第3話
少し高い位置に設立されたごく普通の高校…『姫子高等学校』。
「おはよっ」
「おはよう!」
辺りで挨拶を交わす生徒達の中、静かに歩く。
ここが、俺の通う学校………。
『前回』と同じ様になっていくのならば、変えるために動かなければならない。
その為、なるべく時間を無駄にせずに行動するのが大事で、自由に動けなくなる学生の身分を三年間も続けるつもりは無い。
「………居るはず」
それでも、辞めずに来ているのは………この学校でもしなければいけない事があるからだった。
今、とある人物を目線だけで探しているのも、その事に関して重要な事である。
「っ…」
…………見つけた。
昇降口を入って右側、一年の俺とは違った下駄箱スペースから校舎に入って来た人物。
「えっまじ?私もそう!」
その人物は茶色く長い髪をして、一緒に居る生徒達の中心的立ち位置にいた。
下駄箱のプレートから、二年の『霧島笹乃』という名前だという事が分かった。
「ゔっ…」
込み上げる吐き気を我慢する。
間違いない…………あの女だ。
彼女は『前回』に、自分が『奴隷』として扱われていた時に『客』としてよく来ていた。
…………………………。
『客』というのは、『前回』に国が管理していた店の客である。
『男楽商館』……それが店の名だ。
名前の通り、『男で楽しむ』場所………『奴隷』を使って、女を楽しませる為の場所だった。
………駄目だ、嫌な記憶で吐き気が酷い。
「…くそ」
HRが始まる前に、トイレで吐き気を治めてから教室へ向かうとしよう。
………………………………。
男子生徒達の順位決めという、女子生徒内での文化がこの世界にはある。
登校してまず始めに、それぞれの仲が良いグループで前日から今に掛けて見かけた男子生徒の様子を話し合い、評価をするのだ。
そして、今日もいつもの様にそれぞれ集まった女子生徒達が、話し合いを始めていた。
「「「「せーの!」」」」
ドンッ!
教室の後ろ側、他よりも目立たない地味な雰囲気の四人が各々机の上に携帯を出す。
「あ、画面消えちゃってるっ…」
画面が消えた一人を除いて、三人の携帯には一人の男子生徒が写っていた。
「ちょっと!一斉の意味ないじゃん!もー、仕方ないなぁ。」
呆れた声で文句を言う生徒『花実ゆうこ』は、なら私からにするから。と携帯を持ち上げ、三人に見えやすくする。
「私は田中くんね!ほら!見てこれ!いつもは真面目で、女子が周りにいる時に表情一つ変えない田中くんの珍しい一枚!」
眼鏡を掛け、綺麗な形の七三分けをした如何にも真面目な生徒の猫を見て少しだけ微笑んだ顔をしている写真だ。
「「「おぉっ」」」
この世界では、女性に優しくする男性は少なく、笑顔を向けたりしない。
そして、この生徒のように身嗜みはびしっと整えて極力肌を見せない様にしているのだ。
そうなった理由は、やはり元から性欲の強く男性の目の前で下品な下ネタ発言をしてしまう女性が多く、それを嫌う者が多いからだろう。
「確かにレア物……けどウチの方が凄い………」
気怠げな目と、喋り方をしながら携帯を持ち上げた生徒は『山野ふうか』。
「「「そ、それはっ!?」」」
彼女が見せたのは、とある男子生徒とふうか本人が笑顔で寄り添っている姿だった。
「って!これあんたの絵じゃん!」
ゆうこが机を叩きながら立ち上がる。
「ん……違う…これは未来の写真……」
口元だけを緩ませ、目を瞑り妄想をする。
「写真を!写真を出しなさいよ!それに!せめて実在する生徒を描きなさいって!誰よこの金髪イケメン!」
金髪の生徒などこの学校には居なく、こんなにも整った顔をしている人物はこの学校でなくてもそうそう居ない。
「でもほんとうに上手いよねぇ、わたしもこんなふうにかけたらなぁ…」
ゆったりとした口調の生徒『白羊めい』が、両手の指を交差させるようにして口元を隠し、目を細める。
「ほんとよ!めいの妄想力凄いのになんで絵が下手なのよ!」
「えぇ…?わたし、そんなにもうそうしてないよぉ?」
「ん……よだれ」
否定するメイだったが、手で隠された口元を横から見ていたフウカに、こっそりと垂れていた涎を指差される。
「はあっ?!うそあんたっ、汚いわねっ!?」
「うぇ?あ、ほんとだぁ…拭くもの…………無いから、誰か拭いてくれないかなぁ…?」
今気づいたかのように、手のひらで涎を押さえると、周りの人……主に引いた様子で女子達の会話を無視していた男子生徒達に視線を送った。
だが、男子生徒達は気づかないふりをして舌打えちをしたり、気持ち悪い。等と呟くばかりで、全く相手にしていない。
「ちょっ!あんた私達まで巻き込むようなことしないでよ!また嫌われたじゃん!」
「…………今更…」
フウカが言う通り、人より声が大きく話しているユウコは、同じ様な話題で話している他の生徒よりもプラスで鬱陶しく普段から感じられていた。
「っ…あぁもう!ほらっこれで拭いてさっさと写真見せなさいって!」
ハンカチを投げつけられたメイは、ゆったりと涎を拭き取り携帯を持ち上げる。
「あぁっ!!!」
それにいち早く反応したのは、画面が消えてしまっていた女子生徒の『棚倉ほのか』だった。
「っ!?な、何急に!」
あまりにも急な大声に、びっくりして目を見開くユウコ。
ホノカは、思わず目立った行動をした事に顔を赤くして恥ずかしそうに席に座った。
「なに?なんなの?えっと…あ、南宮くんじゃない。ホノカ、南宮くん推しだったっけ?」
写真には、無表情で他よりも目立たずひっそりと席に座る南宮彼方の姿があった。
「ん……暗めの子…」
「や、それはあんたも一応同じだから。てか、写真を撮ったメイとホノカ、南宮くんみたいな暗い子好みだっけ?」
「っ///」
「んー……とねぇ…なんか、そういう気分?だったのぉ」
赤くなるホノカとは違い、淡々と話すメイ。
「あー、あるある。なんか無性にそういう時あるわよねぇ……って!ホノカあんたまじどうしたの!?」
「…ぁっ///…はっ…ぁっ……んくっ///」
おかしい様子のホノカは胸を抑えて、呼吸しづらそうに熱い息を吐き出しながら携帯を開いて机に置いた。
「な、なに?……ぇっ///」
「ん……?……んゅっ!?///」
「えー?………はぁっっっ!?///」
最初から、ユウコ、フウカ、メイの順でそれぞれ反応を見せる。
「なにっ///…よ、これぇっ///……」
内股で、もじもじと身体をよじるユウコが手に持ったホノカの携帯を顔に近付けて言った。
写真に写っていたのは、先ほどと同じ南宮彼方の姿だったのだが……その姿は、丁度今朝撮られた写真。
他の男性の様に、ただ私達女性が嫌いだからする表情とは何処か違う、心の……本当に心の底から誰かを憎む様な怖い表情をしていた。
「……っ…おかしい…///……………ウチ……?」
仲が良く、そっと寄り添うような状況をいつも憧れているフウカは、その写真を見て抱く感情に困惑していた。
何故、人を憎むような表情をした彼を見てこんなにも、ただ怖いのではなくまた別の感情で胸が締め付けられるのか……彼女達は分からなかった。
「何が起きてこんな顔してるのっ!?え?これほんとに南宮さん??え?こんな顔出来たの?なんでこんな大人っぽいのナニ?!」
早口で、ホノカを問い詰めたのは他でもない先程までのんびりとした口調で話していたメイだった。
「っぁ…///………わ…わたしっ…も…///わか、わかん…」
「ま、まって…ちょっと……んっ///…おち、つきましょ?………っ///」
このままでは、会話にならないと感じたユウコが携帯を伏せて深呼吸し始める。
「ぅ……ぅん///……っ///」
胸を抑えて俯向きながら、ビクビクと震えてしまう身体を治めていく。
「………っ///?…………っ…んゅ///………???…///」
そしてフウカは、自分に起きている身体の反応に首を傾げながら無意識に、自分の首元へ両手を添えていた。
…………………………………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます