大地宇宙的に言えば、この感情に名前を付けるならなんだろう?
社長がギャーギャー騒いでいるが、とにかくユカの口からは、ずっと僕の事についての話は出てきていない。
何やら戦いに負け、連れて行かれ色々され、瓜生さんとやらに助けられ、それの繰り返し。
僕の話が出てきたとしても『その日は用事があった街に出た』とかそんな感じ。
居ない、僕の存在はユカの中にいなかった。
心を読んでいた時もずっとそう、僕の事を考える時間なんてなかった。
悲しい、悔しい、辛い、苦しい……うーん。
どれも当てはまらない様な、複雑な感情の波。
『お前、女優ならストーリーぐらい把握しろ!』
更に社長が意味わからない事でユカに絡み続けている。
それは良い…いや、良くはないけど今の僕にはそれに触れる余裕は無い。。
『銀色宇宙人なんて丸パクりやろがい!がい?』
社長の声や変な口調を聞いていると、落ち着かないので頭を冷やそうと一回外に出た。
この時、僕は本当に油断…と言うか混乱していて、外でウルトキングが待ってたら即死するぐらい油断していた。
事務所のあるビルから出て、座り込みながら考える。
「ユカ……付き合っていたけど僕の事は好きじゃなかったのかなぁ……でもまさか、ウルトキングにとられるとはなぁ…」
独り言が宙に飛ぶ、何も無い空間に響く…淋しい。
あぁこれが地球で言う所のNTRってやつなんだな…
「そんなにウルトキングの方が良かったか…えっちな事?いや、僕とはしてないし……あ、涙が…そうか、これが悲しいっていうのか…いや、悔しい?ユカ…そんなにアイツの事が……」
『いやぁそう言う訳では無いと思うけどね。IVY…ユカの場合は自業自得かな。だって入学式の時はまだ、君が戦う理由だったから』
はい?何でいきなり返事が??
『それにしてもアレ、瓜生ってウルトキングって言うんだね?』
うお!?急に声が聞こえたと思ったら昼に話した真田寧々子さんが居た。
「いつから聞いてたんですか?」
『結構前から居たよ?出てきても全然気付かないし…確かに気配は消してたけど君なら気付くと思ったんだけど?いや、ユカが拉致られたって聞いたからこっそりと見に来たのよ』
今は…あんまり人と話したくないのだけれど…
『ん〜…ソラ君ってタツ…社長とかと関わりあるじゃない?だから言っちゃうと……私は不知火の諜報機関なの…それもまぁ偉い方で…で、防専だっけ?あそこの装備もウチから出てるから……つまり何が言いたいかって言うと、全部私に筒抜けなんだよね』
そうか…よく分からないけど寧々子さんは地球では偉い人なんだな。だから何でも知ってるのか。あの瓜生とか言うウルトキングより地球では偉いのだろうか?
「じゃあ……この不思議な感情はなんでしょうか?悲しくて辛くてやりきれない…疲れた様なこの感じは……」
『いや、私だって君の感情までは分からないよ…君らの存在すらちゃんと把握してないんだから』
「そうです……か…」
『正直ね、君と、ユカと瓜生、他、数人の生徒は…不知火上層部では危険な存在として扱われている。地球外から来た上に、人間を脅かす様な事をしているんだから。我々のルールで考えれば、手を取り合うとかは理想で、とにかく全員消したいところなんだよね。理由とかはどうでも良い、我々で言うところの外界…宇宙からやってきて、地球人に悪影響を及ぼすならそれは敵だから』
そうだよなぁ、攻撃してきたらそれは敵、裏切ったらそれは敵、当たり前で…ユカは…僕を裏切ったんだろうか?敵…なのかな?
『それと同時に人間の中にも敵がいる。その瓜生と言う奴は不知火の天敵である異界の侵略者【光】と言う集合体と繋がっていて、更には人間にも協力者がいる。人間で外界、異界の者と手を組んで利益を貪るのは裏切り者以外、何者でもない。私はどちらかと言うと、その裏切り者の処分が専門でね。だからもし瓜生…ウルトキングやユカを消すと言うなら……どう?』
寧々子さんの差し出した手を……僕は掴まなかった。
僕もそれなりに永くこの世にいる存在で、存在維持にこだわりはない。
自分の存在とは……別にウルトキングと敵対するのが地球での存在証明では無い。
ただ、ユカと一緒に居た時、居る事が僕の………
「僕はとりあえず、もう少し考えたいと思います。社長や大家さんにはお世話になりっぱなしだし、ユカの事も考えたいです。でも、寧々子さんも昔からの知り合いなので敵対したくありません。近いうち、ユカと話し合います。そこで決別するのであれば寧々子さん達とユカ達が敵対する事に何も関わりません。それで如何でしょうか?」
社長は困ったら何も調べるな、見た事実だけを信じて逃げ出せと、いつも極端な事を言っていた。
そんな時に旦那の大家さんが、少しでも気になるなら真実を追求すべきだと思うとも言っていた。
――追求した結果、NTR耐久トレーニングとか言い出した挙げ句、元カノの浮気の理由がアホ過ぎて急に冷めてしなきゃ良かったとか言ったのヒロじゃん――
その台詞を社長が言った瞬間に、大家さんが社長に襲いかかった……いや、あの人達の事を考えるのはやめよう。
『ふ~ん…しかし宇宙人ってのは結構ドライ…いや、冷静なんだね。瓜生を見ている限り人間を見下した感情的に動くクソ野郎って思ったけど……うん、その案でいこう。じゃあ、今度その話し合いの前に私の知ってる事を教えてあげよう』
クソ野郎って、ウルトキングは地球で何やってるんだろう?
こうして寧々子さんと二人で部屋に戻ると、社長は僕が部屋を出た時と同じ位置で、ずっとユカの横でケツを叩きながら何か説教をしていた。
『だからそれを裏切りって言うんじゃい!なんでぇっ!?て言えっ!連載を再開しろ!』【パアァァァァァン!!】
『ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッッッッ!!!』
何やってるんだろうな、本当に。
寧々子さんが社長と何か話した後、ユカを段ボールに入れた時(本当に入れるとは思わなかった)、また嫌な言葉を聞いた。
諦めていこうと思ったのに、気持ちの舵を切った直後に。
ユカは段ボールの蓋が閉まる瞬間に確かに、皆が聞こえないぐらいの声で言った。
――ソ…ラ…ごめん…ね…本当にごめ……さい――
それから何日か、ユカとは連絡を取らないまま、仕事をしながら考える。
けれどいつまでも結論がつかない。
一体、何が本当なのか分からないまま、僕はある晴れた日に、別れるつもりで近所の公園にユカを呼んだ。
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