第5話 ゼニスタリア王国


街に向かって進んでいくと、大きな門が見えてきた。

おそらくあれが入り口なのだろう。

そこには複数の人影が見えた。



「ここには何しにきた?」



槍を持った衛兵がこちらに質問をしてくる。

門番をしているのであろう彼らは、明らかにこちらを警戒していた。


見慣れない服にところどころ血が付着している。

それなのに丸腰だ。無理もない。


ここは無難な回答をするのがベストだろう。



「いや~それが街にくる途中に盗賊に襲われましてね~。身ぐるみ剝がされてしまいまして。そこで通りすがりの人に助けてもらい命からがらここまできた次第です。」



どうだ?こんな可哀想なやつ、通してやるしかないだろう?



「……」



あれ。なんかむしろ警戒されてないか…。



「盗賊に会ったといったな?どこで会った?」



俺はすかさず答える。

こういうときは時間をかけないほうがいいのだ。



「チニール大森林です!山籠もりをして体を鍛えていました!」



そこですかさず上着を脱ぐ。


どうだこの腹筋。あのウェンディさんですら「凄い体」と言わせたものだぞ。

傷のことかもしれないけど。



俺は勝ち誇った顔で衛兵たちのほうを見ると、槍を構え周囲を囲まれていた。



「貴様!誰の許可でその森に入った!」



誰の許可だと?

許可がいるのか?

ウェンディさんは何も言ってこなかったじゃないか。


一体どういうことだ。



「チニール大森林は国王ゼニス様の名のもと、この国が管理しているものだ!許可なく入ることは許さん!」



そういうと俺の体を押さえつけ拘束された。

抵抗することも考えたが、衛兵を殴ったなどとなれば大事になりかねない。

既に大事になっている気もするが。


まぁ、いい。偉い人に会ったら誤解を解こう。

女神イシスに助けられこの世界に転移してきたと正直に話そう。


それが一番だ。



俺は馬車に乗せられどこかに連れていかれていた。

どこに向かっているのだろうか。

先ほどから聞いているのだが話してくれない。

それどころか目も合わせてくれない。



馬車に乗せられること数十分。



「これより王宮に入る。無礼な態度をとれば即刻死罪だと思え。」



そういうと馬車から降ろされ、布で視界を隠された。

まさか誤解を解く暇もなく殺されるなんてことないですよね。

偉い人、まだですか。 ヘルプミー。



何も見えていないのだが、王宮内に入ったことがすぐにわかった。

雰囲気が変わったのだ。

そこら中から敵意の視線を感じる。



「……ん?」



ひとつ変な視線が混じっているな。

草陰から興味津々でこちらを見ているウサギの視線だな。


…お腹空いたな。



「入れ」



そういわれると目隠しを取られ、部屋に入れられた。

俺はすぐに分かった。

中央で椅子に肘をつきながらこちらを見ている髭を生やした男。

偉い人に会いたかったけど、まさか一番偉い人がくるか。



あれが「国王ゼニス」だ。



「国王陛下、かの者はチニール大森林が国王の所有物だと知りながら侵入し、そこにある果実や鉱石を盗んだ疑いがある者でございます。」



何を言っているんだ?果実?鉱石?

確かに果実は食べたが盗んだわけじゃない。

ちゃんと持ち主に許してもらった。

鉱石なんて触ってすらない。



「誤解があります!私は確かにチニール大森林に入りました。しかし、それは王の所有物だと知らなかったからです!果実は勿論のこと、鉱石には触れてすらいません!」



果実のことは黙っておこう。

それがいい。



「…次に王の許可なく発言したら死罪だと思え。王よ、こやつは嘘をついているかと。この国にあの森が王のものであると知らないものなどいますまい。」



全部あの女神のせいだ。

あいつがあんな森に飛ばしたせいで一年も迷子になり、こんなことになっているんだ。


あのやろう…



「……そなたの名は?」



「あまのみ、ことです。…あっ。『あまのみこと』…でございます。」



ちっ。あの女神のことを考えすぎたせいで同じ口調で言ってしまった。



「変わった名だな。生まれはどこだ?」



「日本でございます。」



「どこか知らんな。ではなぜチニール大森林に入った?」



「…イシスという名の女神にこの世界に飛ばされてきました。そして、気が付くとその森の奥深くに。約一年の間その森をさまよい、つい最近でてこられました。」



周りがざわついている。

女神イシスのことを知っているのか?



「…にわかには信じ難いな。女神イシス、古来よりその存在はこの世界に大きな影響を与えてきた。良くも悪くもな。」



信じられないのも無理はない。

…ならばこのカードを切ろうぞ。



「女神イシスより指名を授かっています。『魔王』を倒してくれと。」



「魔王だと?そなた、本気で言うておるのか?」



「…本気です。」



「……ガハハハッ!女神イシスに飛ばされるか。あの女ならやりかねんな。信じようぞ。『あまのみこと』そなたの罪を不問にしてやる。精々がんばれ。期待しておるぞ。」



「はっ。精進いたします。」



「今の話を聞いてしまったらなおさら……王よ!私の話を…」



なんとか助かった。

女神にも頼まれ、王にも期待された「魔王退治」

がんばろうぞ。





嘘である。


魔王を倒す気などとっくの昔に消え失せた。

この世界にきてすぐはまだあったさ。

女神との約束だとか、俺がこの世界を救いに来たとか。かっこいいことを考えていた。


でも一年もあんな森にいたんだ。



女神との約束?そんなもんしるか。


この世界を救う?だまれ。



冒険者になって遊んで暮らすんだ。

その結果魔王を倒せたならそれはそれでいい。

日本にいた頃の勘違い童貞ナルシストはもういない。


俺は俺のために生きる。

くそ女神どっかで見てんだろ?


しっかり見とけ、俺の人生を。




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