第4話 第一村人


この世界に来て初めての村。


その村は想像していたものとは違ったが、それでも構わない。

確実に人里に近づいているはずだ。


俺は無我夢中で歩いた。

街に辿り着けることだけを信じて。


______



湖から持ってきた水も、もう底をつきそうだ。

ここ最近食料となる動物に会えず、先程見つけた変な色をしたリンゴのような果物を食べている。

見た目はまだしも味は悪くなかった。



「そこのリンリン食ってるあんちゃん、こんなとこで何してんだ?」



後ろから人の声がした。

男の声だ。


すぐに振り向くと、そこにはタトゥーの入った筋骨隆々の男が立っていた。

リンリンっていうのは今食べているリンゴのことか。


まともな人間。

初めて人間に会えた。

ここまで歩いてきて、本当に良かった。



俺は体の力が抜け、意識を失った。



目が覚めるとテントの中にいた。

外から焚火の音が聞こえてくる。


男もそこにいた。



「目が覚めたか?あんちゃんの体、凄かったぞ。傷だらけで見るに堪えねぇから手当してやったよ。まさかあの森で山籠もりでもしてたのか?」



体を見ると丁寧に包帯が巻かれていた。

自分では気付かなかったが全身傷だらけだったようだ。

見た目によらず器用な男だな。



「そんなところです。傷の手当をしてくれてありがとうございます。」



男は俺からの感謝の言葉と、謝罪の言葉を聞くと驚いた顔をしていた。



「いいってことよ。腹減ってないか?飯にしよう」



男がくれたパンとスープ、そしてリンリンを食べた。

この世界にきて初めてのまともな食事。

量は少なく、味も薄い。


それでも、今まで食べてきたどんなものより美味しかった。



「おいおい、泣くほどか?」



それから俺はこの世界のことを質問した。

最初こそ驚いた顔をしていたが、俺の質問を答えてくれた。


この男はウェンディというらしい。

俺が食べていたリンリンを採集しにこの森へきたところ、勝手に食い漁っている男を見つけ声を掛けたそうだ。


この森はチニール大森林というらしく、かなり危険な場所だという。

奥に行けば行くほど強力な魔獣がいるので人が一切立ち寄らないそうだ。


俺が戦っていたのはただの動物ではなく魔獣だったのか。

最初は小さいやつばかりだったけど、戦い方を覚えてからは片っ端から挑んでいたから気にしてなかったな。


なんちゅーとこに送ってくれたんだあのくそ女神。


俺は冒険者になりたいことを伝えると、街まで案内してもらえることになった。

ウェンディさん、あんた女神より女神してるよ。


その日はそのまま眠り、明日の朝に出発だ。



「そろそろ起きてくれよあんちゃん。」



ウェンディさんに起こされ俺は目を覚ました。

時間を気にせず寝ていたが、どうやら半日寝ていたらしい。


久しぶりにぐっすり眠れた気がした。



街には歩いて二時間ほどだという。

一年にも及ぶ山籠もりの結果、俺の体は脱ぐと凄いことになっていた。

心なしか顔つきも変わった気がする。しっかり見てはいないが。



「着いたぜ、ここが『ゼニスタリア王国』だ!」



町並みは中世ヨーロッパって感じだ。

異世界ファンタジーならお決まりだな。

あまり文明も発展してなさそうだ。


ウェンディさんはまだ仕事が残っているらしく、ギルドの場所だけ伝えて帰っていった。

俺は腰を直角に折り曲げ、頭を深く下げお礼をした。


これが面接ならこのお辞儀だけで間違いなく合格だ。



「もしかしたらまた会えるかもな。次はちゃんと成熟したリンリン食わしてやるよ!」



俺が勝手に食べていたやつ収穫前のやつだったのか。

あれ、昨日あんたがくれたやつも同じ色だったような…。


まぁいいさ。

ウェンディさん、くそお世話になりました。



「まずはギルドだな」



お父さん、お母さん。俺、就職します。


冒険者、始めます

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