第2話 決戦前夜 慎重な氏康
合戦前日の晩、北条氏康は北条綱成に渡河作戦について進言していた。
「なに?義明への攻撃を中止せよだと?」
綱成は氏康の申し入れに困惑していた。兵数では北条が圧倒している。足利は大将の良明が出陣している。相手の本隊を直接叩く好機であるからである。しかし、構わず氏康が説明を続けた。
「相手方は足利尊氏の血を引く小弓公方の足利義明殿で、我々は室町幕府で政所を務めた伊勢家の末裔。このままでは我々は主君筋に弓を引くこととなります。大義がないかと」
「では、なぜ、義明は里見と一緒にいるのか?里見は訳のわからない安房の地侍。由緒正しい足利将軍の末裔なら、朝廷とよしみのある北条と組むべきだろう」
「それは、伊勢宗瑞が堀越公方を討ったからでございましょう」
「いまさら、そのことをいうのか」
「しかし、万が一にも小弓公方の足利義明殿が討ち死にでもすれば、我ら北条は下剋上の武士として後世に伝わるのではないですか?」
「うむ、それも一理ある・・・」
氏綱は考え込んだ。しかし、敵を前にして何もせずに撤退すれば味方の士気に関わる。しかし、今まで大名たちを相手に散々暴れまわってきた氏康が慎重になっているのは一見、気がかりだ。
「よし、わかった。渡河中に攻撃があれば引き返せ」
翌朝、北条軍は太日川を渡河したが、渡河中に攻撃は行われなかった。
北条軍は無事に渡河を完了し、東側の河畔に集結しつつあった。
国府台の松林が静かにその様子を見守っていた。
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