴重だ。


 なにせ有望な冒険者に飲ませれば力を得るのだから。剣士に飲ませれば腕力が強くなり、弓使いに飲ませれば鷹のように鋭い目を得て、魔法使いが飲めば魔力の上限が上昇する。


 ようはエルフの秘薬は身体が求めている能力を引き上げるのだ。なので病を得ている者は治癒力を上げて病気が治る。


「ゴーレムの素材を大量にというのは少し痛いが、エルフの秘薬はそうそう市場に出回らないからな」

「なんで出回らないんでしょうか。やはり作るのが難しいのです?」

「それもあるんだろうが、わざと村から出さないようにしてるとも聞いたことがある。そのほうが薬が貴重になって価値が上がるから」

「せ、セコイのです……」

「エルフはそういう交渉とかものすごく上手だぞ。なにせ俺たちよりよほど長く生きてるからな。一万年生きることもある種族らしいし」

「一万年も生きるってどんな気分なんでしょう? 途中で飽きないんでしょうか」

「逆に聞くが飽きたらどうするんだよ……よしさっそくゴーレム素材をエルフたちように確保する指示を出すか」


 俺は急いで指令書を書いて、冒険者ギルドに併設された素材買い取り屋に届けさせた。


 高く売れるゴーレム素材をエルフたちに渡すのは痛手だが、エルフの秘薬の希少価値を考えればおつりがくる。


「でもエルフはなんでゴーレムの素材なんて欲しがるんでしょう?」

「魔法の岩だからなにかに使うんだろ、たぶん」

「ところでエルフの秘薬は誰に渡すのです? やはり女神の四剣です?」

「おそらくな。だがひとまず様子見だ」



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 森にあるエルフの集落の広場に、崩れたゴーレムの身体だった岩が大量に運び込まれた。


 それを見て集落の長老やその側近たちは愉快そうに笑いだす。


「おお、いい岩じゃ。大量の魔力を纏っておるのう」

「これならば十分に鉄の代わりになりますな」

「うむ、我らエルフに鉄は毒だからのう。硬い岩が大量に手に入るとなれば逃す手はあるまいて」


 エルフは鉄の武器を使用しているが、決して好んで使っているわけではない。


 なにせ彼らが鉄に触ると肌がかぶれてしまうのだ。なのでエルフたちは矢じりなどのどうしても必要な物以外では鉄を使っていない。


 なのでエルフは全員が皮鎧の軽装で、そのため鉄の鎧に比べて防御力がすごく低いのだ。


 ゆえに優れた身体能力を持っているのに前衛力がかなり弱くなってしまう。


「他にも石包丁や石のクワなど色々なモノに使えるからのう。エルフの秘薬を出してでも得る価値があるわい」

「ではこの岩を皮鎧の表面に纏わせようかの。さすれば皮よりも丈夫になるじゃろうて」

「うむうむ。我らの兵士をダンジョンで活躍させれば外貨が手に入るからのう。ワシもオークの油で炒めた山菜が食べたいしのう」

「いいのういいのう。一万年生きてもやはり食欲はなくならんし、美味しいモノを食べるのが生きがいじゃわい。そうじゃ、ゴーレムの石焼芋はどうじゃ?」

「ほほう!」


 岩の鎧によってトェンティの集落(第一部隊)の前衛力が上昇した。


 前衛力F➡E 後衛力C 魔法C 回復術D



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鉄がかぶれると石器メインになりそうですね。

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