第9話 ダンジョン市長視点で見る追放
「うーむ……やはり【熱き黒鉄の漢たち】はランキング三位か……自力はあるんだが伸び悩んでるなあ」
俺は執務室で報告書を見てため息をついていた。
無事にオークメインだった第七階層を突破したので、各冒険者の活躍度などを見てランキングを作っている。
一位はいつも通りに【女神の四剣】、彼女ら四人は文句なしに我が都市の最強冒険者パーティーだ。彼女らは階層との相性が悪かろうが抜群の結果を残す。
だが二位は【肉殺しの重装隊】だった。オーク相手には彼らのパワーによるゴリ押しが有効で、【熱き黒鉄の漢たち】よりも相性がよかった。
【肉殺し】のステータスは前衛力C 後衛力G 魔法G 回復術Fである。対してアツカンは前衛力D 後衛力D 魔法E 回復術Eだ。
オーク相手なら前衛職だけでごり押しできてしまったと。他の階層ならアツカンの方が優秀なのだが……結果としてまたアツカンたちは三位だ。実は彼らはこういうのばかりで万年三位なのだ。明らかに伸び悩んでいるというか、
「アツカンの人たち、少し落ち込んでたのです」
俺の横で控えていたエリサが淡々と告げてくる。
「だろうなあ……このままだとアツカンはやる気を失ってしまいそうだな。やや弱い魔法関係を補えればいいんだが。三人パーティーだしひとり入っても問題ないだろうし」
俺は一枚の冒険者パーティーの報告書を手に取る。
このパーティーの名は【竜の牙城】。この都市では上の下くらいの腕前で、もう少し伸びればトップ層に仲間入りというレベルだ。
だがこのパーティーには大きな特徴があった。【竜の牙城】のステータスが、前衛力G 後衛力D 魔法D 回復術Dなことだ。
こいつらは四人パーティーで三人が前衛、一人が後衛となっている。そして前衛三人ははっきりいって壁にもならないし、この都市でも下から数えて何番目くらいの腕前だ。
だが後衛魔法使いひとりが優秀なんだ。ルメスという少女なのだが、こいつだけでパーティーの力をかなり底上げしている。
いや他の三人がルメスの足を猛烈に引っ張っているの間違いか。なにせルメスが無能前衛三人組でも戦えるほどの支援魔法をかけて、かつ回復役もこなしつつ魔法攻撃もしてるらしいからな。
メンバー内で力の差があるパーティーは、実は珍しいことではない。冒険者は仲間に命を預ける仕事なので、力よりも信頼がおける奴と組むことは多い。
まあここまで力の差があるのは少し珍しいけどな。ただダンジョン市長の俺からするとすごくもどかしいというか、力の持ち腐れにも思えてしまうわけで。
しかもルメスという少女は性格も大人しいらしい。優秀なのにおごり高ぶってないのはさらに高評価だ。
「……ルメスが【竜の牙城】から脱退して、【熱き黒鉄の漢たち】に入ってくれないかなぁ」
「そしたら牙城が崩壊するですよ。残された他のメンバーが困るですし、そう上手くはいかないのです」
「だなあ。俺が三人の立場ならルメスは絶対に逃さないし、期待出来そうにないなあ……三人が冒険者に限界を感じて引退してくれたらいいんだけど」
そうすればアツカンの後衛が補強されて、彼らも今の万年三位から脱出できるだろうに。
そんなことを考えながら八階層攻略パレードとかして、翌日に冒険者ギルドの廊下を歩いていた時だった。
「ルメス! お前を追放する!」
などと扉の向こうの部屋から声が聞こえてきた。盗み聞きするのはよろしくないのだが、そもそも普通に耳に入るし気になるから立ち聞きしよう。
「ルメス! お前が足を引っ張るから俺たちはこの都市のトップになれないんだ!」
「そうだ! 俺たちが敵を倒している間、お前はなにをしてるんだよ! 弱い攻撃魔法しか撃ってないだろうが!」
「お前が火力を出せばもっと楽に勝てるのに!」
はて。俺の耳が壊れたのだろうか。
あのパーティーの無能三人組(名前知らん)が、有能な魔法使いを追放しているように聞こえるが。
「ま、待って! わ、わ、私は……」
「お前はもういらねぇ! 失せろ無能!」
「それか俺らの娼婦にでもなるか? ぐはは!」
「じゃあな無能!」
と意気揚々と部屋を飛び出す三人組。雑に開かれたままの扉からは、部屋の中で泣いてうずくまっている少女が見える。
……? ……?? ……??? 弱ったな、いくら考えても今の状況の理解が出来ない。
「なあエリサ。ルメスって冒険者はこの都市に何人かいるのか?」
「ひとりだけだったはずです」
「えっと? じゃあ【牙の牙城】の三人組が、唯一の優秀な魔法使いを追放したってこと? え? 無能三人が捨てられたとかじゃなくて?」
「少なくともいまの状況を見る限りだと、そうだと思うのです」
「???」
どういうことなんだ? 実は調査ミスで報告書が間違っていて、ルメスが無能だったってことか?
あ、そういうことか。それなら納得だ。無能三人組が超優秀な冒険者を追放するなんて、いくらなんでもあり得ないからな。
「おいエリサ。とりあえずあのルメスって少女を慰めてくれ。俺はアフロンから少し話を聞いてくる」
「はいなのです!」
そうして俺はギルド長室でアフロンに今のことを聞いてみたところ。
「いや調査ミスじゃないぞ? 間違いなく【竜の牙城】はルメスひとりのワンマンパーティーだ。他の奴らなんぞ一般人に毛の生えた程度の強さだが」
「じゃあなんでルメスが追放されたんだ? 話の筋が通らないだろうが」
「知らねえよ。なんかパーティー内で揉めてたんじゃねぇの?」
……本当に意味不明だ。いまだに頭がやや混乱しているが、でもこれは絶好のチャンスと言えるだろう。
ルメスを無能三人から引きはがして、アツカンに入れるのにこれ以上の好機はない。
などと考えているとアフロンが手をバンと叩いた。
「というかそれならよお。ルメスを【熱き黒鉄の漢たち】に紹介したらいいんじゃねぇか! ルメスは少し大人しいが性格も悪くないし、ちょうどアツカンの穴を埋められるぜ!」
「俺もそれを考えていたところだ。あっ、分かったぞ! あの【牙城】三人組たちはルメスのことを考えて追放したんだ!」
「お? どういうことだ?」
「あの三人組はルメスを追放したことで、自分たちから解放したんじゃないか? もう足を引っ張りたくないからとあえて突き放して」
「あーそういうことかよ!」
ようやく合点がいったとアフロンと顔を見合わせて頷いていると、エリサが部屋の中に入ってきた。
「市長ー。ルメスさんを慰めて来たです」
「ちょうどよかった。じゃあついでにルメスにアツカンに入らないかと誘ってみよう。アツカンにも聞いてみないとな」
「待つのです。それは無理なのです」
「なんでだよ? ちょうどアツカンの弱点である後衛を埋められるし、ルメスも新たな場で活躍できるし万々歳だろうが」
俺の完璧な策になんの問題はないはずだ。だがエリサは首を横に振ると、
「だって【熱き黒鉄の漢たち】ですよね。女の子は入れないのでは」
「「あっ」」
冒険者は難しい。本当に難しい。
ちなみにこの後、残念ながら【熱き黒鉄の漢たち】と話し合ったが、彼らは漢を捨ててくれなかった。
なのでルメスはまた別のパーティーに入って活躍している。アツカンに入って欲しかったが、まあ他の冒険者パーティーが強くなったからよしとする。
そして【牙城】だが意味不明なことに、本当にルメスを無能と思って追放していたらしい。
俺も信じがたいのだが言動とか行動がおかしいのだ。自分たちは都市でもトップクラスのパーティーだとか、足手まといが抜けたからいけるとか。
挙句にルメスに対して嫌がらせとかまで始めていたそうだ。
意味不明過ぎて理解不能だ。三人の逆恨みでルメスが都市にいづらくなると困るので、市長権限で無能三人はサウザン都市追放処分にしておいた。
そりゃあ優秀な冒険者を守るよ。俺はダンジョン都市の長だからな。
今回の騒動でルメスが入ったパーティーは【月光の牙】だ。彼らは全員が前衛なのでステータスは前衛力E 後衛力G 魔法G 回復術Fだった。
【月光の牙】は後衛がいないという致命的な弱点によって、今までは冒険者ランキングにかすらなかった。実際、攻略最下層に潜らずに、第二階層あたりで日銭を稼ぐくらいのパーティーだったからな。
だけどルメス加入によって以下のようになる。
【月光の牙】・・・前衛力E 後衛力D 魔法D 回復術D
まだパーティーの連携などが甘いからステータス通りの実力は発揮できないだろう。だがそのうち【熱き黒鉄の漢たち】を超えるかもしれないな……。
ただ……たぶんルメスについては【月光の牙】に入ったことで、また問題が起きると踏んでいる。その時にどうなるか次第だ。
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