ダンジョン都市の市長ですが、都市経営はなかなか大変です! ~ダンジョン攻略のために都市を発展させて、強い冒険者を揃えていきます~
純クロン
第1話 ダンジョン都市の市長
「ハヤネル様! 冒険者がダンジョンの第五階層を突破しました!」
「よっしゃああ!!! あと俺のことは市長と呼べと言ってるだろうが!」
執務室で机に座って作業していると、秘書のエリサが部屋に飛び込んできた。
「すみません市長! ですがようやく我がサウザン都市のダンジョンも第五層を突破で……」
「エリサ! 出来ればゆっくり話したいが時間がない! 次の階層はどんな感じだ! 環境は? 出る魔物は?」
ダンジョン。それは地中に続いていく不思議な迷宮。
階層ごとに全然違う風景になり、地下なのに空があったり森があったり、強力な魔物が出てきたりと謎めいた場所だ。
ダンジョンは摩訶不思議な場所だ。しかしひとつだけ断言できることがあった。
「早く教えてくれ! それ次第で俺の動きも変わるんだ! 我が街を発展させて、冒険者にダンジョンを攻略させるためにも!」
ダンジョンは儲かる。なのでダンジョンの入り口を中心に、都市が作られるのだ。
鉱山都市はすごく価値があるが、ダンジョン都市もまたそれに劣らない。いやうまくやれば鉱山よりもよほど優れている。
なにせダンジョンはお宝や魔物が定期的に生成されて、基本的に枯れることはない。金ならとりつくしたら終わりだからな。
ならばダンジョンは金山の上位互換なのか? いやそれは違う。何故ならば……。
「第六階層は……アンデッドの巣窟です!」
そのダンジョンの中身次第で価値があまりにも変わり過ぎることだ。
「最悪だ! よりにもよってアンデッド!? あいつらロクな素材も落とさねぇのに臭いし剣じゃ倒しづらいしで!」
「アンデッドは嫌われ魔物ですからねえ……」
ダンジョンは金鉱山と違って倒した魔物の素材が収入源だ。
つまり出てくる魔物次第でそのダンジョンの価値は大きく変わる。倒しやすくて高い素材を落とす魔物が多ければ人気が出るし、逆ならばまったくダメだ。
その中でアンデッド。ようはゾンビとかゴースト系の魔物はどうか。論ずるまでもない。
汚い、臭い、危険、きつい、カッスカス(素材が)の5K魔物とか誰が好んで相手するんだよ!
アンデッド階層はダンジョン都市の告死層と言われている。アンデッドだからでもなく、冒険者が死ぬからでもない。
アンデッド階層が原因でダンジョンが攻略されなくなり、人が去って都市が死んでしまうからだ。
「市長! どうするです!? このままだと強い冒険者たちは、サウザンダンジョンに見切りをつけて街から去っちゃうです!」
この世界にはいくつものダンジョンがあるが、うちの都市のダンジョンはまだ攻略が開始されたばかりだ。
なのでうちのダンジョンに将来性がないと判断されたら、冒険者たちは他の儲けやすいダンジョンへ去ってしまうだろう。
残ったとしても攻略済みの五階層までが目当ての冒険者だけで、第六階層に入る者はいなくなってしまう。そうすればもうこのダンジョンは攻略されない。
ダンジョンの最新層は未開の地で情報がないので、攻略済みの階層に比べて危険は跳ね上がる。だが代わりに荒らされてないからお宝が多く眠っている。
たとえば少数のレアモンスターとかだ。知られたらみんな狙うから狩るのは難しいが最初ならば狩り放題だ。
なので腕に自信のあるやつはリスクを許容して最初の旨味を狙う。だがその最初の旨味が少ないなら誰も挑まない。
つまり我がダンジョンは現在の最深アンデッド層に挑む奴がいなくなり、攻略されなくなる。
「せめて二十階層くらい進んでからなら、間にいい階層もあっただろうけどなあ……」
「どうするです!? このままだと計画が全部パーです! サウザン都市の将来も終わりです!」
「第六階層は極力早く突破してもらって次の階層に進めるしかないな」
ため息をつきながら指令書を書いていく。
第六階層がアンデッドなのはもうどうにもならない。ならば一日でも早く冒険者に突破して頂くしかない。
「エリサ。至急、頼みたいことがある」
「はいっ! アンデッド対策ですね!」
「違う。まずは第五階層を突破した冒険者パーティーに街で凱旋させる。気持ちよく英雄になって頂いて、次の階層の攻略を避けづらくするんだ!」
階層を降りる階段の前にはボス部屋があるので、階層を突破したパーティーは階層ボスを倒したということになる。
つまり現在の我が街で最強の冒険者パーティーだ。我が街に見切りをつけられるわけにはいかない。
パレードしてもらった時に「この冒険者たちが次の階層も突破してくれるでしょう!」とか言えば、街の人たちの手前断りづらいだろう。
優秀な冒険者は逃さぬ……なんとしても……!
「せ、性格悪いです……」
「悪いのは俺じゃなくてダンジョンの第六階層だ! アンデッドの巣窟とか最悪の大外れだろうが! それに比べりゃ俺の性格なんてマシだろ! ほら早く行け! それですぐ戻ってこい!」
実際のところ、この都市はダンジョンと命運を共にしている。
ダンジョンの人気がなくなればこの都市も詰んでしまうのだ。なので多少強引にでも強い冒険者は確保しておかないと、街の人たちを路頭に迷わせることになってしまう。
エリサが部屋の外に飛び出した間に、俺は急いで指令書を書き始める。
「た、ただいまです! 第五階層突破記念パレードはすぐに開かれます!」
「よし! じゃあ次はアンデッド対策だ! まず今まで行っていた剣士優遇措置を取り下げて剣などの値段割引をなくす! 次に神官や魔法使いへの優遇措置として、魔力ポーションの割引を開始する!」
冒険者とひとまとめに言っても色々だ。
たとえば剣士、魔法使い、弓手、神官で全然戦い方も違うし、相性のいい魔物も大きく違うわけで。
たとえば物理耐性のあるスライムが多いダンジョンは、剣士や弓手に避けられがちだ。逆に魔法耐性のあるローパーという触手の魔物相手だと、魔法使いは無用の長物になり果てる。
そんな中で第六階層のアンデッドに相性がいいのは、やはり魔法使いや神官の類だ。逆に剣士や弓手は最悪だな。
ゾンビの類は剣や矢ではなかなか死なないし、ゴーストに至ってはそもそも攻撃が通じないから殺せない。いやアンデッドはもう死んでるんだが。
「えっと。神官と魔法使いを少し優遇ということでいいです?」
「違う。第六階層が突破されるまでこの街は魔法使い至上主義だ! 筋肉よりも頭脳が評価されるんだ! 脳筋に居場所はあんまりない!」
「第六階層突破されたらどうするです?」
「お帰りなさい力自慢様。いい筋肉してますね」
「なかなかひどいのです……まあ他のダンジョン都市でも同じことやってるですが……」
魔法使いや神官が欲しいので我が街に集まるようにするのは、ダンジョン都市の仕事の一つである。第六階層を突破するのにはそれなりに強い剣士よりも、弱い魔法使いや神官の方が役に立つからな。
ちなみに第五階層はローパーの巣窟だったので、剣士が欲しかったから剣とか割引してた。
都市都合で優遇者が変わるのは冒険者界隈では常識だ。自分たちを優遇してくれるダンジョン都市を移り住む、『渡り鳥』と言われる冒険者パーティーまでいるくらいだからな。
「で、でもポーションだけで来ますか……?」
「もちろんそれだけではダメだ。なので魔法使いや神官に限り、第六階層突破まで素材買い取り手数料を割引する」
冒険者たちが魔物を倒した後、素材はだいたい都市運営の買取屋で売られる。なので俺の一声で買い取り価格は変えられるのだ。
「買い取り手数料の割引ってどれくらいです? アンデッドはロクに素材を落とさないから、多少割り引いても普通の魔物相手の方がよさそうで……」
「ゼロ」
「ゼロ?」
「買い取り手数料ゼロにする。つまり俺たちの儲けがゼロの慈善事業」
「……大赤字なんてレベルじゃないですよ!?」
「仕方ないだろ!? そうじゃないと誰もアンデッドの階層なんて攻略してくれないからな!?」
くそっ! 血を流さないアンデッドのせいで、俺たちが出血大サービスさせられるとか最悪だ!
「それとこの都市での布教活動を支援すると広めてくれ。そうすれば各宗派の神官が集まって来るだろうから」
「いろんな宗派を集めたら喧嘩になりません?」
「治安の悪化よりもダンジョン攻略が優先だ。なに神官が多ければ喧嘩しても回復魔法でなんとかなるだろ」
「ひどい……」
「いいんだよ。宗教戦争よりもアンデッド特攻の聖水が安く出回る方が大事だ。さあ急げ!」
「は、はいです!」
そうして百八十日くらい経ったころ、無事にダンジョン第六階層は突破された。本やポーションを割り引いて、魔法使いや神官を集めたのが大きかった。
前衛職にとってアンデッドは最悪の敵だが、後衛魔法職にとっては逆だ。動きの遅いアンデッドは近づく前に倒せるので、そこらの魔物よりも遥かに弱いからな。
「なんとかなったなぁ」
「本当に宗教戦争が勃発しかけた時はどうなるかと思ったです……。でもまさか、それを悪用するとは……」
「悪用なんてしてないが?」
「対立した教徒たちに『正しい宗教はアンデッドをより多く倒せるのでは?』とダンジョン攻略させたです! アンデッドを探し求める教徒たちの方がアンデッドみたいでしたよ!?」
「いいじゃん。結果的にダンジョンは攻略できたし、教徒たちにもちゃんと素材とかの費用は払ったし」
ちなみにダンジョン攻略を進めたのは教徒たちの力が大きかったが、階層ボスを倒したのは第五階層と同じパーティーだった。
相手がボスとなるとやはり数ではなく質、優秀な冒険者は残しておいてよかった。
「まあそんなことより次だ次。次の階層のために都市の仕組みを変えないと」
ダンジョン都市の運営は大変だ。
なにせダンジョンはまったく俺たちの思い通りにならない。いきなり階層の魔物が異常発生したり、次の階層が大外れだったりとメチャクチャだ。
だがやり遂げなければならない。冒険者たちにダンジョンを突破して頂かなければならない。
だがそれは冒険者たちだけの力じゃない。冒険者にだって食事も武器も道具も、衣食住その他にもなにせ色々なモノが必要だ。
そんな彼らをサポートするのが俺たちダンジョン都市だ。
ではなんで俺がここの市長になったのかというと……俺は冒険者の仕事が大嫌いだからだ。
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