第12話

 夜中の涼しさは何処に行ったのか、彼女達は蒸気を発していた。


「はぁ…///………はぁ///……はぁ///」


 息を切らし、霞んだ目でユウコは目の前に立つフウカを見つめた。


「なに…を…………して…」


 何故、自分がフウカにあんな事をされていたのか。

彼女は訳のわからない状況に、嫌悪感と恐怖を感じていた。


「………ん…もどった…」


 気分が悪そうに、顔色を変えたフウカが呟く。


「……な…に………?………っ!」


 次第に意識がはっきりとしてきたユウコは、フウカが向けている表情に気づいて固まった。



「…は………」

何も喋れない。

 出そうとした困惑の言葉は、喉に詰まったように止まった。


ガンッ!!!!



「っ!?!!!」


 ユウコは、突然の大きな音に驚いて横を向く。

そこには、縛られた状態のメイとホノカが暴れて、床を足で思い切り鳴らしている姿があった。



「…………ぇ…」


「………言って」


「っ!」


 キョロキョロと、横の二人と目の前のフウカに目が動く。


何がどうして、三人がこんな風になっているのか分からない……。


「ど、どうしたのフウカ?…言うって何を?!この状況フウカがやったの?!」


 フウカも縛られてはいるが、自分達みたいに全く動けない訳じゃなく、違うと思いつつも彼女に聞き返した。


「……何があったか…………言え」


「な……なにを…?…なにがあった……?わ、わからなっ」


バンッ!!


 フウカは突然、隣に縛られていたメイを、縛られた状態で器用に腕を振り回し、思い切り頬を叩いた。


「思い出して……早く」


「ひっ……」


 いつものフウカじゃない。

喋り方も覇気があって、のんびりとした様子じゃなかった。


「……十分…それまでに思い出して」


「…………………」


 ユウコは何も言えず、頭を回転させるしか無かった。



 学校………そう、確か学校にいたはず…それなのにどうしてこんな事になってるの…?


 誘拐……。

いや、私達を?


 誰かに恨まれていた?

それは……なくはないかも知れないけれど、ここまでされる程?


 分からない…分からないよ………。


 考えるほど自分の状況が分からなくなってくる。

三人で話していた所までは確かに覚えている。


「学校にいたはず…だけど」


「…なに?」


 変わらず、フウカが圧を掛ける様に続きを言うように催促してくる。


「っ…お、思い出せない!思い出せないの!!三人で話していたらいつの間にかここにいたみたいな感じなの!」


 様子のおかしいフウカに、こんな言い方をしたらどうなるか。

そう怯えながらも、ヤケクソ気味に言い放つ。


「っ…」


 さっきみたいに、わたしも叩かれると思い目を瞑る。


「………………使えない…」


「ぁ……」


 心の底から言っている様に聞こえた言葉に目を開けて、背中を向けてこれまた器用に座り込むフウカを見る。


「………もういい」


 座り込んだフウカは、斜め下の…一点を見つめて不気味に考え事をし始める。


 暫く私は何も考えられなくなった後、ふとフウカの物凄い集中力を見て一つ、とある人物の姿が頭に浮かんだ。



 南宮くん……………?




ドクンッ。


 そうとしか考えられなかった。

いつものんびりとしているフウカが、あれだけの気迫を出すようになって、あれ程狂ったように考え事をするなんて……。


 そう、最近私達四人が夢中になっている一人の男子生徒、特にフウカは誰よりも狂ったように彼を追い掛けていた。


 その人に関する事以外考えられないのだ。


ドクンッドクンッ…




「いっ…」

突然、頭痛がし始める。


 頭に血が上った様に、熱を帯びる感覚………。


 押さえたくても、縛られていて頭を抱える事が出来ず、ただ痛みに耐えるだけしか出来ない。


 自分に何が起きてるのか、怖くなり目を瞑る。

痛くない、痛くないと言い聞かせて無理矢理に痛みを引かせようとする。


 なにこれなにこれなにこれ……なんで?どうして?……少し南宮くんを考えただけ…で………。


 

 南宮くん…?なみやくん……なみやくんだナミヤくん。

そうだ、わたしはナミヤクンが欲しいだけ。


 ナミヤクンが手にハイれば、このクルしさもナクナル。


ナミヤクンナミヤクンナミヤクン。






「…やくん…ナミヤくんナミヤク「やっぱり媚薬?」ぇ?」


 熱い感覚が残ったまま、意識だけが戻って来る。


「……ぃ…ま…?」


 今のはなんだったのか……。

一瞬夢を見ていた様な感覚があって、変な気分が残っている。


「媚薬………使った?」


「び…やく…?」


 何を言っているの?

そんなもの、使った覚えも、そもそも何処で売ってるのかさえ知らない物を……あれ?


「……く…すり?」


 媚薬が何処に売っているのか考えた時、自然と薬屋さんが頭に浮かび、よく見る薬の入った小瓶を思い出した。


 そこで、何かが頭の中で引っ掛かる。


「………っ?」


 確かに、何か薬の小瓶の様な物を見た覚えがあった………けど、どうしてもそれが何なのか…何処で買った物なのか思い出すことが出来ない。


「………ん…覚えはありそう…あとは…」


ガタンッ!!!!!


「!!!」


 突然、外から大きな音が聞こえてフウカはピクンッと驚く。


「……だ、だれな「だまって」んぅっ!?」


 自分達をこうした犯人が戻って来たのかと、ユウコは震えた声で言おうとする所をフウカが口を手で塞いで止める。


そして、ぴょんぴょんと器用に移動し始めた。


「………きんきゅーじたい」


 フウカはそう呟くと、器用に腕を捻り、縛られた縄から手を解放させた。


「……ん」


 ガサゴソと三人から離れた場所に置いてあるカバンの中からカナタのスタンバトンを取り出す。


「………おやすみ」


 彼女は理性が戻っていなくジタバタと暴れている残りの二人にスタンバトンを当てた。



ガンッ!ガンッ!


 先程から聞こえ始めた音に集中しながら静かに身を潜めると、ユウコも見つかってはいけない事を困惑した状況の中判断する。



ガンッ!ガキンッ!!!


 重い金属が壊れる様な音がする。




ガラガラ………。


 

 そして、ゆっくりと扉が開く音が聞こえた。



 …………………………………。


 

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