第4話 素材買い取り


 俺はエリサと一緒にこの都市の冒険者ギルドの建物へとやってきていた。


 ここは冒険者のための建物だ。依頼受け付けに素材買い取り、さらに併設された酒場もあるので至れり尽くせりである。


 ただ街としては冒険者たちが一か所に集まってくれる方が都合がいい。


 なにせ冒険者は気性が荒いのが多くて揉め事もよく起きる。実際このギルドでもいつも冒険者たちの喧嘩は日常茶飯事だし。


 一般市民と冒険者が喧嘩されるのは困る。ただ冒険者同士なら互いに戦う者だからセーフという判断にしている。もちろん度を超すようなら止めるが。


 俺は冒険者ギルドのカウンターに向かって、受付の人に話しかけようとすると。


「市長、ようこそいらっしゃいました。上でギルド長がお待ちです」


 これが顔パスである。いや事前に行くとアポ取っていたのもあるのだが。


 そんなわけで二階の応接室に入ると、アフロヘアの筋肉マッチョオジサンが腕を組んで椅子に座っていた。


「おお市長! よく来たな! 座ってくれ!」


 こいつはアフロンだ、俺はずっとそう呼んでいる。ぶっちゃけ本名は忘れた。


 元優秀な冒険者にして現サウザン都市の冒険者ギルド長だ。


「あ、相変わらず頭が爆発してるです!」

「ぶはは! 生まれた時からこの頭だっ!」


 ちなみに頭のアフロはただの天然パーマだそうだ。天然パーマってここまでアフロになることあるんだな。


「アフロン。景気はどうだ?」

「ぶははは! つい昨日まで最下層がアンデッドの巣窟だった上に、素材を安く買い取っていいとでも? 解体作業所のやつらも毎日毎日腐った肉の解体で文句言うし。俺らが死に体だよ、まったく」

「悪い悪い。ちゃんと埋め合わせはするから許してくれ。それと解体作業所の奴らには俺のほうで臨時手当を支給しよう」

「ぶはは! もうとっくに出してるわ! だから俺に直接渡せばいいんじゃい!」

「そりゃ助かる」


 アフロンは豪快で雑そうに見えるが、実は結構いろんなことに気を配れる有能な男だ。


 だからこそ彼をこの都市の冒険者ギルド長に呼んだんだけどな。


 冒険者ギルドはダンジョン突破の要となる場所だ。依頼を受けたり食事をしたり、相談ごとに乗ったりと冒険者の支えになる。


 なので都市の冒険者ギルドが信用できなければ、冒険者たちは他の街へ行ってしまう。


 なのでアフロンとは定期的に話し合う場を設けて、困りごとがないかを聞いたり、今後の都市の動きについて共有したりしている。


 こいつのおかげで冒険者ギルドとスムーズに連携できているので、無駄なタイムロスが減ってるんだ。具体的には俺の一日の睡眠時間が三十分くらい増えてる気がする。


「まあ第七階層はオークが多く出てくるからよかったぜ。今回は当たりだ。もし次もアンデッド階層だったらこの都市終わってたな、ぶははは!」

「そうなったら流石にシャレにならなかったぞ……」


 次の第七階層はオークという二足歩行の豚が多く出ると報告を受けている。


 このオークは結構丈夫でアンデッドよりもよほど強い敵なのだが、冒険者たちにとっては大人気の魔物である。


 なぜか。それは肉が美味いからだ。


「冒険者たちからすればオークは最高だからな。素材として売ってもいいし、その場で焼いて食ってもいいで最高だ!」

「いつもならマズイ干し肉が食事なところを、上等な肉が食えるというだけで大きいだろうな」

「オークの階層に潜るときは持っていく食べ物減らすからな! ぶはは! 現地調達ってやつだ!」


 オークの肉はすごく美味しいので結構な値段で売れて儲かる。しかも自分で食っても美味い。


 なので冒険者からすれば最高の環境だ。もちろんオークに勝てなければ逆に豚のエサになるので、それなりに腕に自信がある者に限るが。


「強制帰還の札は足りてるか? 不足しそうなら補充するが」


 強制帰還の札とはパーティーの誰かが死亡した時に、パーティー全員を強制的にダンジョンの入り口に戻す魔法の札だ。


 ちなみに蘇生は別売りとなっております。冒険者ギルドなり教会で依頼してください。


 値段はそれなりにお高いが、なにかあった時に必ずダンジョン外に戻れるのは大きい。蘇生魔法は死体がないと無理だからな。


「ぶはは! 強制帰還の札は【天雷の眠術使い】様しか作れないからな!」

「おい」

「冗談だ冗談! まだ数は足りてるさ!」


 実は強制帰還の札はこのダンジョン独自のものだ。というのも俺しか作れない。


 俺は雷関係の魔法においては世界歴代最強の適性を持っていた。日本で電化製品などの電力に関わってきたからではないかと思っているが。


 この強制帰還も雷というか電波を応用したものだ。具体的に言うと死んだ瞬間に持ち主を電波にして、ダンジョンの入り口へと送信している。


 なのでダンジョン入り口には受信用のアンテナっぽい鉄塔を置いてたりする。


「強制帰還の札はうちのダンジョンの目玉だからな。よそが簡単に真似できることじゃ、すぐパクられて売りにならないし」

「ぶはは! そりゃそうだ! じゃあそろそろ……本題に入るとするか」

「……ふっ」


 先ほどまでの穏やかな雰囲気が消え去り、途端にピリッとした空気になる。


 これまでの話は軽いジャブだ。戦いはこれから始まる。


 俺とアフロンは互いににらみ合って、


「市長! もっと冒険者を優遇するために俺たちへの支給金を増やせ! 冒険者を引退した奴らに仕事を! 鍛冶屋も足りてねぇし娼館やカジノも至急作れやボケがっ!」

「はあ!? アンデッド階層で余力もなかったんだぞ! そもそも宿屋と鍛冶屋はともかく、娼館やカジノは不急不要だろうが!?」

「冒険者舐めんなよ! ダンジョンに潜ったストレスを解消するにはよお! 娯楽が大量に必要なんだボケがっ!」


 俺たちが話し合いに来た目的は、分かり切った情報をお上品に話し合うためではない。


 互いに譲れぬ立場のもとに、都合を相手に押し付け合うのだ!


 冒険者ギルドは都市のモノではあるが、なによりまずは冒険者の味方なのだ! だから俺たちの都合よりも冒険者の都合を優先する!


 逆に俺たちは都市側なので都市の都合で動く! つまり両者は相対する運命である、仲良くなれない悲しき存在なのだ!


「てめぇ! 冒険者様のおかげでこの都市は成り立ってるんだろうがっ! もっと尽くせや!」

「その冒険者様が活動できてるのは、俺たちの支援があるからだろうが!」


 気が付けば俺たちは互いに腕を掴んで取っ組み合っていた。だが譲れぬ戦いがここにはある!


「あの……いつも同じようなこと叫んでますけど飽きないのです?」

「「これは永遠に終わらない戦いなんだよ!」」

「そ、そうなのですか……」

「だいたい冒険者はワガママ過ぎるだろっ! ロクな価値もないアンデッド素材を高値で買い取ってるのによお!」

「ワガママなのはダンジョン都市だろうがっ! 旨味もないダンジョンを攻略させようとするんじゃねぇ! 心の腐ったへにょへにょの寝落ち野郎が!」

「言ったな頭爆発くるくるパー野郎!」

「「殺すっ!」」

「エリサは下の酒場にいますね。終わったら呼んでくださいです」

 

 そうして俺たちはをして、わりと派手な魔法とかぶちかましてしばらくして落ち着いた。


「ふー……じゃあ鍛冶屋と宿屋は増やす方向で。娼館とカジノはまたいずれだな。ちなみに優先するとしたらどちらがいい?」

「娼館だな。サキュバスが出てきた時の生存率に大きく関わる」

「わかった」

「それとリザードマンなどの異種族冒険者たちがこの都市に注目してるらしいぞ」

「オークが出たからか。現金なやつらだ」

「現肉の間違いじゃねーか? あいつらの目的は獲れたて生肉だろ。なんにしても異種族が満足する環境さえ用意できればここに来るかもな」

「つまり現生か。わかった、把握はしておく。ただ用意するのはちょっと手間だな」

「だがいいダンジョン都市には必須だぜ。異人種はよ」

「わかってるよ。考えてはおく。じゃあな」


 俺とエリサはそう言い残して部屋の外に出た。


 戦わなければ分かり合えないこともある。そして戦わなければ分かってもらえないこともある。例えば……。


「流石はギルド長だぜ! 言いたいことをビシッと言ってくれるっ!」

「市長ー! もっと俺らを優遇しろやぁ!」


 下の酒場から冒険者たちの声が聞こえてくる。


 俺たちが熱く言いあうことで、冒険者たちの溜飲が少しは下がることだ。


「いつもいつも。よくあそこまで演技で派手に喧嘩できますね?」

「いやわりと本気で喧嘩してるし、あわよくば相手の意見を打ち負かそうと思ってるぞ。お互いに」

「ええ……」


 それくらい本気じゃないと周囲は信じない。それに俺は都市の代表で、アフロンは冒険者たちの代表だ。


 互いに大量の人間の生活がかかっているのだ。ならば真剣に言いあえばこうもなる。


 むしろここでてきとうに話し合う方がダメだろう。


「喧嘩するのも市長の仕事のうちってやつだ。弱い市長は死ぬ」

「いつから市長は命を賭けた荒くれ者の仕事になったんです?」

「暗殺とか狙われた時に弱いと死ぬぞ。恨みを買いやすい職業なんだから」

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