僕と由佳の物語③〜ヒーローの階段を僕は登れない、つまり置いてかれる
今は話し始めた昼、半笑いで僕を穴から出した後、現場に出前を呼んで暇そうにしている社長が言った。
『分かっただろ、ネコ?この様に、ホラ貝は嘘ばかりつきます。人の事を化け物だの、だからあだ名がホラ貝、何か問題でも?ありますね、私にとって沢山、だってうちの会社のバイトだから。まぁサトルやらお前とつるんでいるオレの母親はキ〇ガイは合っているけども?』
社長の知り合いで近所に住むお姉さん、通称ネコさんは部下っぽい人にこれ以上は聞かない方が良いから帰れと帰らせて、今は社長とネコさんと三人でいる。
『黙れ
「いえ、社長にはお世話になっているのであまり言えないんですけどね、どうかしてるな…とは…」
社長にキッと睨まれ『貴様ァ゙…』と凄まれた…
『まぁ、確かにあの日の真相は君等にとって、どう見えていたのか…そこも詳しく聞きたいけど、今は由佳のその後を聞きたいな』
「はい分かりました…と言っても防専に入ってからは本当に、薄くなってますね…関係性が。まぁそれでですね…」
僕はユカとの美しい最後の思い出と、心が離れた事を話した…
―――――――――――――――――――――――
高校三年の始め、この時はまだ僕とユカは繋がっていた気がする。
恋人の様にデートして、お互いの愛を確かめ合う。
と言ってもキスまでで、それでも僕は幸せだった。
同時にユカは、より身体を鍛え、勉強した。
だからデートやウチに遊びに来る事が少しずつ減っていったけど、それでも時間を作って僕や婆ちゃんに会いに来た。
『最近、育子さんの調子悪そうだな…大丈夫かな』
「本人は間もなくだって言ってたけど…どうだろうね」
夏休みもお互い忙しかったけど、水族館や海に行った。
子供っぽいって言われるかも知れないが僕は地球の生き物が好きだから…
それにもう一つの宇宙と言われる深海…
「ごめんね、何か僕の好きなところばっかり…」
『アハハ!ソラらしいよ!私も楽しいしな!ほら、アシカのショーが始まる、一緒に見よう』
時には電車で海に行ったり…友達も増えたせいか男っぽい服は減り、少しお洒落になったユカ…綺麗だなと思った。
『高校最後の夏に海なんてロマンチックだな…こうやって平和を楽しめるなんて幸せなんだろうな』
手を繋いで、キスをして…そうだ、ちょっと大人のキスもしたんだよ。
いつかその先もしようって約束したんだ。
『ソラとの関係は大事にしたいんだ…だから…その…』
「焦らないで。僕は待つから。大好きだよ…ユカ」
『んッ…♥ソラ…もっとキスして欲しい……』
思えばウルトの力を持っていたとしたら、心に響いていた筈だ。
処女を失うと弱る力、ウルトキングの嫉妬心の結果の産物。
決して自分を裏切るなと言う呪いのようなもの。
そして秋頃に運動能力、知識、判断力の優れていると言われ、今年から出来た不知火防衛専門学校のスカウトの人がユカに会いに来た。
『彼女はフィジカルも優れていますが、何より変わった力がありますね?』
僕はウルトの力を知らなかった。
だからそんな事を言われたとしか聞いてない。
気付かなかったのは僕の前で力を使わなかったから、そして一緒にいる時はバックにしまっていたのか、多分…ウルトのコアの破片を持っていたのだろう。
単純にユカの努力が認められた思っていた。
「おめでとう!僕も鼻が高いよ!本物のヒーローになるんだね」
だから純粋に喜んだ。
『ありがとう…でも、高校はもう行けなくなる…インターンの形で来週から防専に行くんだ。寮に入って週に一回は帰ってくるけど……ソラも育子婆ちゃんで大変な時にごめん…』
「僕の事は気にしないで、ユカはヒーローになりたかったんでしょ?夢が叶って良かったよ!それに電話も出来るしたまには帰ってくるんでしょ?」
『うん!絶対連絡するから!』
しかし、それから…ユカとは少しづつ会わなくなった。
週に一回家に帰ると言っても、殆どは本当に少しの時間帰ってくるだけ。
訓練は厳しいらしい、それでもユカはイキイキしていたけど。
そして僕自身、育子婆ちゃんが寝たきりなったのもあり、時間が減っていく。
だから月に一回、少しの時間しか会えないのも仕方ないと思っていた。
デートは無くなり、時折ファーストフードで話したり、公園で話す程度の関係になっていく。
話す内容も、ユカの訓練が厳しいが楽しい話、それに…
『今、学校が出来たばかりで一期生だが、二つほど年上の先輩がいてな。まさに私が目指していたヒーローそのものだった。格好良かったなぁ。私もあんな風に……』
憧れの先輩の話。
これは何とも言えない気持ちになった。
僕も色々、地球で学んだつもりだ。
だから思う。
何でそこに僕が居ないんだろう、とか。
僕への気持ちはどこに行ったんだろう、とか。
要は嫉妬だ、ウルトキングの持っていた、嫉妬。
「ふ~ん、凄いね、ユカはその先輩の事、好きなのかな?」
『ソラ…?私はそんな事言ってないが…』
僕の嫉妬が加速していく。
そして、純粋に先輩とやらの話はつまらない。
ユカの訓練の話は楽しく聞けるのに、その先輩の話はとてもつまらない。
態度にも出ていたのかも知れない。
憧れの先輩の話の時はムッとする、アイドルやミュージシャンの話に嫉妬する様なものなのに……と。
そんな態度がユカから出る、僕がつまらない男と言わんばかりに。
そして僕の失敗…ユカも忙しいと思っていた…のは言い訳で。
全然連絡も取れないし、話も盛り上がらない。
卒業式に言葉をかわす程度。
だから……
卒業してから、僕は時間の都合もあるので育子婆ちゃんと懇意にしていて、通っていた道場の師範の社長とその家族にお世話になる事が多かった。
だから育子婆ちゃんが亡くなった事、その事はユカに連絡しなかった。
僕も最後は看護やお葬式で手がいっぱいだったのもあるし、社長や社長の旦那さんの大家さんが手伝ってくれなかったら無理だった。
メンタルはともかく時間が足りない。
これで悲しさも背負うなんて、地球人は本当に良くやると思う。
亡くなって一カ月後ぐらいか、防専に入学して暫く経ってから、公園でユカと会った。
育子婆ちゃんが亡くなった事を言った。
その時に言われた言葉は今でも思い出す。
『何で……そんな大事な事…言ってくれなかったの酷い……よ…………』
裏切り、見損なった、そんな感情が伝わった。
心に渦巻く悪感情。
「あ、ご、ごめん」
僕も心の中では、反発する。
話さえ聞こうとしなかったのはどっちか…連絡も取ってなかったし、家にも全然来てなかったのに。
半年と言えど疎遠になり、今後の事で社長や大家さんとばかり関わっていた自分が悪いのか?
何でそんな事言われなくちゃいけないのか?
でも、この気持ち。
人に話していて、モヤモヤした感じ。
諦めたくないけど、どうにもならない。
あぁ、これが人間……人間なんだな。
それからはまぁ…まだ、付き合っている…程度の関係性だ。
ちゃんとしろ、まだフラフラしてるのか、将来のことを考えているのか?
まるで自分がいないとこの人は駄目だ、居なくなるからちゃんとしろ…と言わんばかりに。
ユカは僕に恋愛を教えてくれた。
そしてこれから別れの悲しみを………
―――――――――――――――――――――――
「って、聞いてましたか?」
『タツ、何で出前でラーメン頼んでるのにカップラーメン食うのよ』
『は?替え玉って知らないの?オレは常に替え玉を用意する、私生活でもな!ネコ、お前本当に人間?あぁ、ネコはキャットフードしか食わないか。だからクセェんだよ、屁が』
『黙れよ、クソコケシ女………』
この人達…本当に聞いていたのか?会話すら出来てない。
僕は疑問に思っていると…
『あ、ゴメンねソラ君、ちゃんと聞いてたよ。なかなか辛い目にあってるんだね…』
『ネコが後半に、思ってたのと違うなって小声で言ってたぞ(笑)創作に駄目だし(笑)』
「いえ、創作ではありませんが…」
『創作の話じゃないし…いや、相武由佳だけどね……ちょっと上から嫌疑がかけられていて…まぁ秘密事項だから言えないけど…』
うーん…と唸ってからネコさんが真っ直ぐ僕を見る。
『人間っていうのは、何かを成そうとする時に、目標以外の事、大切なものを見なくなる。間違えているとは言えないけど、いつかそれは後悔に繋がる。後悔に変わって、初めて見えていなかった事、大切なものを失っている事に気付く……それを許せとは言わないけど…せめてそれを見てあげて、そして関わって欲しい。失ったままだと人は壊れるから』
これは頼みじゃなくて願望だよ、と付け加えて。
『つまりホラ貝は捨てられた…と。じゃあ新しい女に行け、嫌なら再構築、最近は生半可な再構築じゃコメ…まぁ良いや、そもそもお前の話なんざ誰も観ちゃいないし』
「あ、でも今日、廃病院でユカと会うんです!僕も何があったのか知りたい」
例えそれが裏切りでも、何か理由があったとしても…
『廃病院って良くそんな怖い場所でデートするな?しかも男いるのにデートって、NTR耐久トレーニングじゃねぇか…どうでも良いけどあのボロ家に女連れ込むの嫌なら、夕方以降だったら根多建設の事務所使って良いぞ?あのビルウチしか使ってないし?ただし金を払え』
ネコさんが僕らの会話にため息をつきながら入った。何か名刺の様なものを出しながら。
『とにかく私は帰るけど…ソラ君、これは私のホットラインね?この電話は大事な人からしか教えてない電話だから、何かあったら電話ちょうだいね?』
「はい!分かりました!」
僕は仕事が一息ついたらユカに会う。
化け物姿で…だけど本心を聞きたい。
僕以外を選ぶなら…それでも…
仕事終わりに気付く、もうそろそろ約束の時間だと思った。
ユカの様子を見ようと思ったら、僕のユカの子宮に潜ませた種が消えていた。
つまり…誰かと既に性行為した後だった……
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