死神の協奏曲ー僕らソーシャルディスタンスで、たまに濃厚接触で三密の関係ー

第一章 死神の足音

第1話 予兆



 2019年の11月某日、イギリスの医療施設では、平年ならば考えられづらい、原因不明の肺炎患者が数名訪れていた。


「うーんこりゃあ何だ……? 肺がすりガラスのように真っ白になっているぞ……?」


 ベテランの英国人医師は、念のためにマスクをして、ある患者の肺をCTスキャンして、状況を確認するが、今まで見たことがない、明らかに異質な状態の肺炎の影が見受けられる。


「とりあえず、抗生剤を投与しよう。様子を見ましょう」


「はい……ケホケホ……!」


 普段の湿り気のある咳ではなく、空咳であることが医者の勘で、「これはただの肺炎じゃあないぞ」と気がついた。


 ただ、ウイルス性の肺炎はよくあることであり、原因不明なものはあるが、それでもすぐに収まるので、医師は気には留めてはいない様子である。


「何事もなければいいんだがな……」


 患者が帰った後、医師は誰にも聞こえないよう、静かにぼそっとつぶやき、目の前に置かれた肺炎のレントゲン写真を深刻そうに見つめる。


       💊💊💊💊


 イギリスで原因不明の肺炎患者が出たその一月後、中国のBという街では肺炎患者が相次いで見つかり、原因自体は不明となっていた。


 とはいっても、数は少なく、そこまで重要視はしておらず、単なるウイルス性の肺炎、つまりただの風邪という認識である。


「うーんなんかこれおかしいよな?」


 若い医師は、病院で診察をし終えた後、仲間内の医師に尋ね、この状況が少し異常に感じでいる様子である。


「SARSに似てるぞこれ……」


「あぁ、そうだよな。取り敢えずSNSに載せとくわ」


「やめとけよ。上がうるさいだろ?」


「でも、義務があるだろ? 俺はやるけどね」


「そうか……」


 それから数日後、肺炎の患者は増え続け、「これはアウトブレイクだ」とSNSで警鐘を鳴らしたこの医師は警察のお世話になる羽目になる。


 それは、2019年の12月の出来事であり、それが、これから起こる大騒動の幕開けであることを誰も気がつきはしなかった……。


       💊💊💊💊

 2019年の大晦日、後少ししたら2020年ということで町は年末のムードに染まり、特にカップルが溢れかえった。


 横浜の港には遊覧船が停泊しており、夜の11時半すぎになると乗客の手続が始まり、柿崎隼人と塩野雅美は、ラブラブな雰囲気のまま船内に乗り込んだ。


(楽しみだなあー!)


 実は隼人と雅美は、同じ派遣会社で知り合い付き合い始めたのだが、年末に会社が倒産して、同じK県だが、電車で10駅ぐらい離れているお互いの実家で暮らすため、遠距離での恋愛になってしまった。


 遠距離になる前に思い出を作ろうと、今までコツコツ貯めていたお金を切り崩して、クルーズ船でのディナーを取り付けたのである。


「うわーすごい豪華ねぇ!」


 船内はバイキング形式になっており、豪華な食事が所狭しと置かれ、予約していた席につき、食事を取りに行く。


「これ食べて、あれ食べて、っと……」


「太るぞ」


「なによ、隼人だってたくさん食べてるじゃない」


 彼等は、派遣でそこまで給料はもらっておらず、デートの時はいつも質素な安いファミレスとかで済ませていたので、今日とばかりは豪華な料理を沢山食べている。


 周りを見ると、彼らと同じ歳ぐらいの30代前半ぐらいの若いカップルが談笑しながら話しており、ここにきてよかったなと隼人は思った。


「あ! ねぇあれゴールデンブリッジじゃない! 撮影しようよ!」


 雅美は最新式のスマホで、ゴールデンブリッジを撮り始めており、船内では売れなさそうなお笑い芸人がイベントをやっている。


「はいさて、番号くじ1番の方! ペアでホテルが当たりました!」


 カンカン帽を被った、若手のお笑い芸人はテレビではみたことはなかったが、くじ引きで当たったホテルの宿泊券を隼人に手渡し、拍手喝采で出迎えられる。


「凄いじゃん! 当たっちゃったね!」


「あぁ! 来年の二月だ! 絶対に行こう!」


「まずうちらは仕事を探すことからだよ!」


「だな! ねぇ、これから、年末のセレモニーをやるみたいだよ! 甲板に出よう!」


「いいね!」


 隼人達は、最後だからと高い金をはたいて購入した、某大手アウトドア洋品店の8万円のアウターを着て、外に出て行った。


 船内には海外の人、それも中国人が多く乗船しており、中には咳をしている人が何人かいるが、マスクをせずに飲食をしている。


       💊💊💊💊💊

 深夜の1時半、彼等は予約したカプセルホテルにおり、シャワーを浴びて寝巻きに着替え終え、ダブルベットに寝ている。


「ねぇっ……」


(これはやれるってサインなのか!? よっしゃ!)


 隼人は25才になるが、未だに童貞野郎であり、何度かベットインしたが、雅美から「本番するのが怖いから」と、触れ合うだけにして終わった。


「変なことしたら嫌よ。私が子供作れないの分かってるでしょ?」


「……」


 雅美は、過去に売春グループに所属しており、性器クラミジアに感染して排卵異常が出てしまったため、子供は作りづらいのである。


「あぁ、分かったよ、ごめんな」


(中出し本番したかったなあ、デリヘルの時みたいに)


「寝よう、遅いし」


「あ、あぁ……」


 隼人は目の前に美女がいるのに、何もできないもどかしさを噛み締めながら、深夜遅くということもあり眠気に襲われて深い眠りについた。


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