第128話 王都突入



 王女様(?)一行と戦闘していたオークを殲滅したのち、俺たちは再び走って王都を目指した。適度に休憩を挟みつつ、王都に到着したのは海岸を出発してから一時間ほど経った頃。


 走りながら色々考えていたんだけど、あのオーク討伐イベント……もしかしたら加勢も必要なかったのでは……? と思い始めていた。


 別に重傷者がいたわけでもないし、けが人はいたけれど軽い打撲や切り傷程度のものだった気がする。もしかしたら骨折ぐらいしていた人もいたかもしれないけど、魔法の世界だからそれぐらいの怪我ならすぐ治癒できてしまうだろうし。


 恩を押し売りしてしまったのかなぁ……いやでも、あのまま見過ごすことはできないし、別に何か対価を要求したわけじゃないから問題ないか。土下座させることになってしまったけれど。


 まぁそれはいいとして、王都だ。めんどくさいことは一旦忘れよう。


 町は三メートルほどの高い石塀に囲まれており、それが左右にずっと伸びている。さすがに視界に収まるレベルのところで婉曲しているが、それでもかなり広い街であることが見てわかった。


 出入口では検問らしき作業が行われており、馬車が並ぶ列、人が並ぶ列などがある。馬車だけでも十台以上、人の列は三十人ぐらいの列と、十人ぐらいの列があった。こちらは大陸の端側だから、これでも少ないほうなのだろう。


 そしてそんな中俺たちは、誰も人が並んでおらず、警備の兵士が二人立っている場所に向かって行った。そんな俺たちを、列に並んだ人はチラチラと見始めていた。


「メノ、俺たちは並ばなくていいの?」


「……ん、私たちはこっちでいい。大きな街はだいたいこんな感じになってる」


「メノお姉ちゃんは有名人だから優先してくれるとか?」


「……そう。素通りできる」


 なんでもないことのようにメノは言っているが、きっとすごいことなんだろうなぁ。でもたしかに、空間魔法で物を異空間に収納できるメノに対して検問は全く持って意味をなさない気がする。


 ざわざわと小さな声が重なるのを耳に入れながら、入り口を守る兵士の元へ。


「そこの三人、止まれ。ここは貴族のみが使用できる通路だ。一般の列は隣だから、そっちに並んでくれ」


 向かって右側に立つ兵士が、少し離れたところにある列を親指で指さしながら言う。貴族かどうかなんてどうやって判別しているんだろう……あれか、徒歩で動き回る貴族がいないってことなのかな?


「……私はメノ、観光に来た」


 メノはどう対処するんだろう……そう思っていると、普通に自己紹介をして来訪の目的を簡単に告げていた。


 メノの言葉を聞いた兵士の二人は、そろって顔を引きつらせる。それから徐々に顔を青ざめさせながら、呼吸を浅くさせていった。


「……大賢者メノ様――ということでしょうか?」


「……そう」


「ご無礼をお許しください。しかし、我々としても確認をしなければなりません。我が国では、七仙の名を騙ることは問答無用で死罪となりますので……なにか証明できるものはございますでしょうか?」


 名を騙るだけで死罪!? 罪おっも! いやでも、それぐらい七仙の名が重いってことだよな。王様より偉いということを考えると、それぐらいでもおかしくないのか。


 生魔島という隔離された場所で暮らしていたからか、なんだか別世界に迷い込んでしまったような感じがするなぁ。


 ひとまず、この検問を無事に抜けなければ。


「メノ、なんか七仙の証みたいなもんってあるの? 見たことないけど」


 メノの耳もとに顔を寄せ、小声で聞いてみる。すると彼女は「……ない。でも問題ない」と淡々とした口調で言った。


「……私はあまり人前に顔を出さないから、顔を知らない人も結構いる。だから、対応に慣れてる」


 そう言いながら、メノは魔力の翼を背中からブワッと広げる。そして、一メートルぐらいの高さまで飛んで、その場でホバリングを行う。


 その光景を、兵士だけではなく他の列に並んでいた人も呆然と見ていた。


「ん? それでメノって証明になるの?」


「……魔力の翼による飛行は、大量の魔力と精密な魔力操作が必要。この世界で私しかできない。今はアキトとアオイもできるけど」


 彼女はそう言いながら、魔力の翼を消してストンと地面に着地する。この他にも、転移魔法もメノにしか使えないらしいから、そちらで証明することもあるようだ。顔は知られていなくとも、大賢者メノがどんな魔法を使えるのかは広く知られているらしい。


「お、お手数をおかけいたしまいた! 大賢者メノ様、生きている間にご尊顔を拝謁できまして、光栄にございます! すぐに馬車と案内を用意しますが、いかがいたしましょうか?」


「……いらない。偉い人にも何もしないで良いって言っておいて。ぶらぶら見てまわるだけだから」


「――はっ! しょ、承知いたしました!」


「……一緒に入るこの二人は、私の大切な人たちだから」


「は、はい! もちろんそのままお通りいただいて問題ございません! 何かご質問などがございましたら、遠慮なくお声をおかけください!」


 メノの翼を見てから極度に緊張した様子だった二人は、そう言って九十度に腰を折って頭を下げる。なんだかメノの威を借りて偉い人になった気分だからちょっと申し訳ない。俺はペコペコと頭を下げながら、メノは堂々と、葵は周囲の人の反応や検問所の様子を興味深そうに眺めたりしながら、検問所を通過したのだった。



「ふぅ……なんだか気疲れしちゃったな。メノは結構慣れてるの?」


「……そんなに何度も人の多い街に入ってるわけじゃないけど、これだけ生きていれば嫌でも慣れる」


 メノはそう言いながら、俺の左手を取ってぎゅっと握る。しっかり指を絡ませる恋人つなぎだった。そして俺の右手はというと、葵の左手に繋がれている。なんだか遠目でコソコソと話している人が気になるが、俺や葵と違ってメノは全然気にした様子はない。たぶんこういう視線に慣れきっているんだろうな。


「しかしあれだな……イソーラってなんとなくあまり発展していない国だと思っていたんだけど、結構栄えてるな。建物も綺麗だし」


 街の中の地面はきちんと整備されているし、建物も乱雑に建築されているわけではなく、綺麗に並んでいる。レンガ造りの家だったり木製の家だったりと統一感はあまりないけど、この統一感の無さが逆にしっくりくるような風景だった。


 行き交う人も身に着けている物は綺麗な衣服だったし、少なくとも衣食住に困っている雰囲気ではないな。


「王都だもんね。しかもここってメインストリートっぽいから、綺麗な建物ばかりあるんじゃないかな?」


「……正解。王都の中でも差がある。でも、他の街に比べると全体的に裕福」


「なるほどな……とりあえず、お店とか見て回る? あっ、でも俺お金持ってないや」


「……全部私が出す。お返し楽しみにしてる」


「じゃあ私はメノお姉ちゃん用に世界樹ジュースいっぱい作るね!」


「……ん、ありがと。アキトのお返しは私が決める」


 メノはそう言うと、俺の手を大きく振りながら歩き始める。何を要求されるのかわからないけど、楽しそうで何よりです。



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