第7話 ウサギの正体
ウサギのような視線。
俺がこの視線を感じるのはこれで三回目だ。
一回目は王宮で。二回目は街で。
今回は前回までとは状況が違う。
俺に話しかけている。後ろを振り向けばいるだろう。
王宮から俺をつけてきたのか。
国王ゼニスに対し女神イシスの名前を出したとき、殺意を向けてきたやつらがいた。
女神イシスがこの世界でどういう存在なのかはわからない。
少なくともよく思わない人間がいるのは確かだ。
そいつらからしたら女神イシスと直接の繋がりがある俺は敵ってわけだ。
こんなところまで追いかけてきてるということは、やつらの関係者かもしれない。
結界を張る準備はできた。
いつでも戦える。
俺は振り返らずに話しかける。
「だれだ?」
「……なんでこっちを見ないの?」
女だ。
あの場にいた女といえば、王族と侍女。そして王の護衛をしていた近衛兵にも女はいた。
王族が直接出向いてくるとは思えない。
近衛兵がくるとしたら王の命令だ。
後から始末するくらいならあの場で殺せばいいだけの話。近衛兵もないだろう。
…ということは侍女か。
少なくともこの女に殺意はない。
誰かの指示でここにきたのか。
侍女なら個人で動かすこともできるだろうし、中には戦えるやつもいるだろう。
「王宮からつけてきていたな。何の用だ?」
「あちゃ~、気づかれてたのか。流石神の使いといったところかな?」
この女認めやがった。
神とは女神イシスのことか?
あいつの使い魔になった覚えはないぞ。
なんであれ目的は暗殺か。
「誰の指示だ?」
「誰の指示って?私は自分の意志でここにいるよ?」
個人的な恨みできたのか。
何をやらかしたんだ女神イシスめ。
「俺は女神イシスの関係者かもしれないが手下ではない。王宮では魔王を倒すためにこの世界にといったが、正直そんなことができるともしたいとも思っていない。」
俺は対人戦の経験がほとんどない。
ギルドでのことも、相手を倒せたわけじゃない。
結界を張れば負けることはないだろうが、負けないだけで勝てるわけじゃない。
この世界には俺の結界を破れる魔法や剣士がいるかもしれない。
自分のスキルに自信がないんだ。
魔獣との戦いも何度も死ぬかもしれないと思った。
相手に重力を与え動けなくしてから自分で作った剣を何度も突き刺した。
ほとんどの魔獣はそれで倒せたが、所詮素人の剣、刺さらない魔獣もいた。
そういうときは結界に閉じ込め衰弱死させた。
薄汚い戦い方だ。
俺のスキルには決定打になる攻撃手段がない。
だから仕方ないんだ。
そう自分に言い聞かせてきた。
「お前がなんで俺を殺したがっているのかわからない。教えてくれないか?理由もわからず死ぬなんて、あんまりじゃないか?」
まだ死にたくない。
みっともない命乞いをしてでも、俺は生きたい。
「なんで私があなたを殺さないといけないの……?」」
「俺が女神イシスの手下だから、ここまで殺しに来たんじゃないのか…?」
「そんなことしないわよ!」
その女は殺しにきたのではないという。
その言葉を聞き、俺は恐る恐る後ろを振り向いた。
「あなた、違う世界からきたっていってたじゃない?ずっと森に居てこの世界のことは何もしらないって。てことはこれから冒険者になってこの世界を旅するつもりでしょ?違う?」
そこには、帽子を深く被っていても隠しきれていない綺麗な顔をした赤髪の女がいた。
俺がこれからしようとしていたことをずばり言い当て、凄いだろと言わんばかりの顔をしながら。
「そのつもりだけど、それを聞きにここまで…?」
「あなたの旅に私を連れて行きなさい!」
「……え?」
俺を殺しにきたと思っていたその女は、旅に一緒に連れて行けと言いだした。
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