第4話
結局、あの写真を見ておかしくなった彼女達は、その後教室へ入ってきたカナタ本人を見て、更に状態が悪くなってしまった。
「……なんだ?」
自分の顔を見るなり、顔を赤くして教室を飛び出ていった三人の生徒。
そして、彼女らと一緒にいたと思われる女子生徒が一人、傾げた首を触りながら考え事をしている。
どういう状況かは分からないが、どうやら俺が原因で何かが起きた可能性が高いことだけ分かった。
写真を見ていなくとも、会話だけでも聞いていた他の生徒達が、名前が出ていた『南宮彼方』の事を見ていたからだ。
「……」
前回の経験から、どうせ今の四人が俺への話題で盛り上がっていた所に戻ってきたからかと思い、気にせず自分の席へと座りに行く。
男子生徒を話題に下ネタを言い合うのはいつもの事で、それが今回は俺だったというだけだろう。
慣れてはいるのだが。
気分が悪い中、こう注目されるのは勘弁してほしいが………。
「…ん?」
目頭を押さえ、目を開けると目の前に誰かが立っているのに気がつく。
「……………」
さっきの残った一人の女子生徒のようだ、山野だったか?
「なん『キーンコーンカーンコーン!』」
無視するのも面倒な事になってしまうかと思い、問いかけようとすると、HRのチャイムがなった。
「チャイムだから戻れ」
無愛想に言う。
目立たないよう、この世界の男性に合わせるのであれば、こういった態度がいい。
「っ///…?…………ん…」
俺の言葉を聞いて、ピクリと反応をした山野は気怠げな目を向けながら頷いて、席にとてとてと戻っていった。
…………………………。
HRを聞きながら、今後のことを考えていた。
世界中の女をどうにかするには、どうしても時間が足りない。
その為、将来権力を持つ人物を狙う事にした。
権力者をどうにか、理性崩壊後でも言う事を聞くようにし、その周りの女達も………という訳だ。
問題は、どうやってそんな事が出来るようになるか…だ。
調べようとすれば、今のこの世界であればいくらでも人の弱味を握れるのだが、それで言う事を聞かせても、理性が崩壊してしまえば意味がない。
『従いたい』と、心の底から思わせる。
理性崩壊した後も、『性欲に身を任せる事が幸せ』なのではなく『俺の命令に従う事が幸せ』だと本能に染み込ませるのだ。
「行動するしかない…か」
…………………………………。
授業の間の休憩時間だけでは何も行動する事は出来ず、昼休みとなった。
「……………」
教室を出て向かう先は、霧島笹乃がいる学年の階だ。
放課後で会うために、本人に直接予定を聞きに行く所だ。
手紙を下駄箱に……というのは、本人に渡らない可能性がある。
男子生徒に手紙を貰う行為は、他の生徒に見られてしまえば嫉妬されて隠されてしまう事があるのだ。
「…………」
テクテクテク……。
「………………」
テクテクテク……とてとてとて…。
「…………」
テクテク…とてとて…。
「はぁ…」
溜め息を吐き、二年の階である下の階に降りる所で、下ではなく上の屋上の方へ方向転換する。
閉鎖された屋上に来る人物はそう居らず、食堂や教室で昼食を取っている今の時間は特に静かな空間になっている。
「で…なんだ?」
屋上への扉の前で、さっきから後をつけてきていた人物へ向きかえる。
「…ん………?」
山野ふうかである。
彼女は、休憩時間毎に席の前までやってきていた。
何も喋らず立っていただけだった為、極力無視をしていたが、流石に二年の所まで付いてくるのは面倒だ。
因みに、他の三人の女子生徒は未だ保健室で悶えている。
「…っ」
あぁ、イライラする。
数年後、男を襲い奴隷へと落とす存在の一人である女が目の前で、不思議そうに首を傾げている。
何の様かは知らないが、嫌いな存在が邪魔をしてくるこの状況が腹立たしい。
何故、死ぬことで解放されなかったのか。
何故、またこの世界を繰り返さないといけないのか。
何故、俺がこんな目に遭わなければならないのか…。
「…………なにか用なのか?」
「……ん」
それでも我慢して、軽率な行動をしないようにする。
フウカは、無意識に付いて来てしまっていた。
周りを見てその事に気が付くと、小さく頷いて口を開いた。
「…すき……」
「………は…?」
何を言ったのか分からなかった。
この世界の女達は、下ネタは平気で言えども告白をしたり、男に触ることなどは殆どしない。
それなのに、好きだと?この状況で…急に?
「…すき……?………わからない…………でも………すき…」
自分が抱く感情に疑問を持ちながら、彼女は思いつく言葉を口に出す。
きゅぅぅと、締め付けられる様な感覚と…少し冷たく、気持ち良く感じる胸。
握りしめた手を当て、真っ直ぐと彼女はこちらを見ていた。
「………」
なにが………なにが好きだ?……巫山戯るな…それは、性的欲求から来る感情だろうが。
自分自身、良く分からないような様子がそれを物語っているじゃないか。
「……何が言いたいんだ」
「…………ん…」
彼女は自信がなさそうに下を向く。
「ウチ……の……………こいびと…」
彼女はどんな返事を貰うのか分かっていた。
全く話したことの無い相手、付き纏って迷惑を掛ける自分が、受け入れられる訳が無い。
それでも、言う以外の選択肢は無かったのだ。
今を逃せば、二人きりになる瞬間はもう二度と来ない。
人がいる場所で言う事は、邪魔をされてしまうから……今、言わなければイケないと感じた。
『恋人』。
その言葉を、他でもない女から聞き……頭に血が昇る感覚を覚える。
「どうしてだ?」
自然と声が低くなり、顔に力が入る。
「…ん………………ぇ……と……」
モジモジと、問に対する答えを探す彼女を見ていると、昔の事を思い出す。
『前回』、何も考えず手当たり次第に身体の関係を持った女達。
あれ程好きだと言いながらも、理性が崩壊して見知らぬ男を襲い、俺から離れていく様な薄い感情。
『好き』という言葉が嫌いだ。
そして、その彼女達と同様……身体を差し出してくる女なら誰でも良かった『クズの自分自身』。
それが、何よりも嫌いだ。
「……こうやって………話しを聞いてくれる………やさしい……そこがすき……………」
必死に理由を考えて出したのだろう。
他の男子生徒なら、二人きりになる事はもちろん、告白された後に話を続けようとはしない。
「…………やさしいひと…………すき…」
普段、想像して描く絵のように。
優しく微笑んでくれて、優しく寄り添ってくれる相手…………そんな人が好き。
好き………なのに。
「…………」
ウチはどうしたんだろう……。
目の前のこの人は、他の男子よりは優しいのかもしれないけど………ウチが望むようなまでの優しさを持っていない。
「…っ……ぁ…」
もう一度、顔を見ようと下を向いていた頭を上げて…見えた彼の表情に、身体が痺れるよつな感覚がした。
まただ………。
あの写真を見た時のように、分からない気持ちが胸を締め付ける。
苦しいのに気持ちが良くて……もっと感じていたくなる感覚。
「……ん…………ぅ///……?」
どうか、受け入れてほしい。
ウチが嫌いなら恋人でなくてもいい、ただ…側にいたい。
「………………ともだち…なら」
「無理」
「っ…」
………………。
これ以上一緒にいる事が耐えられなかった。
過去の自分が脳裏に過ぎり、目の前にいる彼女が自分の姿に見え、殴りたくなってしまう。
女は嫌いだ。
だが、今はまだ理性崩壊が起きる前で…何もしていない時。
いくら嫌いでも、そんな人物に当たるのは、それこそ…ある程度理性が落ち着いた筈の女達が、弱った男達を奴隷にした事と同じ……自分に抑えが効かないクズがする行為だ。
「……迷惑だ」
邪魔をして来ないよう睨みつけ、彼女を残して階段を降りて行く。
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