第8話 なんで兵士で攻略しないの?


「そういえば以前から気になっていたことがあるのです。なんでダンジョン攻略は冒険者がやるのです? 兵士じゃダメなのです?」


 執務室で第七階層の攻略状況報告書を確認していると、エリサがそんなことを言い出した。


 ちなみに第七階層攻略は順調に進んでいて、【女神の四剣】パーティーが少し成長したとの報告も入った。


 この分なら階層ボスを倒すころには彼女らの魔法がDからCに上がりそうだ。


 【熱き黒鉄の漢たち】こと通称クロカンも頑張っているようだが、今回は新たに都市に来た【肉殺しの重装隊】ミートチョッパーズというパーティーに少し負けている感じだな。


 この【肉殺しの重装隊】ミートチョッパーズというのは、力自慢でパワーのある連中で揃ったパーティーだ。今回のオークみたいな重量級相手には相性がいい。


 なんか噂では元肉屋のメンバーで揃ってるらしいのだがまあそこはいいか。


 またクロカンたちは相性差でランキング三位かもなあ。


「おいおいこの言葉を知ってるだろ? ってな」


 ちなみにこの言葉の意味はいくら数がいても無意味……ではなくて、『労働者の考えを理解せよ』という意味だ。


 主に人を使うのが下手な上役に対して使ったりする。君は迷宮に兵士を挑ませる愚か者なのか? みたいな


「知ってますけど納得いかないのです。冒険者は扱いづらいし兵士の方がいいと思うのです」


 なおも納得しないエリサ。ダンジョンに兵士を使ってはいけないのは、この世界のことわざになるくらい常識なのに。


 まあ鵜呑みにせずに自分で考えるのは悪いことじゃないか。


「仕方ないな。じゃあこのことわざが生まれた由来である、過去にあった話を教えてやるよ。かつてとあるダンジョン都市が、お前の言うように兵士を集めてダンジョン攻略をしようとした」

「同じこと考える人はいたです」

「兵士は安定雇用だけあって大勢の人間が集まった。そして兵士たちは順調に階層を攻略していった。四階層までの攻略速度は世界で最速だったとまで聞く」

「やっぱり兵士の方がいいってことです!」


 エリサは自信満々に叫んでくるが、残念ながら話はここからなのだ。


「だが五階層で問題が起きた。とある兵士が待遇に文句を言い始めたんだ。褒美が少ないってな。そいつは軍のエースでこれまでの階層ボスを倒したのもそいつの五人隊だった」 

「活躍したなら報酬を多く払えばいいだけです! 軍がいっぱいダンジョンの素材を回収してるです!」

「そうだな。だが軍というのは当然ながら大勢いるわけで、ダンジョンの魔物には限りがある。なので活躍した奴にもそこまで多くは払えないんだ。払ったら軍が大赤字になってしまう。エリサが市長ならどうする?」

「じゃ、じゃあその人は辞めてもらうです。少しいなくなっても大丈夫です」


 エリサは見事に地雷を踏み抜いてしまっていた。というのもかつてのダンジョン都市も同じことをしたからだ。


「そうか。じゃあエースの五人隊は軍を抜けて他の普通のダンジョン都市に行ってしまった。彼らにはそちらの方が遥かに稼げるからな。そして軍は五階層を突破した」

「やっぱりいけるのです。少しくらい減っても軍ならカバーできるのです」

「だがここからだった。六階層で魔物が強くなりはじめて、そこらの兵士たちが負け始めたんだ」

「あっ……なんか嫌な予感がするです!?」


 エリサは悲鳴をあげたがもう遅い。


「それでもなんとか階層ボスまでたどり着いて勝てた。エースがいなくなったことで、以前よりは弱いが新たなエース五人隊が生まれていたからな。だが今度はその新たなエース隊が優遇するように求め始めた」

「同じことの繰り返しなのですっ!?」

「もう分かるな? 新たなエース部隊も抜けた。そして第七階層ではもうそこらの兵士は通用せず、いくら数がいても意味がなかった。一般兵の軍は壊滅。わずかに残った通用する者たちはこう考えた。自分たちだけで潜るなら国に分け前を払う必要はないと」

「あっあっあっ」

「これにてダンジョン攻略は失敗だ。エリサのダンジョン都市はつぶれてしまいました」

「そんなぁ!?」


 この話はダンジョン運営層の間ではそれなりに有名な話だ。


 戦争ならば相手は人間だから数は力となるが、敵が魔物となれば全然違ってしまう。


 例えば全長三メートルを超えるオーガという鬼に、そこらの兵士がいても薙ぎ払われて終わりだろう。おそらくみんなビビッて逃げていく。


「結局のところ、ダンジョン迷宮に必要なのは数じゃなくて質なんだ。だが優れた者たちはたいていの場合、束縛されるのを嫌う。自分たちで生きていられるからな。それにそこまで優れた奴なら、国の防衛とかにも使いたいし」

「今の冒険者を使った攻略の方が、優秀な人を多く扱いやすいってことですね……」

「そうだ」


 ダンジョン攻略は質が重要だからこそ、どうしても冒険者頼りの仕組みにならざるを得ない。


 だから俺たちダンジョン都市は今日も知恵を絞って、冒険者たちをうまく扱えるように頑張っているのだ。


「そういうわけだから新たに都市に来た奴で、有望そうな冒険者を探すぞ。そいつらを支援して、他のダンジョン都市に逃さずに伸ばさないとな。冒険者は量よりも質。しかも質が多く必要なんだから」

「厳しい界隈なのです……」


 優秀な冒険者が他の都市に行くことはあまりない。


 だってその都市でかなり優遇されていい思いしてるし、わざわざ環境を変える必要がないからだ。


 なのでダンジョン都市が成り上がるには、自前で冒険者を育てていくしかない。


 それこそただの兵士だけを多く用意しても、ダンジョンの攻略は難しいように。


 その冒険者の育成に失敗すると昔の俺みたいに、優秀な奴に大きな負荷がかかってしまうのだ。



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ワシが育てた



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