第5話 小弓公方足利義明の儚い夢
北条方の兵士たちが一斉に救援に向かう。
足利義明はすぐに下馬し、手綱を引いて、馬を北条の兵士たちの方向に向けた。そして、すばやく馬の後ろに回り込むと今度は急所を蹴り上げた。驚いた馬はいななきを上げながら駆け出した。馬は北条方の兵士の前まで来ると今度は両前足をあげるなど、散々暴れまわった。北条方の兵士は馬一頭に妨害されて混乱状態となった。
北条氏綱が鉄砲頭に目配せした。鉄砲頭の指示で鉄砲隊が横一列に広がる。
「鉄砲隊、かまえ!」
鉄砲頭の指示で鉄砲隊がかまえるが、すでに二人は至近距離で鍔迫り合いを始めていた。鉄砲の筒の先では、二人の影が交錯。足利義明のみの狙撃はできない。
弓矢も同じである。うかつに矢を放てば北条氏康に命中する。
その間も切り合いが続くが、義明の激しい斬撃により、氏康は劣勢に追い込まれていく。
北条氏康は足利義明の吐息を感じながら思った。
なんという剣圧。なんという威圧。これが小弓公方の実力なのか。これこそ武士の鑑。これぞ武士の棟梁。
氏康は思わず膝をついて平伏した。
「氏康、降伏いたします。義明殿の上洛にお供いたしたく思います」
氏康が地面に這いつくばり、頭を下がった。義明は荒い息遣いを続けながら、それを見下ろす。目の前に北条氏康の後頭部が見えるが、とどめは刺さない。この時、義明は鉄砲隊の標的に捉えられていた。
その時、足利義明は一瞬、夢を見た。京に上り、帝に拝謁し、そして、征夷大将軍に任じされる夢を。
そうだ。北条は幕府政所を務めた伊勢家の末裔であった。北条は許そう。幕府再建のためにも。
しかし、里見だけは許すわけにはいかん!まず、里見を討ち、関東を平らげ、その後に上洛を目指せばよいのだ。
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