ゆうかの話『入り込む幽霊』

(5)

若松くん、お返事ありがとう!参考になったのなら嬉しいです。


私も若松くんが調べたこと読ませてもらったけど、かなりたくさんのクラスメイトが白月くん絡みで亡くなってて驚いてます。


リコちゃんが亡くなった時、実は私少し前に一緒に飲んでるんだよね。ふゆむちゃんも交えて。


あの時妙にチラチラ外を見てたり、男の人にびくついてたりしたから、なんだか納得です。


あの子達、いい子に見えたけどほんとは裏で悪いこととかしてたのかなぁ……?なんの罪もない人を冬月くんが殺すなんて思えないし……


ところで、前回のメールを送ったすぐ後に私にもちょっと不思議なことが起きたんだよね。


まぁ、不思議って言っても、ふゆむちゃんに起きたほどすごい怪奇現象ってわけじゃないんだけど


メールの内容を打ち終えて、よし、送るぞーって思った時ね?腕にピリって、痛みが走ったの


それだけだったら、人間の体って筋肉が引き攣っちゃう?みたいなことはあるらしくて、普通に自然現象なのかなって感じなんだけどさ


よく見たら、痛みが走ったところの皮膚だけ逆剥けみたいになってて、何本か白くて細い筋が浮き出てたんだ。


直前までは何にもなかったんだよ?本当に


なんていうか、長い爪でカリカリ引っ掻いたみたいなイメージかな?


それで私、ちょっと思い出したことがあって


若松くんが気づいてたかわかんないんだけど、白月くんって時々、唇を引っ掻く癖があったんだよね。


それから少し、半目で周りを見る、そういうルーティーンっていうか、一連の動作があの人にはあって


唇の下に、小さな小さな引っ掻き跡がついていたの、よく覚えてる。まぁ、私が白月くんの顔をいつも遠くから目で追ってたからかもしれないけど……なんて、これじゃストーカーか(笑)


それで、なんとなくその傷に似てるなって。長いストロークで強く引っ掻いたんじゃなくて、あくまで何度も何度もカリカリって引っ掻いたような傷。


とはいえ、これだけで白月くんの幽霊だっていうのは流石に無理矢理かもしれないよね。


だからまぁ、この件はおまけ程度に覚えておいてくれたらなって。


今回の本題は、別にあるので





(6)

じつはふゆむちゃん以外にも、白月くんの幽霊を見てから亡くなった元クラスメイトの話を聞いてるんだ。


若松くん色んな人に聞いてて、もしかしたら被っちゃうかもって思ってたけど、大丈夫そうでちょっと安心。


亡くなったのは、美智香ちゃん。覚えてる?一重で吊り目の、いかにも勉強家って感じの子だったよね。


そういえばあの子、高橋くんのこと好きだったみたいで、自殺の話を聞いた時に落ち込んでました。その時にはもう、彼氏いたくせにね。


私はまだ白月くんのこと忘れられなくて、恋愛とかもあんまり出来ないから、ちょっと信じられないかも。


おっと脱線。私、文章書くの好きで、どんどん書いちゃうから、何も考えないと手癖で脱線しちゃうんだよね。あれ?この話前のメールでも書いたっけかな?


とにかく、その美智香ちゃん。


知ってる?あの子高校を卒業してすぐ、めちゃくちゃ整形したの。


二重にして、目もぱっちりさせて、あと私は整形とか考えたことないからよくわからないんだけど、骨?とか削ったらしいよ。なんか怖いねー。


それで、髪も染めてさ、もう別人?みたいな。たまにふゆむちゃんも混ぜて女子会したけど、結構遊んでるっぽかったなー。


思えば高校の頃から男好きみたいなところはあったんだよね。顔に自信がなくて露骨に出来なかったのかな?なんというか、ふゆむちゃんと仲良いのもむべなるかなって感じ(笑)


まぁとにかくなんていうか、自信満々だったよ。性格も明るくなってさ、昔はキツかったじゃん。


でも、ふゆむちゃんが死ぬちょっと前くらいかな?なんか、変なこと言ってたの。


顔の裏側が、ザリザリする、みたいな。


もう少し詳しくいうと、「顔の皮膚の下に何かが入ってるみたいに、ザリザリごろごろして、筋肉とかの間に隙間ができてるみたいな変なズレてる感がある」って言ってた。


私は整形のしすぎじゃないの?なんてまぁ、流石に冗談でも口にしたりはしないけど、密かに思ってたり……でも、そうじゃないっぽくて


ふと顔を触った時とか、寝起きに目を擦った時とか、皮膚の下でジャリって音がするんだって。


それで、鏡を見ると肌が弛んでる気がするって言って、なんか新しい美容液とかいろいろ買い集めてたよ。


その時はさ、私正直、ふーんくらいの気持ちだったんだけど


いや、もちろん友達だから心配だよ?でもほら私、もともとメイクとかもそんなにしなくてもあんまり気づかれないし、美容とかも最低限の身だしなみくらいしか興味ないからさ、


だからそんな悩むものかなーって、みたいなね。


だから勘違いしないでほしいんだけど、別に私が美智香ちゃんのこと嫌いだったとか、どうでも良いと思ってたわけじゃないんだ。


元クラスメイトだもん。すごくすごく心配に決まってるよ。


なんて、メールなのに若松くんに何か言われそうで一方的に弁明しちゃったけど、まぁでもその当時の私は、そんなにシリアスには受け止めてなかったてこと。


会うたびに言ってたし、本人は深刻そうにしてたけどね。


「肌が破けそう」とか

「中に石が詰まってる気がする」とか


流石に誇張じゃない?女子ってそういうとこあるし(←私も女子だけど汗)


でも、ふゆむちゃん含めた6人が死んですぐに、なんか様子が変わったんだよね。


お葬式とかは私、忙しかったし特に挨拶に行ったりみたいなことはしてなかったんだけど、初七日くらいのタイミングで死んだこの大学の友達とか、高校の女子とかで7、8人集まって追悼女子会?みたいなのをしたの。


その時に、美智香ちゃんが急に私に「ゆうかさ、ふゆむちゃんが死んだ時にあってたんでしょ?ふゆむちゃんおかしいって思わなかったの?」って。


やめてほしいよね。みんなの目が集まって、気まずかったなぁ(笑)


それにその言い方だと、私が止められなかったせいみたいになっちゃうじゃん。


私だって出来るだけのことはしたつもりなのに、だってそれ以上はどうしようもないじゃんって話でさ


「いや、おかしかったよ。でも、まさか死ぬなんて思わなくて、でも一応話聞いて、落ち着かせるくらいのことは私も」

「いや、ゆうかが何したとか関係なくて」


えー、だよ。それにしても美智香ちゃんも変わっちゃったんだよね。昔は苗字呼びだったのに


「えっとつまりどういうことかな?」

「ふゆむちゃん死ぬ時、白月ミウの話してなかった?」


一瞬ざわってなって、多分その中にも何人か、白月くん絡みでおかしなこと起きてる人がいるのかなって予想できる感じだった。


まぁみんな、何かしら後ろめたいことはあるだろうしね。実際、あのクラスの誰も、私も含めて誰も白月くんの時札を止められなかったわけだし。


あ、これは若松くんを責めてるわけじゃないからね。私だって同じなんだし。


そういう意味でも、死んだ後に何をって思いながら白月くんについて調べてて、若松くんも同じだってことがわかって少し親近感かもだな。


話を戻すと、私はなんて答えて良いかわからなくて、とりあえずお茶を濁すみたいに


「え?白月くん?どういうこと?」


みたいな答え方したんだよね。そしたら美智香ちゃん、整形前みたいにピリピリした声で、


「いやこれマジで聞いてるから」って


いるよねー、マジでって言えばなんでも通ると思ってる人。美智香ちゃんそういうタイプだったんだって少し引いちゃった(笑)


まぁでも、隠すのも変じゃない?

一応、一部始終話したよ。そしたらね


「やっぱり」

「やっぱりって」

「あんたふゆむちゃんたちの遺書読んだでしょ?」

「あ、うん。回ってきたから」

「あれ、白月ミウのことだと思う」

「なんで」


ちょっと眉をひそめて聞く私に、美智香ちゃんは少し視線を外した後


「あいつ、私も見たの」


って答えた。


その話によると、ふゆむちゃんたちが死んだ日、夜中にふっと目が覚めて、自分のことを白月くんが見下ろしてるのを見たんだって。


最初、美智香ちゃんはそれを見上げながら、少し見惚れてたの。高橋くんが好きだったり、彼氏がいたり、白月くんに見惚れたり、それってどうなのって感じだけど


まぁでも、白月くん、綺麗だったもんね。仕方ないと言えば仕方ないのかな。


でもね、しばらくぼうっと見てると、だんだんその綺麗な顔が、血とか砂利とかで汚れて、歪んでいくんだっていうの


それを聞いて、ふゆむちゃんが話してたこと思い出したんだよね。口から砂利が……って


それで、その崩れていく時間がすごくゆっくりにも、一瞬にも感じられる中で、美智香ちゃんの顔も、内側から引っ張られるみたいに膨らんでいく感じがして


血とか肉とか、骨とかが小さなゴロゴロした粒になって


皮膚の下で動き回って擦れまわるような、そんな感じがして、


目の裏側から、何かで、そう例えば、指か何かで、突かれているような


そのうち頭の中で何かが切れて、意識が飛んでしまったんだって。


目が覚めると美智香ちゃんは、大急ぎで洗面所に向かって自分の顔を見たみたい。大事な顔だもんね、整形ってお金かかるらしいし。


それで、顔は元通りの、元通りっていうか整形後の顔なんだけど、戻ってて、ほっと安心した時


耳元で


「ブス」


って囁かれたんだって。


その声は、バカにするような、投げやりなような


白月くんの声だったの。


私、その話聞いた時、ちょっと信じられなくて


白月くん、時々口悪いことあったからブスくらい言うかもしれないけど


その、美智香ちゃんって地味な子だったし、なんでわざわざ家まで行って罵倒しにいくの?って


そういうことをオブラートに包んで言ったら、美智香ちゃん、コップの水を私に引っ掛けてきたんだ。


それで私に、


「あんたそうやっていい子な顔して、私らのこと見下してんだろ」


って。


ひどい言いがかりじゃない?私なんだかすごく傷ついて、でもだからって泣いたり喚いたりはみっともないしさ


とりあえず美智香ちゃんを出来るだけ優しい感じで宥めながら、お金だけ置いて席を外したよ、結局。


あ、ちゃんとワリカンになる金額を置いてったからね?しかも気持ち多めに


結局、それが美智香ちゃんと会う最後の日になっちゃった。


最後に、美智香ちゃんの死因なんだけどね?


自分の顔を、何回も引っ掻いたり包丁で抉ったりした末に、目玉が飛び出るくらい壁に擦り付けて死んでたんだって。


自慢の顔、結局台無しで死んじゃったんだなぁって、少し切なくなっちゃった。




(7)

さっきのメールを送ってすぐ、今度は手首に引っ掻き傷が現れたよ。


白月くん、ずっと唇を引っ掻いてたから、これが本当に白月くんなら間接キスだなぁって……流石に不謹慎か(笑)


でもなんか、もしかしたら私も呪われちゃうのかもしれないけど、少し嬉しかった。あの人が私を見てくれてるみたいで。


あくまで白月くんの幽霊の仕業なら、だけど(笑)


あと、深い意味はないんだけど腕へのキスは「強い恋慕」、手首へのキスは「ストレートな好意」の意味があるんだって。


若松くんは、白月くんの幽霊に会えたのかな?


______________________________________________


メモ:ミウくんの唇を引っ掻く癖くらい、俺だって知ってる。

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