第6話 鍛冶屋


 ダンジョン都市の市長の仕事は多岐にわたる。


 冒険者ギルドとの折衝から素材買い取り、冒険者ランキングの作成などなどだ。そして今日はそのうちのひとつである、都市が運営している鍛冶屋に来ていた。


「お留守ですかね? 受付に誰もいないです」


 エリサが首をかしげる。だが店の奥の作業場からカンカンと鉄を打つ音が聞こえる。


「メイア! 入るぞー! よし返事がないから入るぞ」


 メイアはこの鍛冶屋の店主の名前だ。だが叫んでるのに返事がないから、俺は店の奥へと入ることにした。


「いいんです? 普通は返事がないなら出直すべきでは?」

「いいんだよ。ちゃんと事前に行くことは伝えてるし。どうせ鉄打ちに夢中になって忘れてるだけだろ」


 奥の作業場に入ると作業台で鉄を打つ少女がいた。


 彼女こそがメイア、我がサウザン都市唯一の市営鍛冶屋の店長だ。少し幼い容姿で長い赤髪を雑にくくっている。


「おいメイア。鍛冶屋の聞き取り調査と今後の商品の相談に来たぞ」

「…………」


 メイアは俺たちの声をかき消すように、さらに鉄を叩く音が大きくなる。こちらを一切見ようとせずに鉄をガン見していた。


 彼女は鍛冶師としての腕は最高なのだが、ちょっと気性に問題がある。


「次の階層はオークが多く出る。だから肉厚な敵を斬りやすい剣を量産してくれ。あと引き続き【女神の四剣】のパーティーには商品を半額で売ってくれ。【熱き黒鉄の漢たち】には二割引きだ。【天の代行者】は割り引かなくていい」


 ダンジョン都市は優秀な冒険者たちを優遇している。そうすることでダンジョン攻略が進む上に、他の冒険者たちが憧れてモチベアップに繋がるからな。


 この鍛冶屋以外でも市営の店に関しては、期待している冒険者はかなり割引が入る。


「…………」


 メイアはそっぽを向いたようにカンカンと鉄を叩き続ける。相変わらず気難しい奴だ。


 それを見てエリサは心配そうに俺に尋ねてくる。


「あ、あの市長。メイアさんは返事してないけどいいんです?」

「いいんだよ。こいつは気難しい奴だが俺はそれを承知して雇ってる。こいつの鍛冶の腕前は天下一品だ。いずれは世界最高の鍛冶屋も夢じゃないと思ってるからな」

「珍しくべた褒めなのです……。いったいなんの裏があるですか?」

「なんで俺が褒めたら裏があると思うんだよ……純粋に期待してるだけだ」


 メイアは気性難以外に欠点はない。トップクラスに攻略が進んでるダンジョン都市でも通用する武器を造る腕がある。


 だが性格的にいつも誰かと喧嘩してしまうので、腕があるのに店を持てないでいた。


 そのため俺がスカウトしてきたのだ。基本的に我が都市のメンバーはこういうが多い。


 例えばアフロンも歯に衣着せずに上に噛みつく性格なので、都市の上層部に嫌われがちだ。他のダンジョン都市では市長に嫌われて、冒険者ギルドの長にはなれなかっただろう。


 もちろんまだ既得権益が埋まっていない、新しいダンジョン都市だから出来たことではあるのだが。


「それとよく斬れる剣とは別にメイアに頼みがある。オークに特攻のある武器を発明して欲しい。オーク以外への性能は無視でいいから、その分だけオークは簡単に殺せるような」

「…………」

「いいんです? 冒険者が相手をするのはオークだけじゃないですよ?」

「いいんだよ。いずれ第七階層が攻略されて狩場になった時、オークを簡単に倒せる武器が欲しい。そうすれば第七階層は冒険者たちが稼ぎながら経験を積める、登竜門的な階層になるだろう」


 俺たちダンジョン都市が考えることは、いかに優秀な冒険者を自前で成長させて増やしていくかだ。


 というのも他のダンジョン都市で活躍している冒険者は、あまり他の場所に移動してくれないのだ。


 優秀な奴らは今いる都市でもチヤホヤされてるし、わざわざ活躍する場所を変える必要がないからな。


 ただ冒険者を成長させるというのは簡単ではない。成り立ての初心者を除いて、冒険者はなるべく危険を冒さないように動くからだ。


 彼らにとってダンジョンとは日々の稼ぎ場だからな。なるべく危険なく安定した稼ぎを重視する。


 それは間違ってはいない。誰だって危険な思いはしたくない。


 ただその結果として必要以上にリスクを避けて、あまり経験を積めずに伸び悩む者が多いのもまた事実。


 なので俺たちはそんな冒険者の背中を少しだけ押すのだ。


「そういうわけだから頼むぞ、メイア。それと可能なら少し軽い鎧も作ってくれないか? 後衛向きの動きを阻害しないやつ」

「……」

「それと都市にもうひとつ鍛冶屋を作ろうと思うんだが。誰かいい知り合いとかいるか?」


 メイアは俺への返事の代わりに、カンカンカンと三度鉄を強く叩いた。これは否定の意だ。


「それは残念。じゃあ帰るな。オーク特攻の武器、期待してるからな!」

「あ、あの。メイアさん、一言も喋ってませんけど……」

「いいんだよ。こいつは口ではなくて腕で語るタイプだから。というか下手に喋ると喧嘩になるんだよ。以前にも店の客と喧嘩してたからな」

「き、気難しいにもほどがあるのです……」


 そうして俺たちは鍛冶屋を去るのだった。


 これから二カ月後、豚殺しの剣が開発される。この豚殺しの剣を使っての修行によって、冒険者たちは経験を積みつつ金を溜めることが出来るようになった。


 やはりメイアは有能だ。彼女が我が都市お抱えの鍛冶師であることは、今後のダンジョン攻略における強力な武器になるだろう。


 鍛冶師に必要なのは口ではなくて腕なのだから。


 ……代わりに他の鍛冶屋を用意するのに気を使うけどな。下手に鍛冶屋を多く呼んでギルドでも作られると、口下手で腕だけいいメイアは村八分にされかねないし。


「じゃあメイアと仲良くできそうな鍛冶屋を探すか」


 都市内の人間関係にも気を使う。これがダンジョン都市市長の仕事……なのか? メイアの個人的都合が大きすぎる気がする。まあいいや。


 またメイアの後衛用鎧のおかげで、弓使いなどがより動きやすくなり、都市の冒険者のステータスが少し上昇した。


 特に大きいのは【熱き黒鉄の漢たち】だろう。今の彼らのステータスはこんな感じだ。


 【熱き黒鉄の漢たち】・・・前衛力D 後衛力E➡D 魔法E 回復術E


 我が都市暫定二位のパーティーの後衛力が上がったのは大きいな。今後に期待できそうだ。



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こんな感じで冒険者が育っていく話でもあります。

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