第2話

 異世界転移、そして回帰した者『南宮彼方』が大人しく目立たない様、学生生活を送って早数ヶ月。


 やっとのことで落ち着いてきた『奴隷』としての記憶に対する恐怖を、再び呼び起こされてしまう出来事が起きた。



「……は……な…んで…?」


 一人暮らしの為、自分で朝ご飯を作っている最中に流れたテレビニュース。

この世界では圧倒的に多い、男のニュースキャスターの一人が少し青ざめた表情で、先週の内に起きたとされる事件をまとめて紹介していた。



『我慢が出来なくなった女性達!!』

『性犯罪の報告が増えて来ています』

『男児誘拐三日間で○○件!』

『目の前の女性が急に様子が変わり、なんとか逃走!』


 その他多くの、『女性が理性』に関するニュース……。

俺は知っていた。


 流れるニュースの中の大半が、『前回』にも起きた事件であり………世の中の女達が理性を抑えきれなくなり始めた前兆とも言える事件だったのを覚えている。


 これらのニュースを境に、女による『性犯罪』が年間数百件と増え始めたのだ。



 だが、俺は今回この世界の女達の理性を壊すような行動はしていなかった。


「……まさか」


 元々、こうなる運命で……自分のせいだと思っていたのは、唯の勘違いだった…?



「……辞めてくれ、それなら俺は…俺は」

また、『奴隷』として扱われるようになってしまうのか?


 そんな事は駄目だ。


俺は……俺はどうしたら良い?



 必死に思考を巡らせる。

女達の理性が壊れる前に、何か手を打たなければならない。


「隠れる……」


……何処へだ?


 世界中の女が敵となる状態で、逃げ隠れながら生き延びるなんてこと現実的ではない。




………………。


 あれは駄目、これは駄目と思いついた考えを捨てていく。


「………他の事がより幸せだと思わせるのは…?」


 考えれば考えるほど嫌な過去を思い出した。

その過程でふと、一つの考えが浮かぶ。



『前回』、俺達男の一部で『奴隷』となる事を自ら望んだ者がいた。


 その人物たちも最初は抵抗し、本気で『自由』を求める人達だった…。


けれど、何をどうしても覆せない状況によって結局は、『苦痛』や『ストレス』に屈し…少しでも楽な方へと逃げる様になってしまった。


 言うことを聞けば暴力等の苦痛は減り、食事や娯楽といった物も『少なからず』手にする事ができる。

ほんの少し、ほんの小さな自分に対する扱いの変化を手にするため、女達の命令を聞こうとする。


 そしてやがては、命令を聞くことに対しての嫌悪感が消えていく。

嫌なことだと考えれば、余計に苦しいだけだからだ。


 そう…彼らの脳は、自分達の元の考えや、人格を捨ててまで、女達の命令を従う事に『依存』しようとしたのだった。





「もし……もしもだ」


 女達に、従わせるのではなく『従う事』が幸福な事だと脳に刷り込ませられれば……。


「それなら…」


 そんな事を可能にする為に行動しようとする男は、未来を知っている俺くらいだろう……。

もし、未来を説明した所で信じない以前に、女と深く関わろう等と思う奴はこの世界にはいない。


「…………っ」


 俺も同じだ。


 『前回』の始めてここに来た俺ならともかく……あんな扱いをされ、恐怖さえも抱く様になった自分に、果たして女が俺に対して『自ら従いたくなるまでの依存』をさせることが出来るのか。



「………やるしか…ないのか…?」


 未だ続いているニュース番組を目の前に、彼は未来の為に動き始める。




 






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