第3話 ひきこもりスキルの正体
女神イシスに異世界転移させられた俺は、見上げるほど大きな木に囲まれた森の中にいた。
見たことのない果実と動物たち。
森というよりジャングルみたいだ。
ここにきた当初は森を抜けて街を探すつもりだったが、初日に見つけた湖で人を待つことにした。
湖で人を待つこと一週間、誰一人としてくる気配はなかった。
俺にできることと言えば女神からもらったスキル『エスパシオ』の解析だ。
このスキルは一言で言えば引きこもりだ。
手の平から空間を生み出し結界を張り、外からは誰一人として手出しができないというもの。
俺は女神がこのスキルを渡すときに言った言葉を思い出した。
「俺の人生に必要だったもの、か…」
引きこもりニートが部屋に結界張って親から身を守れってか。
あのくそ女神、今度会ったらぶん殴ってやる。
水はあったが食料が無かったので、このスキルをなんとか使えないか考えた結果、倒せそうな動物を結界の中に閉じ込めタイマンを張ることにした。
結界の中に入れることが最難関だと思っていたが、この結界は俺が「結界を張った」と意識し完成されるまでは目には見えないらしく簡単に閉じ込めることができた。
どこまで空間を作れるのか試してみたが、終わりがなさそうだったので今度にすることにした。
それから俺は、ありとあらゆる動物と一対一の真剣勝負を繰り返した。
その中でこのスキルは中々便利なことが分かってきた。
結界内ならどうやら重力を操作できるらしく、相手の体重を重くしたり、逆に自分の体を軽くすることもできた。
「他にも応用できそうだな」
気長に人を待ちながらスキルの解析を続けた。
ーーーーーー
あれからどれくらい経っただろう。
三ヶ月経った頃から日付を数えるのを辞めた。
誰一人としてくる気配がない上に、動物が寄ってこなくなったのだ。
これ以上ここに滞在しても意味がない。
ならばすることは一つだ。
俺は重い腰をあげて、この森を抜けることにした。
動物たちとの数ヶ月にも及ぶ戦いの末、相手の視線を感じることができるようになった。
お陰で食料に困ることはなかった。
歩き始めて一週間ほど経った頃、俺は一つの集落を見つけた。
この世界にきて一年くらいだろうか。
初めての人里。
本来なら素直に喜ぶべきなのだが喜べなかった。
人が住んでいるとは思えないほど建物が劣化しているのだ。
それでも敵意の視線は感じる。
おそらく五人。
この村は普通じゃない。
離れようとした時、こちらに炎の塊が向かってきた。
すぐさま避けたが、肩に軽い火傷を負ってしまった。
「危ねぇ」
これはスキルだ。
明らかな敵対行動。
俺はすぐに結界を周囲に展開した。
戦ってもいいのだが、何人いるのかわからない上に対人戦は未経験だ。
ここは…逃げるべきだ。
自身の体重をできる限り軽くして、真っ直ぐ走った。
それでも相手がどんなスキルを持っているかわからない。
幸いにも敵が追ってくる様子は無く、すぐに逃げ切れた。
あの村がなんだったのか分からないが、目的は変わらない。
俺は再び街を目指した。
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