教会の掃除
レイヴンとアリスは、農夫を手助けた次の日、教会の掃除を行うことにした。
アリスが少し長く村へ滞在することになってしまったのも、司祭が引き継ぎの間違いでおらず、教会の業務を取り仕切ることになったからだ。
アリスは村長から教会の鍵を受け取ると、レイヴンと連れ立って、村の中にある教会へと向かっていく。
教会の前へとやってきた二人は、扉を開けて中に入ると、そこには神を象った彫像と、日差しによって彩り豊かに輝くステンドグラスが出迎える。
「綺麗な場所ですね」
アリスは感嘆の声を上げると、教会の中を歩き回りながら見ていく。
レイヴンは教会の扉によりかかり、興味なさそうにアリスを見る。
「逆に言えば、綺麗なだけだ。綺麗なことが何に役にたつ?」
「あら、綺麗だと心が静かになり、落ち着くものですよ。レイヴンも、教会に来るとわかるかもしれないですよ?」
「チッ、私は魔族で四天王だぞ。なんで教会に」
「ま、そんなことはいいんですよ。はい、これ」
そう言いながら、アリスは雑巾とバケツを渡す。
レイヴンは眉間にしわを寄せながら、それを受け取る。
「掃除をします。レイヴンも手伝ってください」
レイヴンは憎たらしく『封魔と使役の腕輪』を一瞥したのちに、そのバケツと雑巾を受け取る。
「仕方ない」
「はい、お願いしますね」
アリスは嬉しそうに笑うと、レイヴンの掃除を見守る。
レイヴンはバケツに水を入れると雑巾を絞り、床を拭き始める。
「そういえば、レイヴン。この彫刻のモデルになった人を知ってますか?」
レイヴンは顔を上げて、彫刻を見る。その彫刻は静かな笑みを湛えた女性で、その女性を子供の天使たちが囲んでいる。子供たちはその女性に対して、花束を渡したりしており、その女性も子供たちの頭を優しく撫でたりしている。
「この彫刻のモデルになった女性は『大聖女』なんです」
「……大聖女か」
その言葉を聞いて、レイヴンは苦々しい表情をする。
大聖女は、聖女の中でも、世界を救うほどの聖なる力を持つ存在のことだ。
そして、魔族達にとっては、天敵そのものとも言える。
「そして、私は大聖女になりたくて、旅をしているんです」
「なるほど、世界を救うためにか。立派な志だ」
レイヴンは皮肉っぽく言う。
「ええ、そうです。大聖女になって、魔族と人間の争いを止めるんです」
「魔族一人一人に『封魔と使役の腕輪』を付ければ争いは無くなるわけだしな」
「『封魔と使役の腕輪』は世界に幾つしかありませんよ」
「……そういう問題ではない」
「まあ、私は魔族の皆さんと仲良くなりたいんですよ」
アリスはそう言って笑う。
そんな会話をしながら、二人が掃除をしていると、二人の村人が入ってくる。その村人は、男女の組であり、腕には子供を抱えている。
「あ!聖女様!」
男女はアリスのことを見るやいなや、深々と礼をした。
「こんにちは」
アリスは赤ん坊に声をかける。赤ん坊はその声に反応して、愉快そうに笑い声をあげる。
「レイヴン、この子かわいいですよ。どうですか?」
「ふん、私は子どもというのが嫌いだ」
「全くもう、レイヴンは……」
アリスは少し呆れながらも、その子供たちに微笑みかける。
女性が口を開く。
「実はこの子、数日前に生まれたものでして……聖女様に祝福をお願いしたく、やってきました」
アリスはその言葉に快く応じる。
「ええ、もちろんですよ。祝福してあげましょう」
「ありがとうございます!助かります!」
そう言って、男女は赤ん坊をアリスへと渡す。
アリスは目を閉じ、赤ん坊に対して呪文を唱えた。そして、そのあとにおでこに対して、キスをする。すると、赤ん坊を優しい光が包みこみ、赤ん坊はきゃっきゃと喜びだす。
「はい、祝福できました!貴方のお子様は、神に祝福されています。このお子様には常に神に見守られています」
「ありがとうございます、聖女様!」
二人は更に深く礼をしたあと、教会から出ていった。
アリスは二人が見えなくなるまで見送っていた。
レイヴンは先ほどの祝福について、アリスに尋ねる。
「神に見守られている、か」
「ええ、そうですが……」
レイヴンは皮肉っぽく言う。
「ふん、神が本当にいるなら、魔族と人間は争っていないはずだ」
「そうかもしれませんね」
アリスは一瞬、悲しそうな顔をするが、すぐに笑顔を作る。
「さ、掃除を再開しますよ」
その後も、教会には困っている人達が来た。
畑の近くに凶暴な野犬がいるからおっぱらって欲しい、と言われたり。
屋根の修理中に骨折してしまったので治癒して欲しいと言われたり。
それこそ、単純に子供たちに遊び相手になって欲しいと言われたり。
……と、その内容は様々だった。
しかし、アリスは困っている村人たちに対して、嫌な顔一つせず、治癒魔法をかけてあげたり、レイヴンと一緒に出かけていったり、子供たちと遊んであげたりしていた。
そして、時間はあっというまに過ぎていった。
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