3 リカ様と転校生
第12話 転校生
「おっす〜」
「おはよう、稔」
俺はドアを閉める際に「いってきます」と挨拶をする。中からは父さんの声が帰ってくる。里華と静香さんは俺よりもだいぶ前に家を出ていたので今日の鍵閉めは父さんだ。
「どうですか、新しい生活は」
「まぁ、慣れてきたかなぁ。多分」
「また、新たな刺激が加わりますよ、圭殿」
稔はニヤニヤと悪巧みをするように笑うと俺の肩を小突いた。
「なんだよ、もったいぶりやがって」
「今日、俺らのクラスに転校生が来るんだよ。しかもよく知っている女子だ」
「なんで稔が知ってるんだよ?」
「うちの姉様だよ。覚えてるか?
——上浅見ミナ
その名前を聞いた時、俺はドキッとした。彼女と俺は幼稚園の頃からの知り合いで……
——俺の初恋の人である。
稔と俺、それからミミナこと上浅見ミナは小学校の頃よく遊んでいた。ミミナは俺たちと同じちょっとヲタクっぽい女の子でお人形遊びやおままごとをするよりも一緒に週刊少年誌を読んだり、駄菓子屋に行って遊ぶのが好きな女の子だった。
確か、両親の仕事の関係でアメリカに住むことになったんだ。
「懐かしいな……じゃあ上浅見邸に?」
「あぁ、さすが生粋のお嬢様だよな! 帰ってきてるらしい。この辺ほとんどあの家の爺さんが地主だもんなぁ〜。確か、平安時代か続く的な。ミミナの親は……商社だっけか? いいなぁ、勝ち組JK。どんな感じに成長してるんだろうなぁ」
「そういや、おれら中学までスマホ持てなかったからミミナと連絡取れないままだったよな」
俺は急に鼓動が早くなった。昇降口につき、上履きに履き替える。ミミナはどんな風にかわっているのだろうか。俺の中ではちょっと日に焼けたごく普通の女の子だ。
笑顔が可愛くて、飾りっ気がないのにお嬢様だからか上品さが漂っていて……幼稚園に入りたてだった俺はあまり馴染めずにいたが彼女が絵本を持って声をかけてくれたことで少しずつ友達ができるようになったんだっけ。
うっすらと覚えてる。
***
「えっと、上浅見ミナです。両親の仕事の都合でアメリカに住んでいました。あっちではチアリーダーをやっていて……ミミナって呼んでください。あっ! 圭と稔! やっほ〜!」
黒板に書かれた「上浅見ミナ」の文字。
クラス中の注目を集めている彼女は、俺と稔に向かってオーバーに手を振った。小学生の時からは想像がつかないほどすらっと伸びた背丈と……俺は彼女の胸元が気になったが幼馴染として無礼だと思って考えるのをやめる。
「おや、上浅見さんは石橋と島根と知り合いかい?」
担任の言葉にミミナは満点の笑顔で頷いた。アメリカの人はレストランやカフェでも店員と積極的にコミュニケーションを取る……なんてことは聞くが彼女を見るとなんとなく想像ができる。
「じゃあ、わからないところはあの二人に聞いて。席に着くように」
「はーい」
ミミナは出席番号順……つまりは俺の前の席に座ると振り返ってにっこりと微笑んだ。
甘い、甘ったるいバニラの香水と彼女のバッグに入った騒がしい色合いのアメリカ土産のチョコレート。ミミナのポニーテールが俺の鼻をかすめた。
「それでは、今日の朝のHRはここまで」
廊下には人だかりができている。
それは、帰国子女で美人で巨乳の転校生を見に来るためだ。
「圭、稔。お久しぶり〜! 覚えてる? 覚えてるよね? ふふふっ、よろしくね! 私、帰ってきたの一昨日なんだけどさ地元結構街並み変わったじゃない? だからよければ案内とかしてよ。あっ、久々に圭のお家にも行きたいな〜、決まりっ? ね〜稔〜」
「ですな。今日はミミナ嬢の案内版をしますか、圭殿」
「ちょ、ミミナ、稔っ」
困惑する俺、それを面白がってミミナに援護射撃をする稔。それでも、なんだか楽しい気持ちと、ミミナが高校生になっても俺たちに絡んでくれた嬉しさで自然と笑顔になる。
廊下の人だかりの男子たちはそんな俺たちを見て羨ましがったり、どうやってミミナに話しかけようか作戦を練ったりしている。
なんだか、ちょっとだけ優越感だ。
「まぁ、案内くらいなら? けど、うちの上がるのはなしな」
「え〜、そんなぁ」
再婚のことは後々話すことにしよう。
そんなふうに思っていた矢先だった。廊下の人だかりが少しだけ静かになる。
「リカ様だ」
「今日も綺麗ねぇ」
「転校生の子も二人ともモデルさんみたい」
「リカ様も転校生を見にきたのかしら」
里華は「リカ様」の表情のまま一瞬だけ俺を見た。周りの生徒たちは里華がミミナを見たように見えただろうが……里華と目があった?
里華のクールな瞳に違和感を感じたが彼女はすぐに目を逸らして立ち去ってしまった。
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