第8話 パーティー結成


彼女の目的は俺の旅に同行することだという。

特に断る理由もないのだが、この女が同行するとなるとそれはパーティーを組むということだ。


素性の分からないやつとの旅は常に気が抜けないので気が乗らない。


なにより彼女は王宮の人間だ。

仕事は大丈夫なのだろか。



「王宮では何の仕事をしているんだ?」



「えっと…屋敷の仕事をしているわ!」



侍女というわけか。

それなりに頭が使えるやつなのだろう。



「旅に出るってことは今の仕事は辞めるんだろ?そんな簡単に辞めれるものなのか?」



「多分、大丈夫よ。代わりがいるから。」



どこか悲しげな顔をしている。


自分がいなくても何の影響もないのだろう。

日本ではそういうやつを窓際社員なんて呼び方をしてたっけな。


ここで断ったら彼女は王宮に帰るのだろうか。

そしてそのまま面白味のない仕事を一生するのか。


どうしよう。可哀想に思えてきた。



「ダメ…?」



そんな上目遣いで見つめてくるな。

言うんだ俺。無理だと。


…いやでも待てよ。


俺はこの世界のことを知らない。

一人くらい案内人がいてもいいのではないか?


日本での大失敗から相手を好きになることがトラウマになっている。

いくらこいつが少し可愛いからといって好きになることもないだろうさ。


大丈夫。大丈夫。



「俺も知識が欲しかったところだしな。この世界のこと、色々教えてくれよ」



「いいってことよね?やった!これからよろしくね!私の名前は、えーとね…エマよ!」



「改めて、俺はあまのみこと。みことって呼んでくれ」



「よろしくねみこと!」



記念すべき最初のパーティーメンバーの誕生だ。



俺はひとまず彼女のことを色々聞くことにした。


エマは盗賊系の魔法が少し使えるらしい。

一番得意なのは剣を使った近接戦闘。

サポートメインの俺とは相性がいいな。


今夜は近くの宿屋に泊まり明日には出発するつもりだったが、彼女はやり残したことがあるらしく一度王宮に戻るらしい。


辞表届でも出しに行くのだろう。

どこの世界でも何も言わずに仕事を辞めることはできないってことだ。


俺は自分の泊まる宿屋を伝えて彼女を待つことにした。



次の日、俺は朝から王都を散策している。

石とレンガの家々が並ぶ街並みを歩いていると改めて異世界にきたことを実感する。


目的は旅に必要なものの買い出しだ。

初心者向けの本があればいいのだが、そんなものは流石にないだろう。

水と雑貨は既に手に入れることができたのだが、あるものだけが見つからない。


世界地図だ。


地図がなければ目的地も決められない。

エマに聞けばいいのだが、大体の方向くらいは自分でも知っておきたい。



「そこお前!バーナナいらないか?」



「お兄さんお兄さん、モモモ食べて行ってよ!」



「ここのミカヌは美味くて安いよ!見るだけでお腹空いてくるだろ?」



この街の連中は通る度に話しかけてくるな。

聞いたことのない果物ばかりなのになんとなくわかってしまう。

どうせなら「世界地図はいらないか?」なんて話しかけて欲しいものだ。


試しに世界地図がどこに売っているのか聞いてみたが、誰も知らなかった。

名称が違うのか、考えたくはないが存在しないのか。


エマが戻ってきたら聞いてみるか。



ところが三日、五日経ってもエマは戻ってこなかった。

仕事を辞めるのに時間がかかるなら先に言っておいて欲しい。



エマが王宮へ行ってちょうど一週間が経った夜、窓からコツコツと石を打ちつける音が聞こえて目を覚ました。


外を覗いてみると、ローブで顔を隠した女がこちらに手を振っていた。

おそらくエマだろう。俺はすぐに下へ降りた。



「みこと、すぐに出発しよう。」



「前に会った時もだけど、なんで顔を隠すんだよ?」



「こっちにも色々事情があるの。とにかく部屋から荷物持ってきて!早く出発しないと…」



こいつ、散々待たせておいて説明なしか。

どこか焦っているし、誰かに追われているのか?


色々と聞きたいことは多いが、今は我慢だ。

急いでる様子だからな。


俺は部屋へ荷物を取りに行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転移したらいつの間にか王女誘拐してて指名手配されてるけど世界最強のひきこもりには関係ありません。 情蝶 @zyoutyou488

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ