第12話 第八階層突破


「市長。現在の第八階層攻略状況の報告書なのです」

「待ってたぞ。うん、やはりエルフの加入は大きいな」


 エルフたちを第一階層に招き入れたことで、第八階層の攻略は進んでいる。


 彼らの弓の腕前や魔法は強力なため、鳥の魔物はバッサバッサと落とされまくっているらしい。


 報告書には現在の冒険者活躍順位も記載されている。


1.女神の四剣

前衛力C 後衛力D 魔法C 回復術C

2.トェンティの集落(第一部隊)

前衛力F 後衛力C 魔法C 回復術D

3.熱き黒鉄の漢たち

前衛力D 後衛力D 魔法E 回復術E

4.月光の牙

前衛力E 後衛力D 魔法D 回復術D


 相変わらず一位は【女神の四剣】だ。今回は後衛力の比重が大きいから、エルフに負けるかと思ったが流石と言わざるを得ない。


 二位の【トェンティの集落】は先日ダンジョンに移り住んだエルフの集落の名前だ。彼らは金稼ぎのために村の腕利きの兵士隊をダンジョンに潜らせていて、その第一部隊が二位の成績を叩きだしている。


 兵士をダンジョンに使うとあまりよろしくないのだが、この場合は出稼ぎみたいなものだからセーフなのだろうか。エルフは人と文化が違うので同じには語れない。


 三位はいつものアツカンである。安定していて特に言うことはない。


 そして四位に以前に追放されたルインを加えた、【月光の牙】が浮上してきた。


 なお実質ルインひとりで四位ということになる。今回の階層は後衛力が大事で、【月光の牙】は元々前衛三人だったからな。


 パーティーステータスだけ比べればアツカンも順位負けそうなものだが、そこはまだルインがパーティーに慣れてないとかだろう。


「なるほど。もう第八階層のボス部屋手前まで到着してるんだな」


 ダンジョンの各階層の一番奥にはボス部屋と言われる場所がある。そこに入ると階層ボスが待ち受けていて、そいつを倒すと下に降りる階段が開かれるというわけだ。


 だが階層ボスと言われるだけあって強い。知性こそないが大型の魔物であることが多く、単独のパーティーで倒しきるのはなかなか難しい。


 ……まあこれまでは女神の四剣だけで倒していたが。彼女らはこのダンジョンの基準を大幅に超える高いステータスを持ってるからな。


「今回のボスはヴァイオレットイーグル。女神の四剣は他のパーティーと協力してボスを倒すみたいです」


 ヴァイオレットイーグルは全長十メートルを超える巨大な鷹だ。素早く空を飛び回って、頑丈なカギ爪やクチバシは人間なんぞ容易く切り裂いてしまう。


 と言ってもあくまで翼を伸ばしきったら十メートルだけで、翼なしなら四メートルくらいだ。それでも大きいことは大きいのだが。


「流石のソールレイスも今回は単独での討伐は無理と判断したか。女神の四剣は比較的後衛が弱いからな」

「あの人なら自信満々に突撃すると思ってたです」

「いやそうでもない。あいつはムダを嫌うからかなり慎重に判断するぞ。今回も勝てる見込みはあるが、確実とは思えないから単独攻略はやめておいたんだろう」

「い、意外なのです……」

「ソールレイスは優秀なのは強さだけじゃないからな」

 

 そうでなければ俺はあいつのことを化け物と呼んでない。


 女神の四剣に五つ目の剣があるとするならば、それはリーダーがソールレイスであるという点だ。まじで冒険者としては優秀なんだよあいつ。人格はちょっとアレだけど。


「おそらく【女神の四剣】と【トェンティ】でボスは倒せるだろうさ。なんなら【女神の四剣】だけ戦っても九割くらいの確率で勝てると思うぞ」

「……そこまで勝率高いのに他のパーティーを待つです? 普通に挑んでもよさそうな気がするです」

「一割で負けたくないんだろ。いくら死んでも強制帰還札で地上に戻されて蘇生されるが、武器とか落としたら面倒だしな。それに精神的な傷は治らない」


 強制帰還札を持っていればダンジョンで死んでも入り口に飛ばされる。だが帰還札はパーティーの誰かが死んだ時点で強制発動して、その時に持っていないモノは持ち帰れない。


 そのため死んだ時に剣を落としてたら戻ってこないのだ。


 と言っても強制帰還札で戻れるだけでも大きいけどな。この都市以外では札は存在しないから、死んだら誰かが回収してくれるのを期待するしかない。


 もし死んだ場所が草の茂みの中だったりしたら、発見されるのにすごい時間がかかるからな。十年経ってから回収されて蘇生された冒険者もいたらしい。


 精神的なダメージも決して軽んじてはならない。殺されたのがトラウマになってダンジョンに潜れなくなったり、殺された魔物を見ると戦えなくなることもあるのだから。


「俺としてはボスを倒してくれたらなんでもいいけどな」

「そこだけはまったくブレないのです……」

「そりゃそうだろ。ダンジョン都市の長として攻略を進めるのは至上命題だ」


 そうして数日後、ヴァイオレットイーグルが討伐されたとの報告が入った。


 結局、【女神の四剣】と【トェンティ】が協力して、階層ボスを倒したらしい。ちなみに誰もキズ一つ負わずに楽勝だったそうだ。


 当然だろうな。【女神の四剣】だけでも九割勝てるし、【トェンティ】もおそらく七割がたは負けないだろう。そいつらが組んだら負ける要素がない。


 むしろヴァイオレットイーグル君涙目だったことだろう。


「それで次の階層はどんなタイプだ? またオークだったら嬉しいんだけど」


 オークは本当にいいぞ。冒険者は好んで潜ってくれるし、俺たちも素材を買い取って他に売れるから儲かる。


 オーク階層が浅い階に存在するかで、ダンジョン迷宮の命運が決まるとまで言われてるからな。


 そんな中でエリサが俺に報告書を渡してくる。その表情はなんとも言えない顔をしていた。


「次の階層は……ゴーレムなのです」


 ゴーレム階層。それはある意味、ダンジョン都市にとって最も厄介な階層だ。



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