第116話 受け入れ予定地




 新たな住民を受け入れるかどうかに関しては、これまでと同様に皆の意見を聞きとってから判断することにしたのだけど、やはり全員が『五十嵐明人に一任する』という感じだった。ただ、全てを俺に任せっきりにしているというわけではない。俺が困らないような人であるのかどうかは気にしてくれているようだった。


 現在この島に住むのは五十嵐家が三人、七仙が三人。そして別大陸で過ごすのが難しくなってしまったリケットさんたち四人を足して、合計十人が暮らしている。葵たちはいつも分裂状態だから、一見すると子供が多いようにも見えるけれど、実数としては一人である。


 最初は『大きくて困ることはない』と考えて作った十人掛けのダイニングテーブルも、いつの間にか綺麗に埋まるようになっているのだ。


 新たに二十人近くの人が加わるとなると、一気に島の人口が三倍ぐらいになる。

これまではみんな家族のように感じていたけれど、いよいよ村という感覚になってくるのかもしれない。


 別にそのことに関して良いとも悪いとも思っていないが、やはり変化というのは楽しみでもあり怖くもあるんだよな。ただ、停滞は後退であるとも言うし、時には思い切って物事を進めてみるというも悪くはないはずだ。


 そんなわけで、俺たちはその二十人ぐらいの人を受け入れるという方向で話を進めることにした。


「やってくる人にもいずれ畑仕事はしてもらうけど、最初のうちはリケットさんとロロさんに任せる形で問題ないか?」


「はい! 大丈夫です!」


「問題ありません。元々作物が一日で育ちますから、百人増えようとも食料が無くて困るということはないでしょう。収穫に関しても、レベルが上がって力も付いていますから何も苦ではありません」


 場所は世界樹の下。大きな丸テーブルを囲んで、島のみんなで話し合いをしているところだ。本日はルプルさんも仕事が休みだったので、会議に参加してくれている。隣に座る葵とリバーシで遊びながらだけど。ルプルさん、めちゃくちゃ角を取られてる。


「家を作るにしても、その人たちの家族構成がわかんないんだよな……今度シャルロットさんが来た時に聞いてみよう。それから葵たちに頑張ってもらうことになるけど、大丈夫か? もちろん俺も手伝う。あとメノも魔道具をたくさん作ってもらうことになるけど、大丈夫?」


 俺の質問に、二人は『もちろん』と頷く。メノに関しては、島の人が増えてもいいように魔道具のストックをかなり作っていたらしいから、そこから放出するだけのようだ。まだまだ余っているから気にしないでいいとのこと。


 あとは……何か問題はあったかな。


「そうだ――そろそろ仕事の分担も、はっきりさせた方がいいかもしれないな。いままではなんとかなっていたことも、住民が増えたら難しいことも出て来るだろうし」


 例えば衣服とか、例えば料理とか。


 今回のことで一番負担が大きくなるのはおそらくリケットさんなんだよな。彼女の仕事の一部を新たな住民に引き継いでもらったほうがいいだろうか? もしくは、料理陣営(俺や葵が加わることがあるけど)の人を増やすとか……?


「アキトさん、私なら大丈夫ですよ! 五十人増えようと百人増えようと仕事を全うしてみせます!」


「その気持ちはありがたいけど、ほどほどにな……いっそ食堂みたいにしたほうがいいのかなぁ? みんな家にキッチンあるけど、ほとんど使ってないみたいだし」


「……でも、みんないつも時間通りに集まってるから、食堂を作る意味はあまりない気がする」


「これからもそれで大丈夫かな? やっぱり三倍の人数ともなると、今まで通りにことが進むのか不安でさ」


「……そういうことはあとあと考えればいい。そして、うまくいかなかったら新しいやり方を考えればいい」


「そうだぜ。メノ姉ちゃんの言う通り、とりあえずやってみねぇとわかんねぇよ」


「ルプルもそう思うのだ! 失敗したら誰かがなんとかしてくれるのだ!」


 ルプルさんの場合、秘書ポジションのワルサーさんが痛い目を見ているんだろうなぁ。いつか差し入れの世界樹の果実をお送りしたい。市場に出回らなければいいだけだし、今度ルプルさんに持って行ってもらおうかな。


 まぁそちらのことはいいとして。


「そうだな。とりあえず、やってくる人がどんな人なのかもわかっていないんだから、決めようもないか。ひとまず建築予定地の伐採していくとしよう」



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 世界樹を中心として、北にはスケボーやボルダリングなどもできる大きな公園があり、東には図書館、南には現在フーズさんが住んでいる会議場がある。


 そして、異世界最初の夜を過ごした洞窟が少し離れた北西方面にあって、世界樹からその洞窟に至るまでの道沿いに、洞窟側からルプルさんの家、メノと俺の家、葵と母さんの家、リケットさんの家、ディグさんとフロンさんの家という順番で五軒並んでいる。


 どの家も庭をかなり広くとっているので、密集しているという感覚は薄いが、仮に新たに十件建てるとしたら、せっかく土地が広いのにも関わらず、建物が密集しすぎているような気がしてくる。


 なので、これを期に世界樹から西へ真っすぐ伸びる道を整備して、そこに新たに住居を建てることにした。この道が川への最短距離の道となる。


 道幅は十メートルぐらい大きくとって、その両脇に家を建てていくという感じだ。


「うーん……」


 うん……最初はそのつもりだったんだけど、やっている最中に『なんだか新しい人たちを仲間外れにしているような感じがする』という気持ちになってきて、考えれば考えるほど、新たな住民を避けているような行動をとっているような気がしてきた。


 まぁせっかくだし、村っぽく整備しとくか――そんな安易な考えで、元々あった洞窟へ続く道、そして西側に真っすぐ伸びる川への最短の道の間に、新たに二本の道を作りつつ、その放射線状に伸びる道と道を繋ぐ道も作った。道を作ったというか、まだ木を伐採したり根っこを除去したりしただけだけども。


 家をどこに建てるのかは、建てる建物の数だったり、他の人の意見を参考にしたりして決めることにする。会議場や図書館のような大きな建築ならともかく、メノやリケットさんの家みたいな形だったら三十分程度あれば一棟建てることができるし。


「……石畳を敷く仕事は簡単だから、残しておいてあげたほうがいいかも」


 メノからそんなアドバイスをもらったので、自重しておいた。ちなみに、その背後でリケットさんとロロさんが残念そうに眉をまげていたりした。どんだけ仕事に飢えてるんだよ……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る