第115話 住民が増えるかもしれない
七仙の人たちは国王か一般市民かというような、はっきりと身分の差が別れている。具体的に名前を上げるのであれば、メノ、フーズさん、シャルロットさん、アルカさんが平民であり、エドワードさん、レイラさん、ルプルさんの三人が国を治めている。
ただ一般市民とはいえ、メノたちが『七仙』という権威ある立場であることはたしかだ。だがしかし、彼女たちは爵位などを全て断ってきているらしいので、家名はない。
メノはただのメノであり、強いていうのであれば『大賢者メノ』、『七仙のメノ』というのが呼び名であるわけだ。
しかしそれも、今日からは違う。
別に俺が爵位などを持っているわけではないが、地球の文化を持ち込んでいるので家名というか苗字がある。今回メノは俺の家名を受け取り、五十嵐メノ、もしくはメノ=イガラシと名乗ることになるようだ。
「五十嵐メノか……もう家族なんだよなぁ」
ベッドで横になり、天井に目を向けながらぼんやりと呟く。
結婚してから迎える、初めての夜である。もしかしたらメノも、これからベッドでちょっと口に出すのがはばかられるような行為をすることを認識していて、追加でお酒を飲んでいたのかもしれない。
俺だって先ほどメノと一緒にお風呂に入った時点で、『もしかして、ちょっとでも慣れておこうとしているのかな?』なんて思考を巡らせたりもした。
内心はドキドキである。心臓が爆発して眼と口と鼻から血が噴き出てもおかしくないような鼓動の激しさだった。
でも、今は落ち着いている。
「……(すいー)」
追い酒のせいか、メノは布団に入るなり夢の世界に旅立っていったからだ。俺の緊張を返してほしい。試しに頬っぺたをつついてみたが、やわらかさを堪能できるだけで彼女の意識が覚醒する様子は微塵も感じられない。
まぁ一緒にお風呂に入るだけでも特殊なイベントだったから、思い出としては十分か。はっきりと口にしてしまうなら、一緒にお風呂に入ってお互いの体を隅々まで洗いあったのだけど。ちょっと詳細を加えるだけで大した違いだ。
「おやすみ」
「……(すいー)」
就寝の挨拶を呟き、気持ちよさそうな可愛い寝息を聞きながら俺も彼女と同じように眠りにつくことにした。明日からまた、色々と頑張ろう。
この島の発展を任されたものとして、そしてメノの夫として。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
結婚式を終えて、数日が経ったころのこと。
少しずつ村?の景観や過ごしやすさを改善しながら楽しく過ごしていたのだけど、シャルロットさんとレイラさんが生魔島を訪れて、なにやら俺に相談したいことがあると言ってきた。
「ほ、本当に私なんかが相談なんてしていいの……?」
「レイラ姉ちゃん、何度も言うけどアキトはそんなこと気にしないって。シズルも同じよ」
一国を治めているだけでなく、七仙で精霊王という名でも呼ばれているレイラさんがビクビクしている。それをシャルロットさんが苦笑しながらなだめていた。
二人とも耳が横に長く精霊族の特徴を有してはいるものの、世界樹の精霊に対する崇拝の度合いというのは違いがあるらしい。
場所はメノの家のダイニング。
俺の隣にはメノが座っていて、彼女は最近この島で活用されるようになったストローで世界樹ジュースをちゅるちゅると飲んでいる。俺たちの向かいに、シャルロットさんとレイラさんが座っているというような状況だ。
「……それで、相談ってなに?」
メノがストローから口を離して、話を進めるために言葉を投げかける。質問に答えたのはシャルロットさんのほうだった。
「実はね、レイラ姉ちゃんの治めてる国じゃないんだけど」
そんな風にシャルロットさんが前置きをして、話し始めた。
内容としては、生魔島への移住許可である。
セレーナ大陸には四つの国があり、そのうちの一つであるウィンベル王国がレイラさんが王様をやっている国らしいのだが、その隣国であるホルン王国にて、魔物が村を襲うという事件が起きたらしい。
冒険者をしているシャルロットさんがちょうどその付近にいたために、村が消滅するまではいかなかったものの、死者も出たし、重傷者も多数出てしまったようだ。
どうやら、その残った住民たちをこの島に住まわせてほしいとのことだけど……。
「レイラさんの治めてる国じゃないんですよね? ホルン王国とやらは何も言ってこないんですか? いちおう、その国に住んでる人ですよね?」
「まぁそうなんだけどね。元々は森を切り開いて開拓するために集まった人でできた村だったんだけど、あちら的には補充する人員もいないし、こんなに被害が出るなら開拓は難しいと考えたみたい。だから開拓は中断ってことになったみたいなんだけど……シャルがねぇ」
レイラさんはそう言いながら、ちらりと隣に目を向ける。
視線を向けられたシャルロットさんは、ややムスッとした表情になった。
「だってあのままだと、村の人はまともな治療を受けられないだけじゃなくて、みんな離れ離れだもん。ただでさえ身内が亡くなったっていうのに、あんまりじゃない?」
詳しく聞いてみると、シャルロットさんが開拓民の代わりに森を切り開いて、人の住める領域を広げてあげるから生き残った村人を全員よこせと交渉したらしい。
といっても、本来ならばそのような交渉はあまり必要なかったみたいだ。七仙である彼女が『欲しい』と言えば、あまりにも無茶な願い以外は基本的に聞き届けられてしまうような関係らしい。やはり、この世界における七仙とはすごい立場なんだな。
まぁ生き残った人数も二十名にも満たないぐらいのようだし、働き手である大人の大部分は亡くなってしまったようだから、ホルン王国としてもあまり痛手ではなかったのだろう。
元々はその村人たちをレイラさんの治めるウィンベル王国で面倒をみようとしていたようだけど、どうやらその村人たちは陶器を作る技術を持っているらしかったので、シャルロットさんは俺がその役目を担う人を探していたことを思い出し、この相談を持ち掛けることにしたようだ。
「そうですねぇ……まぁそれぐらいの人を養えるだけの力はこの島にありますけど、問題はその人たちじゃないですかね。この島で一生生きていく覚悟があるなら、俺は問題ありません。もしこの島に害を及ぼすような人がいるなら遠慮したいところですけど……」
「そっちの選定は私がやるから問題ないわ。でもたぶん、見た感じ大丈夫そうよ」
犯罪者とかがいない限りはたぶん大丈夫だよな。
たとえ性格の不一致があったとしても、最初から誰とでも仲良くなれるなんてことは理想論なのだろうし、現実的に考えると不満を持っている人だって少なからず――いや、不満がある人はそもそもこの島にやってこないのか。
それに、メノやルプルさん、フーズさんなどがいる以上、こちら側に安易に逆らおうとするような人はそうそういないだろう。もしそういう反発する気概のある人なら、この島で一生暮らすなんて選択はしないだろうし。
「メノはどう思う? 俺としては、こちらに住んでもらってもいいかなと思ってるんだけど」
顔を横に向けて問いかけると、彼女はコクリと大きく頷き、
「……アキトがしたいようにしていい。サポートは私がする。私はできる嫁」
そんな可愛いことをドヤ顔で言うのだった。
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