第13話
倉庫の中に数人の足音が入って来る。
「明かりを付けます」
何者なのか、黒いスーツを着た大人の女性達はライトを取り出して倉庫内を捜索し始める。
「人影は見当たりません、外から鍵が掛かっていた所を見るにここにはいないかと」
梯子は片付けられていて、夜の暗さだと、上に明かりを向けない限りは中二階がある事は気づきにくく、見つかることは無かった。
「よし、一人は残り他は次の場所へ」
それも、早口であるのと同時に声が少し大きい事を聞くに、何処か焦った様子でいるから見つからなかったのだろう。
女性達は外に出ると、扉を閉めて何処かへと去っていく。
何かのリーダーらしき人が言った通りに、倉庫内には一人の女性が残り下で再度何かを探し始めていた。
「…………」
フウカは落ち着いている。
ゆっくりと、音を立てないように下を覗きに行くと、暗闇で顔は見えなかったが確かに誰かがライトを持ち歩いているのが分かった。
「…………?」
なにもの………?
あいつらが何なのかは分からないが、ウチの…南宮くんの敵だと言うことは分かる。
南宮くん、または例のあばずれくそめすぽんぽこ。
どちらかを探しているのは明らかで………学校にも姿を見せなくなったあばずれの方がこの場合は可能性が高いと考えられる。
「…………」
ササノの方なら良いのでは?と思うかもしれないが。
彼女を探しに来たという事は、彼女は今の女性達から逃げているからカナタの前へ姿を現さないという事であり、そうするとカナタは目的を達成する事が出来なくなってしまうのだ。
「……………」
てき………。
南宮くんの敵ならば、ぼこぼこのぎたぎたにしてやりたい。
その気持ちを抑えて、フウカはじっと隠れる。
このまま朝を迎えてカナタが来てしまえば、下の女性と鉢合わせになってしまい、女性が何をするか分からない状況だ。
「…………」
事前に倒して置くことはしない。
もし、南宮くんが倒すのではない違う選択をするのであれば、ウチの行動は迷惑になりかねないから。
だけど……………。
南宮くんに何かをしようとしたなら…………………………………。
「…………………」
フウカの視線はゆっくりと、下のライトを持つ人物の影……その首元へと移動したのだった。
……………………………………。
それから数十分後、外では雨が振り始めていた。
「………かなた…」
雨で視界が悪く、奇跡的に倉庫まで見つからずに辿り着いた。
車で一時間もの距離を…川の水やそこらの野草を食べながら、見つからない様に隠れながらの状態で、一人の希望に会う為…ふらふらになりながらも必死にここまで歩いてきた。
彼女、霧島笹乃が追われる身になった理由…。
それは、約一週間前の出来事だった。
無くされた物を買う許可を取りに、お客様との商談途中である母親が居る部屋へゆっくりと向かったあの後。
「許可を貰ったら明日までに用意して」
主人である私の一歩後ろを歩く召使いに、渡したメモ用紙に書いた物を用意するように指示する。
もし明日になっても用意できなければ、彼女にこれ以上ここで働く権利は無い。
返事を返す召使いは、ここで生きるのが長く落ち着いた様子でいた。
「お待ちを。」
目的地の部屋に近付くと、召使いは足を速めて抜かして行き、霧島が立ち止まる場所を予測して振り返る。
そして、丁寧にお辞儀を行うと、母親が居る筈である部屋の前に立つ他の召使いに近づいた。
「どうやら、お客様とトラブルがあり、まだお時間が掛かる様子との事です。それまでお待ちするお部屋にご案内いたします。」
戻って来た召使いの言葉に、霧島はつまらなそうに否定する。
「いいから、面倒だから部屋の前で待ってるわ」
「畏まりました」
会話を聞いていた他の召使いが廊下に持ってきた椅子に座り、目を瞑る。
自然に浮かぶ恋人の南宮彼方、彼の姿を思い出しながら、背もたれに寄り掛かり息を漏らした。
「はぁ…」
明日も………いいえ、明日は。
彼に何をさせようか?
「っ…はぁっ///」
想像しただけでも私の身体は胸の底から広がる感覚に震えてしまう。
彼が触れる快感を知っていて、これ以上の事をすれば頭が壊れてしまうのではないかという恐怖を覚えるほどに……。
実際、感じる恐怖よりもそれ以上の快感を求めて少しずつ……本当に少しずつ彼とのスキンシップを続けさせる。
それで得られる快感は、自分でも実感出来る程身体が気持ち良く、頭が痺れるもので……。
「…………///」
あの快感を与えてくれる彼がいれば……………。
ガシャン!!!
「なんなの!?」
霧島は、母親が居る部屋から聞こえたガラスの割れる音に直ぐ様立ち上がり、部屋の中へと入る……のをあと一歩のところで我慢して、耳を扉に近づけて中を伺った。
『私は心配しているのです。』
まだ幼く感じる落ち着いた声……どうやらこの声は商談相手の様だ。
『最近、笹乃様はとある殿方に夢中の様です。それも依存し始めている程に………。そんな彼女に果たして務まるのでしょうか?』
『わ、私の娘が……?』
娘である笹乃の現状を言われ、動揺した母の声が聞こえた。
「な、なんで知って…?」
動揺したのは笹乃本人も同じ、何故その事を知られてしまっているのか、それも母親でもなく召使いでもない相手に。
『えぇ、最近ご購入された〇〇番地の倉庫…そちらで密会しているそうです。』
『そんな……』
霧島母はその危険性を十分に理解していた。
無闇に近づき過ぎると、裏の事を知られるかもしれない。
増しては相手は男。
男が女である自分の娘に近付く事は、何か目的があって近付いている事になるとそう確信した。
『そんな彼女に次期商館長を任せるのは危険と判断しました。そして、組織が露呈する危険な行為を防げない貴女にも……現商館長は務まりません。』
『……………』
「……ぇ…?」
怪しくなる話の方向性に私は最悪な状況を予想してしまう。
『ですので、先程も言いました通り、貴女方霧島家には男楽商館を譲って頂くことに致しました。』
「っ!!」
やっぱりそうだった。
先程聞こえたガラスが割れる音は、霧島母が動揺して手からグラスを落とす音だった。
彼女は、目の前の少女が言う通りにする権力がある事を知っていた。
だから動揺する事にもなり、今現在抗えない状況である事に絶望した表情を見せているのだ。
『それでは、貴女には情報を漏らされないよう拘束させて頂きます。』
『っ!きゃっ』
中から聞こえてきた小さな悲鳴に、笹乃は扉を開こうとノブに手を伸ばす。
「っ…」
「そこまでです。」
伸ばした手は、先程まで付き添っていた召使いに腕を掴まれて止められてしまった。
「あ、あんた……買われたわけ…?」
腕を掴んだ召使いも、いつの間にか周りを取り囲んでいた他の召使い達も、謎の商談相手に買収されているのだと直ぐに分かった。
「申し訳御座いません、契約内容がよかったものですから。」
こんな状況でも無表情で言う召使いに、私は恐怖を覚える。
逃げ切れない……新人やそこらの普通の召使いなら兎も角、物心付く前から専属であった腕を掴んでいる彼女の能力は、嫌でも知っている。
「こちら、辞職届で御座います。」
彼女はしゃがみ込むと、着ているメイド服のスカートの中から纏められた紙を握らせてくる。
「それでは。」
「っ!!……ぅ…」
手刀が振り上げられ、咄嗟に逃げようとするも敵わず、霧島は首を打たれ気絶してしまった。
………………………………………。
貞操逆転世界〜回帰した奴隷〜 あざと街 @azatomati
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