第117話 新住民情報




 翌日、生魔島へシャルロットさんが新たにやってくる人たちの情報を持ってやってきた。


 てっきり小さな子供も多いのではないかと思っていたが、話を聞く限りどうやらそれは二人だけらしい。双子らしく、年齢は六歳とのことだった。


 他の子どもはみな少なくとも十歳を超えていて、地球の基準で考えると子供は双子も含めて六人。大人たちはほとんどが女性で、三十代の男性が二人と、九十代が二人。


 九十歳って結構な年齢じゃないかな……と思ったのだけど、ここに来て俺は今更な知識を得ることになった。


「えぇ……この世界の人の寿命ってもしかして長いの?」


「……混血の割合によるけど、だいたい百五十歳ぐらい。二百歳生きる人もいる」


「純粋な人族なら七十歳生きればいいほうじゃないかしら?」


 世界樹の下で、メノと一緒にシャルロットさんの話を聞く。

 どうやら種族によって寿命が少しずつ違うらしいが、もう血が混ざり過ぎてランダムに近い感じになっているらしい。


 この事実を知ったとしても何かが変わるわけではないが、まぁリケットさんたちと過ごす時間が増えると思えばいいことなのだろう。彼女は、少なくとも魔人族の血を引いているわけだし。


 そんな新情報を得つつも、本来の目的である新たな住民たちのことをシャルロットさんから教えてもらった。


 双子の子供、三十代の男性、その妻、そして男性の母親という五人暮らしの家庭が一つ。この男性の父親は魔物によって殺されてしまったらしい。


 子供一人、三十代の夫婦という家庭が一つ。男性の両親は魔物に殺されている。

 九十代の男性、その娘と孫とひ孫の家庭が一つ。娘と孫の旦那さんは魔物に殺されている。


 九十代の男性の一人暮らし家庭が一つ。一人息子は魔物の被害で死亡したようだ。

 姉妹の女性、そしてその姉の娘が二人という家庭が一つ。この姉の旦那さんは亡くなってしまったらしい。


 そして父親と母親を失った娘の一人暮らしが一つ。


 うーん、シャルロットさんから聞いた通りに頭の中で復唱してみたけれど、ちゃんと覚えられるかわからない。ひとまず家庭の数が六つあるということはわかった。のちのちこの情報に加えて、一人ひとりの名前を覚えなければいけないと思うとなかなか難しそうだが、かなり心が苦しくなるような内容だったので、そんな甘えたことは言える気分にはならなかった。


 一家全員が亡くなってしまっているということもあるらしいが、こうして残された人たちのことを考えると、まるで自分のことのように胸が締め付けられた。俺も、似たような経験をしてきたから。


「こっちで暮らさないことを選択した人はいるんですか?」


「いいえ、生き残った全員が移転を希望しているわ。いちおう私もしつこく『一生島で暮らすことになる。しっかり働いてもらう。安全だけど、行動は制限される』って感じで伝えたんだけど、それでもいいらしいわよ。やっぱり、あの地で暮らすのはもう嫌だろうし、魔物に怯えずに最低限の食事があるのならそれで良いって。遺骨に関しては、みんなこっちに持ってきたいって言っていたから、壺に入れて持ってくるらしいわ」


 もちろん、それに関してはこちらから何かを言うつもりはない。庭にお墓を作ってもいいし、生贄の子たちと一緒の場所でもいいと思う。


「魔物に襲われたとは聞いていたけど……やっぱりひどい被害だったんですね」


「そうね。今言った人たちの中には、フロンやディグみたいに大けがを負っている人もいるわ。だから、できれば治療もお願いしたいんだけど――」


「わかりました――って言っても、俺じゃなくて葵に頼むことになるんですけどね。まぁ確実にやってくれますから、安心してください」


 そう返事をしたのちに、俺は世界樹で木登りをしていたヒカリに声を掛けて、けが人の治療の了承を得る。本人に了承を得ずに勝手に話を進めるわけにはいかないですもんね。




「じゃあ今言ったような感じで準備していこうと思うから、みんな手分けしてよろしく。リケットさんは新しく来る人たちの衣服とかタオル、フロンさんとディグさんは通常業務の魔物の間引き、ロロさんとフーズさんは設置する家具、ルプルさんとシャルロットさんは移送用コンテナの準備、メノは照明とか冷蔵庫とか魔道具全般、葵たちと俺は建物だ」


 昼にみんなを集めて、話し合って決めた内容を皆に改めて伝える。


 すると、各々がやる気をみなぎらせて返事をした。シャルロットさんからその人たちの境遇を聞いていたから、みんな張り切っているみたいだ。そういう俺も、この地で第二の人生を謳歌してほしいと思っている。どうか幸せになってほしいと願っている。


「じゃあ作業開始! わからないことがあったらその都度聞きにくれ」


 パンと手を叩いてそう宣言すると、皆がちりぢりになって行動を開始する。俺も、葵と一緒に資材置き場に行って木材を大量に運び出した。


 昨日新たに道を作る際に大量の木材をゲットしていたけれど、そちらはまだ建材として加工していなかったので、丸太のまま放置してある。これらはまた時間ができたときに綺麗にして倉庫に持っていく予定だ。


「世界樹から見たら、この方向だけ街っぽく見えそうでござるな」


「たしかにな」


「まだまだ人が増えても大丈夫そうだし、そのうち本当にそうなるかもしれないよ?」


「はは、その時にはもっとしっかりリーダーっぽくしないとだな」


「もうお兄ちゃんはしっかりとリーダーしてるよ~」


 葵たちと話しながら、テキパキと作業を進める。


 結局、家を建てる場所は新たに作った三本の道の両側に建てることに。家を作る数が六つということもちょうどよかったので、世界樹に近い側に六棟並べる感じだ。西の端から順に、五人暮らし、四人、四人、三人、一人、一人という感じで作ることにしたのだけど、その理由としては、一人暮らしの人が、俺たちの家に近いほうが気に掛けやすいからだ。


 あとは些細な理由として、平屋ゾーンと二階建てゾーンが別れていたほうが見栄え的にもいいかなぁと思ったからである。まぁこれはついでみたいなもんだけど。


「明日にはもう呼べるかもしれないけど……念には念を入れて明後日以降にしてもらおうか。そっちのほうがしっかりと準備できるし」


「そうだね。リケットさんとか大変だろうし、家を建てたら私が加勢に行こうかな」


 アカネが軽々と自分よりはるかに大きな木材を担ぎながら楽しそうに言う。この非現実な光景にも慣れてきたと思ったけど……ふと地球での感覚が戻ってくると、あまりの異質な状況に笑ってしまいそうになるんだよな。


 この島にいる全員が、各大陸で最強クラスのレベルだから余計に感覚がおかしくなってしまう。新しく来る人たちも、二か月ぐらい経てば結界の外に出ても魔素酔いしないぐらいのレベルになるんだろうなぁ……。


 それも含めて、ここで第二の人生を楽しく過ごしてもらえるといいけど。



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