第2話 冒険者の仕事大嫌い!


 俺は日本の大学生だったのだが、気が付くと赤子になってこの世界に転生していた。


 幸運だったのは男爵家に生まれたことだ。この世界基準ではいい暮らしだったと思う。


 悪かったのは四男坊だったことだ。おかげで十四歳の成人と共に家から出て行って独立する必要があった。


 なので俺は赤ちゃんの時から必死に魔法を練習し続けた。すると才能があったようで魔法の腕はメキメキと上がって、家から出て冒険者になってたら自分で言うのもなんだが大活躍した。


 俺は十六歳にして【天雷の眠術使い】と恐れられて、世界トップの魔法使いだとか言われたのだ。


 だが当時の俺が考えていることはひとつだった。





^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^





 酒場で飲んでいると周囲の冒険者たちから声がかけられた時だった。


「天才魔法使い様じゃねえか! 次はいつダンジョンに潜るんだ?」

「あんたがダンジョンを攻略してくれたら俺たちも稼げるからな!」

「…………そのうちな」

「期待してるぜ! あんたならこのまま活躍すれば貴族にもなれるだろうさ!」


 不快さで顔をしかめるのをこらえて愛想笑いで返す。


 なぜ不快なのかというと…………ダンジョンに潜りたくないからだ。俺は居づらくなったので自宅に戻ると、エリサが出迎えてくれた。


「お帰りなさいですハヤネル様! 今日はどうでしたか?」

「はあ……冒険者引退したい……」

「いつも帰ってくるたびに言ってますよそれ」


 俺は魔法の才能はあったのだが、冒険者にはあまりにも向いていなかった。


 それは何故かというと――俺は、枕が変わると眠れないのだ。


 考えて欲しい。ダンジョンに潜れば一週間以上はそこで寝泊まりしなければならない。


 周囲にいつ魔物が現れるか分からないから寝れないし、しかも野宿で寒かったりするんだぞ。


 枕が変わると眠れない俺にとって、そもそも枕がないというのは地獄だ。俺はダンジョンに入るとまともに寝つけない。


 なのでダンジョン二日目にはすでに睡眠不足で死にかけ。階層ボスと戦う五日目頃にはもはや立ったまま寝落ちしかけている。


 なので俺はいつも意識を飛ばしかけながら、階層ボスを吹き飛ばしていた。それを見た周囲の奴らが俺を【天雷の眠術使い】とか【眠るほど強い男】とか勝手なこと言い始めた。


 なにが眠術だよ。純粋に寝落ちしかけてるから、ボスを瞬殺するために超火力の魔法放ってるだけだ。


 しかも辛さに追い打ちをかけるように、ダンジョンで食う飯は干し肉などのマズイ保存食ばかりだ。


 もうやだ、別に立身出世とかいいから、枕を変えずにふかふかのベッドでゆっくり寝たい。毎日美味しいモノ食べたい。


 というかダンジョンに潜りたくない。ストレス溜まりまくるし。


「数か月ほど休もうかな……」

「しばらくダンジョンに入らなかったら周囲から変に見られるです。それと冒険者ギルド長や市長が直々にやってきますよ?」

「来ないでくれ……」

「無理ですよ。ハヤネル様が引退するのは難しいのです。冒険者を引退すると生活に困るしそもそも周囲が黙ってないのです」


 エリサの言う通りだ。


 これが力の衰えた冒険者ならば引退は簡単だ。もう力が衰えたのでと言えば周囲も納得してくれる。


 だが俺は年齢で考えれば衰えるどころかここから伸び始めるくらいだ。


 そんな状況で冒険者を引退すると言えば、周囲から鬼のように止められてしまう。


「用心棒とかで食いつなげないかなぁ」

「いけるでしょうね。ハヤネル様は世界最強級の魔法使いですから、各国から魔術師団長として引っ張りだこです」

「それだけは絶対に嫌だ……」


 魔術師団長となれば各国との戦いに駆り出される。


 つまり戦争に参加させられて、大勢の敵兵相手に広範囲魔法を撃たされるのだ。そんなの絶対にゴメンだ、それなら比べるまでもなく冒険者でいる方がいい。


 そもそも俺としては毎日家に帰って暮らしたい。だが魔術師団長なんて死ぬほど忙しいし遠征とか絶対多いだろ。


 嫌だよ出張三昧の職場なんて。俺はひとつの場所で腰を据えて暮らしたいんだ。


 俺は貴族の生まれなのでいちおう字とか読めるし、日本の義務教育のおかげで計算もできる。なのでギルド職員とか考えたりもしたのだが、【天雷の眠術使い】の名が絶対に邪魔だ。


 たぶん上司に命じられてダンジョンに潜らされることになるだろう。断ったら職場にいづらくなって辞めるしかない。


「自分の魔法の力が活かせて、安定的に給料を得られて、周囲にも言い訳ができて、毎日家で寝れるような職場はないかなあ……」

「そんな都合のいい仕事ないのです」

「はあ……」


 俺はため息をついて寝て翌朝。ダンジョン市長のブレイアさんが俺の家までやってきた。


 彼は少し白髪の混じったイケイケ系のお爺さんだ。


「よおハヤネル。実はよ、今日は相談があって来たんだ」

「相談とは?」

「実はよ。お前を冒険者ランキングの殿堂入りにしたいと思ってな。どうだ? 名誉なことだろ?」


 ランキングの殿堂入りってなんだよ。


「……俺がずっと一位を取ると、二位以下の奴がトップになれないからですか?」

「ぶっちゃけるとそうだな! お前は年齢的にもこれからのくせにすでに断トツでトップだからなあ」

「勝手にしてください」


 冒険者を辞めたい身としては正直どうでもいい。


「それと俺からの指名依頼だ。第六十階層にドラゴンゾンビが現れたから退治してくれ」

「うええ……あいつものすごく臭いし、倒したらさらに匂うし汚い肉が散らばるんですよ。というか六十階層ってアンデッドは出ない階層でしたよね?」

「おう。ドラゴンゾンビは六十階層に見合わない強さだからな。退治しないと他の冒険者が潜れないんだよ」

「俺じゃなくて他の人をあたってもらうわけには……」

「ドラゴンゾンビを確実に倒せるのはこの都市でお前だけだ」


 だから嫌なんだよなあ……こういった汚れ仕事まで押し付けられてしまう。


 ダンジョンは階層が深くなるほど出てくる魔物が強くなる。


 だが俺が階層を次々と攻略させせいで、この都市の他の冒険者の質が階層のレベルに追いついてないのだ。


 なので俺だけ七十階層攻略中なのに、他のパーティーは最高でも五十階層とかになっている。なのでトラブルがあった時に俺じゃないと解決できないことが多い。


 ひとりに頼らないでくれ本当に。リスク分散という言葉を知らないのか。


「ブレイアさん。もし俺が冒険者を引退して魔法道具屋でも営むって言ったらどうします?」


 なんとなく聞いてみる。もしかしたら案外、勝手にすればとか言われたらいいなと思ったのだが。


「おいおい冗談きついぜ! もしそんなことになったら、俺と冒険者ギルド長の首が物理的に飛ばされるだろうなあ」

「そこまでですか?」

「当たり前だろ。世界最強級の冒険者を理由もなく引退させて、しかもダンジョンにすら関わらなくするとか」


 ……はあ。余計に引退しづらくなってしまった。


 思わずため息をつきそうになると、


「せめて他のダンジョン都市の市長になるとかなら、まだ話は別だろうけどな」


 などと興味深い言葉が、


「……ダンジョン都市の市長? なんでですか?」

「そりゃダンジョン都市の市長ならダンジョン関係の仕事じゃねえか。ダンジョンから魔物が溢れて都市が滅ぶことだってあるんだ。そんな緊急事態の最後の壁になりつつ、後進の冒険者たちのために尽力するなら言い訳つくだろ」


 ……市長ってことは安定した収入だよな? それに都市の政務をするんだから仕事は基本的に都市内で行うはずだ。


 それでいて力を持った上で引退しても言い訳つくし、上司がいないから無理やり命じられてダンジョンに向かわせられることもない。 


「まあそんなの衰え始めてからの話だが。そもそもダンジョン都市の市長は夢もないし誰もなりたがらな……」

「なります」

「ん?」

「俺、冒険者を引退してダンジョン都市の市長になります!」

「……は?」


 



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^





 この後真面目に話し合ったところ、やはりというかブレイアさんも懸念があったようだ。


 俺に頼り切りの現状ではなにかあった時にマズイと思っていたらしい。


 そのため俺はダンジョン攻略をやめて、一年ほどかけて緩やかに都市からフェードアウトしていったわけだ。


 そういった経緯で俺はサウザンダンジョン都市の市長になった。


 以前の冒険者の時の苦い記憶を活かして、地に足がついたダンジョン攻略計画を立てるつもりだ。


 なので俺はこの暮らしを守るためにも、ダンジョン都市をしっかりと運営しないとダメなのだ。



--------------------------------

面白かったり続きが気になりましたらフォローや★を頂けますと幸いです。

増えるほど執筆モチベが上がります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る