第125話 実はまだ確認してなかった
イソーラの現状について、観測はアルカさんがこれからも続けてくれるようなのだけど、本当に彼女たちとしては状況を見守るだけで、ほとんど何もしないスタンスのようだ。
俺がこの世界にやってきて間もない頃にメノに聞いたことだけど、やはり強く干渉することは良しとしていないらしい。七仙が王様になっている時点でどうなんだと思わなくもないけど、それはそれで抑止力として働いているようなので案外うまくまとまっている。
この辺りのことは、新参者かつ年の若い俺にはまだわからないことなのだろう。
イソーラが母国であるリケットさんには、メノやアルカさんから許可を取って状況を伝えさせてもらった。母国でクーデターのようなものが起きて、王様が変わったというのだから、リケットさんも何か思うところがあるのかと思ったのだけど、
「生贄になる子がいなくなってよかったですね! でも、家族がいるならまだしも、私のような孤児の場合、いまは生贄になったほうが断然幸せなんですけどね~」
と、楽しそうに言っていた。王様云々のことに関しては、もとより関りがないためにどうでもいいらしい。誰が王様になっても一緒でしょうって感じなんだろうな。
「リケットさんはああいっていたけど、なんとかうまく立て直してほしいところだよな。人族だけで回ってたところが、一気に間口を広げることになるんだろ? これから大変だろうに」
「……上の頭が固かったのが悪い」
アルカさんが報告を終えて帰ったあとも、メノは未だにロッキングチェアに座る俺の上に乗っかって、頭を前後に揺らし、椅子をゆらゆらと動かしている。世界樹で遊んでいた葵たちは、鬼ごっこに飽きたらしく別の場所に向かって行った。たぶん公園とかだろう。
「ちょっと見てみたい気もするんだよな。どういう国なのか、どういう雰囲気なのか」
「……言葉で伝えるしかない。アキトは島から出られない」
メノは申し訳なさそうにそう口にする。
「実はさ、まだきちんとたしかめたことはないんだよな、島から出られるのかどうか。出る気もなかったし――たぶん初めてメノに会った時にも、出る気がないって言った気がする」
俺が苦笑しながらそう言うと、メノは頭を揺らすのを止め、目を丸くしてこちらを見た。そして「そうだったっけ」と首を傾げていた。俺の記憶も定かじゃないから、笑いながら「俺も曖昧だ」と言っておいた。
「じゃあ復習になるけど……当初はさ、すごい力を与えてくれる代わりに、島で生贄の子たちを助けてほしいって話だったんだよ、島に隔離して」
俺がそう話をすると、メノはコクリと頷く。
「でも俺は永遠にその使命を背負い続けると、嫌気がさしてしまいそうだからって理由で断らせてもらった。だから、神の代行者って名前も、実は微妙なところなんだよな。使命、断っちゃったから」
ただの転生者である。神様と話してお願いを聞いてはいるけど、叶えるかどうかは俺の自由というかなりの好待遇。しかもしっかりとチート級の力をもらっているし、家族まで一緒に連れてきてもらっている。
「まぁそんなわけで、お願いを断ったと同時に島の隔離という条件も破棄されている可能性は十分にあるんだよな」
これまでは、島の外に興味はなかった――いや、違うな。
興味はあったけれど、神様が提示した元の条件で頑張ろうとしていたのだ。この島に隔離という条件があるということは、それでも十分やっていけると神様が判断したということだし。
だけど、生贄がもうこれ以上生まれないというのであれば、少々足を伸ばしてみたい気もしてくる。もちろん、七仙に倣って俺も干渉をするつもりはないし、島の人たちを隔離している以上、俺だけ自由に大陸へ足を運ぶというつもりもない。
ただね、ちらっと見てみたいだけなのよ。
「……とりあえず、試すだけ試してみる? 考えるのは後でいい、あと、他の島民に遠慮する必要はない。私は自由に行き来しているし、ルプルなんかこの島から通ってる」
メノはそう言いながら、自身のお腹に回されている俺の手を握った。そして、それをクイっと上に持ち上げる。俺の右腕に、メノの胸の重みが伝わってきた。
「そういうのは夜にしましょうね」
「……アキトのえっち」
「いや自分から動かしただろ!?」
最近のメノのブームなのだ。俺をからかって、その反応を楽しむというのが。
すごく楽しそうにニマニマするものだから、本気の叱責なんてできるはずもない。もしかしたら俺は、責められるほうが好きなのかもな――なんてことをぼんやりと思った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「島ってどこからどこまでが島なの?」
「……わからない」
「でも少なくとも水辺じゃないよね? 初めてここに来た時、私ルプルお姉ちゃんと遊んだもん」
俺とメノ、それから合体した葵の三人で、生贄の子の墓がある海岸にやってきた。葵を連れてきているのは、彼女も同様に隔離されているのかたしかめるためである。俺が島から出られなかった場合、葵に確認してもらおうと思ったからだ。
「うーん……領海とかそういう話になってくるのか? 十二海里って数字はなんとなく覚えてるけど、一海里がどれぐらいなのかもわからん」
「一海里は一八五二メートルだよ」
葵が即答してくれた。十歳に知識で負ける二十五歳の図――少々悲しくなったが、建築関連でも葵に引っ張ってもらっているので、今更という感じでもある。できの悪い兄でごめんよ。
ひとまず自分の知識量を悔やむのは後回しにして、十二海里だ。
そもそも、島の定義がわからないから適当に言っているだけだし、それが正しいのかもわからない。陸地から何メートルとか決まっているかもしれないし、潮の満ち引きとかも関係ありそうだ。でも、異世界だしなぁ……そもそも潮の満ち引きがあるのかって話だ。
ん? それを言い出したら、十二海里とかもっと関係ないのでは?
「……とりあえず、少し飛んでみようか」
俺は考えるのを止めて、背中から魔力の翼をはやす。もう翼の操作に関してはお手の物だ。いまだにメノに勝てる気はしないけれど、飛行に問題ないレベルにはなっている。ちなみに、葵は俺よりも速いスピードで習得してしまった。俺に見えないところでこっそり練習していたらしい。
三人で地上五メートルぐらいまで飛び上がって、海に向かってゆっくりと飛ぶ。早歩きぐらいのスピードだ。世界樹の結界みたいなところに顔面から突撃するのは怖いからな。
「……どこまで行く?」
島から百メートルぐらい離れたところで、メノが声を掛けてくる。
「そもそもイソーラまでどれぐらい距離があるんだっけ?」
「ある程度スピード出したら三十分ぐらい。本気だと二十分ぐらい」
なるほど……メノの飛ぶスピードの正確な数値はわからないけど、おそらく距離的には五十キロから百キロってとこなんだろう。幅がありすぎるけど、航空地図なんて便利なものがあるわけじゃないから仕方ない。
その後、ふわふわと三人で会話をしながら島の外に向かって飛んでみた。
――やっぱり俺、この島に隔離されてないわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます