ネットの噂④ 『子どもが自傷する階段について』

ミステリ好きだった後輩の八木ちゃんが、俺がミウくんの幽霊について調べていると知って送ってくれたデータ。


なんか、うちの学校の近くにあった図書館の、裏手の団地の前にある石段?みたいなところが心霊スポットになってるらしい。


ミウくんが関わっている可能性が大とのこと


噂1

団地に住んでいる主婦が体験した話。ある時、娘が頭から血を流して帰ってきた。よく見るとその傷以外にもあちこち怪我をしている。いつもはちょっとしたことですぐ泣くくせに、へらへらしている。


大慌てで「どこで怪我したの?」と聞くと、

「家の前のところの、道に階段があるところで飛び降りた」と答えた。臆病な娘がそんなことするなんてありえない。


しかも娘は、話ながらだんだんぼおっとした嬉しそうな表情に変わっていって、傷口を指でがりがりひっかき始める。


「なんで飛び降りたの?」と聞くと、娘は

「お兄ちゃんに褒めてもらえるから」と答える。娘は一人っ子だ。


「お兄ちゃんってだあれ?」


「あのね、私今日、あの階段のところで、転んじゃって膝すりむいてね、それで泣いてたら、髪の毛が女の人みたいに長い、かっこいいお顔のお兄ちゃんが、すごいねぇ、えらいねぇ、ってほめてくれたの。それがね、すっごく嬉しくて、痛いの平気になっちゃってね、なんで偉いのって聞いたら、ケガして、痛くて偉いね、かっこいいねって。だから、私自分でその傷をひっかいたの、ここ」


娘が突き出した右足の膝は、傷こそ小さいが肉がえぐれていた。


「だから、もう一回階段を上ってわざと落ちたらね、すごいね、すごいね、って言ってくれたんだよ」


娘はうっとりとして続ける。


「だから私何回もわざと落ちてね、それで階段の一番上から落ちて、頭から血をたくさん流したんだよ。体がね、全然動かなくて、立てなくて、そのまま寝転がってたら、お兄ちゃんが頭を撫でてくれてね、えらいねぇ、すごいねぇってほめてくれたんだよ。それからね、家に帰って、お母さんを心配させたらもっとえらいねぇって」


娘はそんな異様な話をしながら、徐々に痙攣(体が震えること)しはじめ、失禁(おしっこを漏らすこと)した。


「ねぇ、お母さん心配してる?私が怪我して、悲しくて、死んじゃったらどうしようって思ってる?」


喋り続ける娘がどうしようもなく怖くて、早く病院に連れて行かなくてはいけないのに、まったく動けなかった。


その主婦は、そのあと引っ越すことにした。


メモ

髪の長い男ってだけだと分からないけど(後の情報的にミウくんで確定っぽい)、そういえばあの辺で、小学生の女の子の飛び降りがあったって母親から聞いた気がする。それもいくつも。


もう一度詳しく確認したら、怪我した子の中に、元同級生で、たまにミウくんに小説を貸してた倉木の妹もいるらしい。全治2ヶ月の大怪我だったそうだ。


倉木に話を聞こうとしたけど、一家心中していた。


噂2

階段の近くには団地以外にも家がいくつかある。それらの家の中で、夜中にぼーっとした足取りで歩いていると、いつの間にか窓の前にいることがある、という体験をした人がかなりいる。

また、窓がいつの間にか開いている。食器棚が開いていて、包丁が落ちている、といった話も多い。


メモ

これは正直関係ないんじゃないかと思う。


噂3

団地に住む子供たちの間で、階段やベランダから飛び降りる遊びが流行っている。大人たちがなぜそんなことをするのか聞くと、子どもの一人が


「ミウ兄ちゃんに褒めてもらえるから」


と言った。話によると、高いところから飛び降りたことを話すと、褒めてくれるミウ兄ちゃんという男がいるらしいと分かる。

特徴は、ぼさぼさの長い髪と、制服のシャツの上に青い上着(確定っぽい)


ミウ兄ちゃんは子どもたちに少しおかしいくらい懐かれていて、どっちの方がミウ兄ちゃんに褒められたかで喧嘩が起きることもある。


大人たちは注意しようと思い、ミウ兄ちゃんを探したが見つからない。ただ、団地で奇妙な怪我をする大人が増えて何となくその話は触れられなくなった。


ある晩、外で言い合いが聞こえた。俺の方がすごい、みたいな子ども同士のけんかで、親たちが様子を見に行ったら、団地に住んでいる子ども数人が集団で屋上から飛び降りていた。ほとんどは即死だったが、他の子がクッションになって生き残った子が2人いて、言い争っていたらしい。


真っ白い顔の紙の長い男がいつの間にか二人のそばにいて、頭を撫でた。


二人とも笑った。そのあと男は、急に興味のなさそうな顔になって、ふっと消えてしまった。


メモ

ネットニュースを調べてみたけれど、団地で子どもの集団自殺があったのは本当だそう。その辺も調べてみたほうがいいかもしれない。


実際に団地に行ってみて

ミウ君の幽霊は全然出てこなかった。

というか、前は昼でも子どもが遊んでたりおばあさんがうろうろしてたりしたのに、人の気配がほぼない。


団地の中に、小学校の頃言っていた個人塾がある筈なので行ってみたら、塾長が亡くなったことが張り紙で張られていて、閉まっていた。


階段でも何回か飛び降りてみたけど、特に何もなかった。子どもの頃はデカく感じてたけど今見るとそんなにって感じだ。木漏れ日が、なんとなくエモい感じがした。


あと昔すぎて忘れてたけど、小学生だったころのミウくんとここでグリコやってたのを思い出した。


追記:八木ちゃん、死んだらしい。夜中に、停車してある車の下に頭突っ込んで寝てたらしくて、中で寝てた運転手が確認せずに出発したもんだから肩から上がぐちゃぐちゃだったとのこと。

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