第5話 アンデッド素材の処理


「なあエリサ。アンデッド素材ってどうやったら売れると思う……?」

「あんなの売るの無理と思うのです」


 俺は市長屋敷の執務室で机の突っ伏していた。


 理由は簡単。第六階層で大量に買い取ったアンデッド素材を、どう処分するかで悩んでいるからだ。


 アンデッドの敵はゾンビ、スケルトン、ゴースト系だ。なので素材も骨や腐った肉、ゴーストは魂の球を落とすくらいである。


 ただ冒険者は腐った肉なんて拾わないので、実際は骨や魂の球ではあるのだが。


 冒険者に第六階層を攻略してもらうために、素材を買い取ったがはっきり言って使い道がない。


「売れないと困るんだよ。アンデッド素材購入に多くの金を払ったから、損するにしても少しでも元を回収しないと」

「無理なものは無理なのです! 諦めて全部燃やしてしまうのです! 都市にそんなのいっぱいあるのは不衛生です!」


 エリサが辛辣だが仕方ない。アンデッドの一部なんて近くに置きたいものじゃないしな。


「骨なら畑の肥料にできるんじゃないです?」

「それは俺も考えたんだが……」

「だが?」

「アンデッドの骨を肥料にした作物食べたいか?」

「……嫌です」

「だろ?」


 アンデッドというのは本当に最悪だ。


 アンデッドってつくだけでだいたいのモノの価値が下がるんだよ。なんか呪われてる気がするし気持ち悪いから。


 アンデッドの持ってた剣、アンデッドで作った肥料、アンデッドの落とした宝石などなど。


 ダンジョンだってそうだ。アンデッドダンジョンとか絶対に嫌だろ。


 アンデッドは呪いの言葉だ。 


「なのでアンデッドであることを鑑みた上で、それでも欲しがる価値を付与しないと売れないんだ。ただそんな簡単に思いつくものでもない」

「そりゃそうです。簡単に思いつくなら誰かがやってるです」

「こうなったら強制帰還の札とアンデッドの骨をセット販売するか……? 強制帰還の札は需要死ぬほど高いから嫌なモノついても需要あるし……」

「そんな地獄みたいな嫌がらせセット販売はやめるです!? アンデッドの骨だけ捨てられるのがオチですし、冒険者たちの不満が爆発しますよ!?」

「だよなぁ」


 スケルトンって人の骨の魔物だから、素材に使い道がないんだよな。せめて臓器が残っていればワンチャンあった……いやどうせ腐ってるだろうからゾンビで要らないか。


 これが人じゃなくてドラゴンの骨であれば、丈夫だから武器とかに使えて有用なのだが。


「はぁ……スケルトンの時は痛みを感じないから、ダメージ与えても怯まない厄介な魔物なのになあ。動かない骨に価値なんてない……」

「いっそアンデッドの骨でゴーレムにしちゃえばいいのです。そうすれば動くのです」

「それゴーレムでよくない?」


 骨だけのカラカラスケルトンよりも、岩のゴーレムの方が強いに決まってる。


 この世界ではゴーレム作成の魔法はある。だが作成に多額の費用がかかる上に、ゴーレムが馬鹿すぎてすごく扱いづらい。


 具体的にはちょっとの段差でつまずいて自重でぶっ壊れてしまう。なので岩のゴーレムだろうと微妙なのである。ましてや骨など作るだけ骨折り損だ。


「あーダメだ! やっぱり思いつかない!」

「もう諦めて処分しちゃうのです。倉庫を圧迫してますし」

「諦めたら金の山を処分するのと同義だぞ!? 買い取るのにどれだけ払ったと思ってるんだ!」

「ただの骨の山なのです……こんなの見て喜ぶのは犬くらいなのです……」

「……犬の亜人に売れないかな、骨」

「流石に人の骨は売れないと思うのです……もう捨てちゃうです」

「待って!? まだもう少しだけ置いといて! なにかの役に立つかもしれないから!?」

「なんの役に立つんですか……もう」


 そうして捨てずにとっておいた骨だが数週間後。


 またまた屋敷の執務室で書類仕事をしていると、アフロンがすごい剣幕で部屋に入ってきた。


「大変だ! 第一階層に獰猛なヴァイオレットウルフが多数出現しやがった! 冒険者たちが何人もやられたんだ!」

「なにっ!?」


 ダンジョンはたまに、本来その階層にいない魔物が出現することがある。そうなると階層の難易度が狂って冒険者たちが酷い目に合うのだ。


 第一階層は普通の森の階層だ。出てくるのはゴブリンを除けばほぼ獣で、ルーキーの冒険者が経験を積む場に使われている。


 そんなところにいきなり獰猛な狼の魔物など、まさに初心者狩りとしか言いようがない。速やかに駆除しなければ第一階層は使い物にならないだろう。


「だから俺たちに都市からウルフ討伐の公式依頼を出せ! そうすりゃすぐに動ける!」

「あ、あの。冒険者ギルドの方で討伐してくれないです?」


 エリサが少し怯えながら告げるとアフロンは鋭く睨み返す。


「そんなことしたらうちは大損だろうがっ! 俺たちは冒険者のための組織であって教会のような慈善事業団体じゃねえんだよ! 俺らの仕事はなぁ!」

「冒険者たちが活動できるように上から金をとって来ることだろ。ちゃんと公式依頼は出す。討伐依頼ではないけどな」

「あん? 討伐じゃないならどんな依頼だよ」


 ヴァイオレットウルフは強いので討伐依頼を出すと高くつく。なので今回は避ける。


 じゃあどうするかだが、ヴァイオレットウルフは肉食だ。そして犬の仲間なので骨も食べる。そう骨だ。


 骨といえばうちにはいま、大量の在庫が有り余っているわけで。


「毒エサによる駆除依頼をギルドに出す! 我が都市がこのために蓄えた骨に毒を塗って、第一階層に撒いてくれ! 都市からの公式依頼だ!」

「ほう! 分かったぜ!」


 アフロンは勢いよく部屋から飛び出していった。後はあいつがうまくやってくれるだろう。


「ま、まさか骨に使い道が出てくるとは思わなかったのです……」

「ダンジョンってのはなにが起きるか分からないんだよ! ほら簡単にモノを捨てたらダメだっただろ!」

「たまたま運がよかっただけです! いばるなです! というかアフロンさん、討伐じゃなくて駆除依頼なのに喜んでましたね。報酬が減るのに」

「骨を撒くだけの方が危険が少ないしな。狼系の魔物は素早くて厄介だし、危険なく倒せるならそれに越したことはない。アフロンは冒険者が得するように動いてるだけだし」

 

 毒を塗った骨によってヴァイオレットウルフは壊滅した。


 こういった緊急事態への対処も都市の仕事だからな。ダンジョンは都市のものである以上、俺たちが身銭を切って対処しなければならない。


 冒険者ギルドに負担を強いるのはお門違いだ。


 しかし無事に解決できてよかったよかった。これで枕を高くして眠れる。


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