第119話 共同作業が……
この島にやってきたのは十八人。
そしてカリス村の代表者は、どうやらこのヴァンという人らしい。
元々は祖母のミルキさんの夫であり、ヴァンさんの父親が村長の役目を担っていたらしいのだが、魔物の襲撃により死亡したために、ヴァンさんがその後を継ぐことになったようだ。
このヴァンさん家族に関しては、俺が挨拶に行ったとき、双子のミミちゃんトトちゃんも含めて緊張ぐらいしか見えなかったが、他のテーブルに行ってみると、食べ物や飲み物を美味しいとは言ってくれていたけれど、やはり魔物に身内を殺された心の痛みが残っているようで、食べながら泣いたり、暗い表情を浮かべている人がほとんどだった。
ミミちゃんとトトちゃんに関しても、他のテーブルに行ったときにチラリと目を向けると、どこか元気がなさそうに見えた。俺が来たときは、子供ながらに暗い雰囲気にならないようにしてくれていたのかもしれない。
中には元気な人もいたけどな。
「ヴァン坊にはまとめ役なんて無理だと思っていたが、なかなか頑張っておる。アキト様、まとめ役としてヴァン坊が不甲斐なかったとしたら、我々カリス村全員の責任じゃ」
コンテナの中に置きっぱなしにしていた荷物を取りに向かいながら、ロードさんが言う。彼はこの一団の最年長の男性で、息子さんを魔物に殺されてひとり身になってしまった人だ。
元村長――ヴァンさんの父親とは大変仲が良かったようで、ヴァンさんのことは自分の息子同様に可愛がっているらしい。
「不甲斐ないもなにもないさ。むしろ、少々手がかかる人がいてくれた方が嬉しいぐらいだ。仕事を適度にサボる人間とかな」
「サボるほうがいい……? おかしなことを言いますなアキト様は」
そう言ってロードさんが楽しそうに笑う。冗談じゃないんですよねこれが。
もちろんサボってばっかりだと、他の人に示しがつかないから注意が必要になるけれど、やることをやり終わったら自由にしていいんだよ。無理に仕事を探さなくても。
ちなみに彼の年齢は九十を超えているのだけど、敬語を使うことは控えるようにお願いされた。こちらからは『様』付けを控えるようお願いされたのだけど、拒否された。解せぬ。
「アキト様、我々はどの辺りで暮らしていけばよろしいでしょうか?」
「あぁ、その説明をまだしていなかったな――というかコンテナから運び入れるのは効率が悪すぎる。皆さんすみませんコンテナから一度離れてください。メノ、コンテナごと西側に運ぼう」
「……ん、共同作業」
俺の近くをテコテコと歩いていたメノに声を掛けると、彼女はコクリと頷いてこちらに近づいてくる。やはり大賢者メノという存在はカリス村の人たちにとっても緊張を強いられる相手のようで、ロードさんもヴァンさんも体を固めていた。
俺とメノがコンテナに寄っていき持ち上げようとすると、すぐさまリケットさんたちが駆け寄ってくる。やってきたのは、リケットさん、ロロさん、ディグさん、フロンさんの四人。
「私たちがやりますので! アキトさんはメノさんとごゆっくりお話でもしながら西側に向かってください!」
「――あ、うん。わかった」
「……共同作業が……」
俺とメノは四人の有無を言わせない行動に引き下がって苦笑する。
リケットさんたちはコンテナの四隅にそれぞれ手を掛けて、軽々と持ち上げる。そしてそれを彼らの住居を用意した場所に向かって運び始めた。
「……り、リケットさんたちは普通の孤児院出身……でしたよね? なんですかあの力は?」
「あはは……」
ヴァンさんたちが目を丸くしてコンテナが運ばれている光景を眺めている。その辺りの説明はまたおいおいさせてもらおう。いちいち説明していたら、一日が終わってしまう。
「えー、ではこちらからヴァンさんのところの五人家族。その向かいがノルドさんのところの四人家族、そして隣の道の手前にある家がヨスギさんのところの四人家族、その向かいがオグさんのところの三人家族、その隣の平屋二つが、手前からロードさん、プルーンさんの家ですね。いちおうこちらで決めさせてもらいましたけど、要望があれば変更も可能ですので」
そうやって説明するが、全員がポカンと建築物を眺めている。
ふっふっふ……俺も何度か経験して慣れているぞこの光景は。そしてちょっとびっくりしてくれて嬉しい。
いちおう、シャルロットさんから彼らが元々住んでいた家と比べてどうなのか確認してみたけれど、『え? こっちのほうが豪華に決まってるじゃない』との回答を貰っていたので、きっと彼らは喜んでくれるだろう。
「ねぇアキト様! あの家、ミミたちの新しいお家なの!?」
「うんそうだよ。ミミちゃんとトトちゃんのお部屋もあるからね」
「ほんとに!? トト、早くみたい!」
「あははっ、喜んでくれて嬉しいよ。でも、転んだりしたら危ないから、お父さんたちと一緒に見ておいで――ヴァンさん、いちおうこちらで全て準備したつもりだけど、足りないものがあったらその都度言ってくれ。できる限りのものは用意するから」
「そ、そんな! こんな素敵な家に住ませていただけるだけで貰い過ぎですよ! ただでさえ食事も満足いくまで食べさせていただいたというのに……本当にアキト様たちには感謝しきれません。ありがとうございます!」
「お礼はいただいでおくから、ほら、ミルキさんとドロスさんも連れて早く行ってきてくれ。ミミちゃんたちに怒られるぞ」
「はは……そうですね。ではお言葉に甘えて」
ヴァンさんに続き、ミルキさんとドロスさんも俺たちにお礼を言ってから家に向かって行く。他のカリス村の人たちも、近くにいた島の住民にお礼を言ってから、それぞれの家に向かって歩いて行った。
みんな家の内装が気になって仕方がなかったのか、コンテナに入っている荷物は置いたままである。
各家から聞こえてくる賑やかな声に安堵していると、シャルロットさんが声を掛けてきた。
「ありがとねアキト。この人たちのことを迎え入れてくれて。きっと彼らも楽しく過ごせるはずよ」
「きっかけを作ったのはシャルロットさんのほうですからね。シャルロットさんが行動しなければ、彼らもこの場所にはたどり着けませんでしたよ」
「ふふっ、アキトもたまには傲慢になってもいいんじゃない? 『俺のおかげだぞ!』なんて」
そう言いながらシャルロットさんは俺の顔をのぞきこむように近づき、ニヤニヤとした表情を浮かべながら俺の頬をつついてくる。恥ずかしいからやめてほしい。
「……シャル。私の夫に何してるの」
「へぁ!? ち、ちがうのメノお姉ちゃん! これはちょっとしたスキンシップみたい――あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
メノの声がした方向に目を向けるよりも先に、重々しい『ズドン』という音がシャルロットさんがつい先ほどまでいた場所から聞こえてきた。え? いまはどこにいるのかって?
空を飛んで森の中に落ちて行ったよ。
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