第13話  初期クラス決定

「初期クラスはアルファ、ですね」


 告げられたクラスは、なんと上から二つ目。

 ランキングで言うと4~10位までの超エリートランカーの仲間入りを果たしたのである。


「アルファ…………アルファ!?」


「素晴らしい結果です。決定したクラスの最下位に組み込まれるので、天若さんのランキングは10位となります。おめでとうございます」


「じゅ、10位……うっ」


 ギュッと握りしめた拳を振り上げたヒガサは、


「しゃぁぁぁあああ!」


 ただただ歓喜。

 ランキングしか見えていないヒガサには喜ばしいことだが、本質が見えている村雨からするとそうでもないらしく、


「しかし天若さん。厳しいことを申し上げますが、今回の順位付けは妥当ではないかもしれません」


 すっと両手を降ろしたヒガサは、


「というと?」


「今回、ランペイジ状態の力を評価されているので、今後のランクマッチで同じパフォーマンスができるとは限らないということです」


「あ、そっか……」


「伝えられておりませんでしたが、ランクマッチで決定されるクラスは、捜査官の給与にも大きく影響を与えます」


「そうなんすか!? つかお金もらえるんすか!?」


「当然です。金額は自分で確認していただきたいのですが、アルファとベータではかなり差が出ます」


「お、おぅふ……」


「天若さんがアルファの最下位、つまり10位に組み込まれたことにより、現10位だった方が繰り下げになり、クラスがベータに落ちます。となれば、その方は死に物狂いでランクマッチに勝ちに来るでしょう」


「怖っ……!?」


「天若さんは一課への異動を希望していると、東雲さんから聞きました。異動を勝ち取るには少なくともクラスアルファを維持することが最低条件です」


「……あざっす村雨さん。でも大丈夫っす。俺は今の百倍、いや千倍は強くなるつもりなんで」


 唐突に真剣な眼差しで村雨の心配を跳ねのけたヒガサ。

 その目には、七年前に刻まれた凄惨な光景が投影されていた。


「失礼しました。当局で最も伸びしろがあるのはあなたですから、ぜひ頑張ってください――――」




※※※※※※




 その後ヒガサは、改めて村雨から諸々の説明を受けた。

 シミュレーター内にはエントランス以外にも、ギャラリーホールという映画館のような大部屋がいくつかあった。

 ランキング上位の捜査官同士が闘う時は事前に告知され、多くの捜査官がそこで観戦するという。

 これがなかなか盛り上がるらしい。


 ランクマッチは24時間365日いつでも可能。

 一つ上の順位の捜査官に闘いを申し出る必要があるが、挑まれた方はそれを断ることも可能。

 上に挑む側は敗北しても順位は変わらないため、リスクが無い。

 その一方、挑まれる側には大きなリスクが伴うため、マッチを断るのも納得できる。

 しかしそれでは、クラスを下げまいとマッチを断り続ける者が続出し、ランキングの停滞に繋がりかねない。

 そのため、毎月1~5日は〝一杯ンキング上げ・・ていこうデー!〟と称されており、この五日間においては任務以外を理由にマッチを断ることができないという。

 ちなみに期間名は正式名称。

 略して〝ラ揚げデー〟なんて呼ばれているらしい。

 とはいえ、同一人物とのマッチは一日一回までというルールも定められている。

 そうでなければ何度でも挑み続けるという脳筋プレイがまかり通ってしまい、挑まれる方にストレスがかかってしまう。

 無論、双方の同意があれば何度でもOK。

 いずれにしろ、せっかくならランキングをさらに上げて、一課への異動を勝ち取るための材料としたいと考えたヒガサは、すぐにでも9位の捜査官に闘いを挑まんと画策していた。


 アブソリュートのインパクトが強過ぎて忘れがちだが、1~100までのレベルを指定できる戦闘AI、レイヴンもかなり有用だとされている。

 ジェネレーターの設定次第で、レベルはもちろん、複数のレイヴンを相手にした集団戦闘訓練も可能。

 ヒガサが闘うレイヴンの適正レベルはMAXの100であると、アブソリュートとの戦闘データから弾き出された。

 だがこれもヒガサがランペイジを引き起こすことを前提とした話。

 おそらくランペイジ状態のヒガサでなければ、レベル100のレイヴンには勝てない。

 アブソリュートには及ばずとも、レイヴンの強さも侮れないのだ。

 まずはレベル60ほどで様子を見てはどうかという村雨の提案を飲み、話を落とした。


 次に、村雨が特軍局の設備や貸与物の説明をしてくれるとのことで、現実世界に戻ることとなった。

 シミュレーターから出るのは簡単で、ジャックインした時にヒガサが立っていた円環の上で、壁面に設けられたジャックアウトボタンを押すだけ。

 ボタン押下後、空間は粉々に霧散し、瞬時に現実世界の体に意識が戻った。

 同時に、閉まっていたカプセルの蓋は足元に向かって収納されてゆく。

 現実世界に戻ったことで、いかに仮想空間の再現度が高かったのかをヒガサは再認識した。


 シミュレーターが並ぶ部屋を後にしたヒガサは、局内の設備案内を受けた。

 警視庁の地下に位置するというのは彼も把握していたが、想像以上に深いところまで続いていることを知る。

 局のさらに下層部に、特脳監獄とくのうかんごくと呼ばれる牢があったのだ。

 一般の刑務所とは異なり、凄まじい強度を誇る檻。

 言うまでもないが、ニュークである犯罪者を収容する施設である。

 地上で収容するのはリスクが高く、可能な限り特軍局の目の届く距離に置いておきたいのだろう。

 その効果はテキメンで、これまでの脱獄件数はゼロ。

 仮に牢をぶち破ったとしても、一課や二課の精鋭が駆けつけてくるのだ、シャバの空気を吸えることはまずありえない。


 そしてありがたいことに、これからヒガサが寝泊まりする部屋も用意されていた。

 いわゆる寮のようなもので、間取りは少し広めなワンルーム。

 各室に一台シミュレーターが設けられており、自室からでも訓練が行える。

 同じ階には食堂やドリンクサーバーなどもあり、快適に過ごせそうだった。

 終身刑を免れた人間に対する待遇とは思えないほどの充実度である。

 もし仮に終身刑とは名ばかりのモルモットになっていたら、研究所にて日夜実験に付き合わされ、奴隷のような扱いを受けていただろう。

 と、ヒガサは予想していた。

 しかし村雨曰く実際はそうでもないらしく、衣食住はしっかりサポートされ、無理な実験は行われないとのこと。

 なおかつ、年に数回ながら家族に会う機会も設けられているという。

 特脳捜査官になるよりよっぽど安全で、楽な環境であると言えよう。

 もっとも、それを聞いたとてヒガサの歩む道に変わりはないのだが。


 最後は貸与物の説明だ。

 村雨から与えられたのは計四点。

 警察手帳、スマホ、無線イヤホン、黒いチョーカー。

 警察手帳と言っても、ドラマなどでよく見る顔写真付きのものではない。

 二つ折りであることはお馴染みだが、上部には警視庁という文字のみが記載されており、下部には金属製の脳みそを模した紋章が取り付けられている。

 ただ、手帳を見せる機会はほぼ無いとのこと。

 一般人にはそもそも見せないし、特軍局の存在を知らない一般警察に手帳を見せても、ただのレプリカだと思われて相手にされない。

 県警の本部長クラスには特軍局の存在程度は開かされているため、手帳を見せるとすればそういった高位の役職に限られる。

 誰もが一度はテレビで見たことがある「警察です」なんて言いながら手帳をパカッと開いて見せるアレができないことに、ヒガサはガッカリしていた。


 スマホや無線イヤホンは、任務の際に連携を取るためには必須。

 日々、様々な情報共有があるため、しっかりと目を通すようにと釘を刺された。


 そして、黒いチョーカー。

〝ペナルティリング〟という名称とのこと。

 首に巻き付けるもので、見た目はチョーカーと何ら変わらない。

 しかし大きく異なる点が一つ。

 それは強烈な殺傷能力を持っていることである。

 何も武器になるという意味ではない、殺傷の対象はあくまでも装着者。

 力づくで取り外そうとしたり、権限を持つ者がボタンをポチッと押せば、リングから強力な電流が放たれ、装着者を行動不能にさせるのだ。

 言わばスタンガンのようなもの。

 同時に位置情報が本部に送信され、後々回収されるという仕組み。

 ニュークであるヒガサは、一般人とは比べ物にならない力を持っている。

 悪意が無いとは言え、野放しにするわけにもいかないため、ある程度信頼を置けるまでは必着なのだそう。

 その機能を聞いたうえで、呑気なヒガサは全く恐れることなく装着した。

 なんなら、ちょっとカッコ良くね?などと思っている始末。

 それは裏切るつもりが微塵も無いことを示しているとも言えるため、結果的に村雨を安心させる行為であった。

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