第126話 むしろ出て行ってくれませんか?
飛行検証の結果、俺も葵もこの島から出られそうということが判明した。めちゃくちゃ遠くまで飛んでいないから断言できるわけじゃないけど、ほぼほぼ間違いないだろう。ちなみに物理的な問題で言うと、母さんだけは別の大陸へ行くことができないらしい。どうやら世界樹本体からはそこまで離れられないようだ。
しかし俺が島から出られるというこの事実を知って、どうするのかって話だよな。
このことを考えてまず、『島の人は閉じ込めているくせに自分だけずるいじゃないか』という気持ちになった。メノは「……悩む必要ある?」とキョトンとしていたし、葵も「だれもそんなこと思わないよ?」と不思議そうにしていた。
だから俺は、恥を承知で、カリス村以外の四人――リケットさん、ロロさん、ディグさん、フロンさんを集めて、正直なところどう思っているのかを聞いてみた。
もちろん、彼女たちが断るはずがないとわかっている前提で、聞いた時の表情で考えることにしたのだ。おそらく『問題ないです』という返答がくると思うのだけど、その時に嫌そうな顔をするとか、困ったような表情をするとかで判断しよう。
「むしろ出て行ってくれませんか?」
まず、リケットさんがそんなことを言ってきた。泣きそう。
五十嵐明人の心にダイレクトアタック! 999998のダメージ! 残りのライフは1! たしゅけて!
俺が胸を押さえて膝から崩れ落ちていると、慌てた様子でロロさんが「それじゃアキトさんが勘違いしますよ!」と言っていた。勘違いしようもないくらい直接的な物言いじゃありませんでしたか……?
そっか……俺、別に見返りを求めていたわけじゃなかったんだけど、みんなにはそこそこ良い印象を持たれていると思っていたんだけどな。まさか最初にこの島へ招待した人に『出て行ってくれ』なんて言われるなんて思わなかったよ。とても悲しい。
なんとか心の傷を癒そうとしていると、俺の背中をディグさんが乱暴に叩いてくる。
「旦那、そうじゃなくて、俺たちは旦那に自由にしてほしいんだぜ」
「そうよ、たぶんみんな、同じ気持ちじゃないかしら」
ディグさんとフロンさんも同じ気持ちらしい――いや、自由にしてほしいって言ってたよな。リケットさんはそういう意味で言ったのか?
助けを求めるように、リケットさんへ視線を向けてみると、彼女はやたらと慌てた様子でロロさんと何かを話し、俺に目を向けた。
「すっ、すみません! 私、アキトさんに出て行ってほしいだなんて思ってません!」
いやすごく言っていたよ。出て行ってくれませんか? って言ってたよ。
「そういう意味じゃなくて、アキトさんと私が同じ立場なのが嫌なんです! これだけ良くしてもらっているのに、アキトさんはここに住む皆さんと全く同じ生活を送っています。住む家だって、着ている服だって、食べている物だって、全部一緒です! 今の生活は私にとって、孤児院で生活している人が、王様と同じ生活をしているようなものなんですよ? だからせめて、私たちじゃできないような贅沢を、アキトさんにやってほしいなって」
リケットさんは俺を説得するように、ハキハキとした言葉で話す。
「孤児院とか王様とか、そんなことは考える必要なないと思うけど……言いたいことは理解した」
ここ最近で言えば、俺がメノと一緒に世界樹の下でだらだらしている時もそうだ。俺たちの姿を見て、彼女たちは嬉しそうにしていたのだ。
なるほどなぁ。俺の日本での感覚で言えば、天皇の住む土地に俺もお世話になることになって、そこで一緒に草むしりをしているような感じか……? ちょっと違うかもしれないけど、それならたしかに『あなたは休んでいていいですから!』と言いそうだ。
「まぁ、四人の気持ちはわかった。気を遣わせてしまって悪かったな。もう少し考えてみて、気になるようだったら偵察って感じで見て来るかもしれない」
「はい! アキトさんの思うように動いてください! 私たちは、それを全力で応援します!」
リケットさんが元気にそう言うと、他の三人も笑顔で頷く。みんながいい人すぎるぜ……。やはりルプルさんに分身してもらって、もう少し手間がかかる人を増やさなければならないんだろうか。分身、できないだろうけど。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
それから半日色々と考えた結果、俺、メノ、葵の三人でイソーラへ向かうことにした。俺と葵は顔バレしないように仮面を――と考えたのだけど、そもそもこの顔がバレたところで誰もこの顔を知らないんだから意味ないんじゃない? ということになり、いつも通りのラフな格好で行くことにした。
みんなで朝食を食べたのち、普段俺たちがやっている業務を他の人たちに割り振った。すごく喜ばれた。仕事ができるぞってみんなすごい笑顔だった。怖いよ。
そして俺たちがいない間のリーダーは、リケットさんに任せることにした。彼女は恐縮していた様子だったけど、この中では一番の古参だから一番この島に慣れていると言ってもいい。サポート役はロロさんと母さんに任せているが、いざとなったらみんなが団結して協力してくれるだろう。
「メノはよく方向感覚狂わないな…どこをみても同じ景色だと混乱しない?」
海上を飛びながらメノに話しかけると、彼女はこちらを向いて、そして空を指さす。
「……日の位置でわかる」
「大丈夫だよお兄ちゃん! 私もよくわかんない!」
葵は俺の味方だったらしい。しかし気のまわる彼女のことだ、知っているけどわざと知らない振りをしている可能性もある。お兄ちゃんはさっぱりだよ。
メノは俺や葵にスピードを合わせてくれていたので、イソーラのあるエルダット大陸が見えてくるまでにはそこそこの時間が掛かった。メノに先行してもらい、着陸するあたりに人気がないことを確認してもらう。そんなことをしていると、結局島を出てからイソーラに着くまでに一時間ぐらいの時間を要することになった。
たどり着いたのは、島で見たような海岸。「もしかしてさ」とメノに目を向けてみると、彼女はコクリと頷く。
「……ん。リケットはここから海に流されてた。私は隠れて見てた」
「やっぱりか……というか、これまでの人はよくあの島まで辿りついていたな。海流の関係とかもあるんだろうし、生きて到着した人は何割ぐらいだったんだろ……」
海流はまだしも、天候が荒れていたりしたら大変だ。それだけで沈没してしまうだろう。命がけ……というよりも、本当に命を捨てるような行為だったんだな。
「メノお姉ちゃんたちのおかげで、それも無くなって、最後の生贄のリケットさんも幸せになれてるんだから、良かったよね」
暗い雰囲気になってしまっている俺の頭を、背伸びした葵が撫でてくれる。対抗するように、メノもすぐさま俺の背中をさすり始めた。
「はは、二人ともありがとな。俺は大丈夫だから」
そう言って、俺は二人をそれぞれの腕で抱きしめる。葵は俺の横腹に頭をうずめて、メノはどさくさに紛れて俺の頬に口づけをした。
いちゃいちゃしてる場合じゃない、今日は偵察に来たんだった。
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