第113話 おやおやおやおや
あー俺もついに結婚かぁ。
地球では二十五年間生きてきてまともに恋愛なんてしてこなかったけれど、いざ恋愛がスタートしたと思ったら結婚まで一直線って感じだったな。
神様にもらった力のおかげ――なんて風に考えることもできるのだろうけど、俺としては心にゆとりができたとか、周囲の環境のおかげだったりするのだと思う。力に惚れられるほど、この神様からもらった力を活用しているわけでもないし。
「どう、思い出に残るような式になった?」
「……すごく楽しかった」
夜の九時頃までみんなで飲んだり遊んだりしたあと、ゲストの四人を見送る――そんな想定だったのだけど、結局全員で後片付けをして、みんなこちらで一泊してから帰ることになった。現在フーズさんが住んでいる会議室には、七仙のみんなが泊まれるだけの個室が用意されているし、こちらとしては何も問題はない。フーズさんがスゴロクを借りてもいいかと聞いてきたから、もしかしたらあちらに泊っている五人で遊んでいるのかも。
まぁそれはいいとして。
せっかく七仙のみんなが集まっているのだから、個別に家がある人以外はネームプレートを部屋の前に提げることになった。
ちなみにそのネームプレートに関しては、全て葵が作成してくれたんだけど……なぜかレイラさんたちは異世界語とカタカナで書かれているのに、エドワードさんだけ異世界語で『えどわーど』と彫られていた。葵曰く、こちらのほうが可愛げがあるとのこと。竜王さんに可愛げを求めてどうするんだ。
「肉体的な疲れはないけどさ、やっぱり精神的には疲れるよな。もちろん俺も楽しかったけど、日常とは違うし」
「……それはそう。でも、真っ白なドレスはまた着たい」
「ははっ、まぁいいんじゃないか? 着るのが一回きりってのももったいないし、いつもとはまた違ったメノが見れて俺も嬉しいし」
「……うん、アキトもまたこの服着たらいいと思う、似合ってる」
「ありがとな」
外の片づけが終わってから、俺たちはソファでそんな風に話をしながらだらだらと会話をしている。まだ俺はタキシードを着ているし、メノも青のドレス姿のままだ。
メノはみんながいる前ということもあり、お酒は一杯だけに控えていたようだけど、家に帰ってきてから追加で一杯飲んでいる。現在はほろ酔いぐらいの状態だった。
……いや、もしかしたら結構酔ってるかもしれないな。
だって、お酒に酔ってなけりゃさ、理性が働いていればさ、
「……じゃあ、そろそろお風呂入ろ」
俺の肩に手を置いて、そんなことを言ってくるはずがないのだから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
どうもこんにちは、享年二十五歳の異世界転生者の明人です。
神様に『生贄少女なんとかしてくれぇ』と頼まれて『断る! でも勝手に助けるよ!』と無人島に降り立ってから、結構な日数が立ちました。実際どれぐらい経ったかな……四か月弱ぐらいだろうか。
まぁそんな百日前後の間にはそれはもう色々とありましたよ。
神様の本命である生贄少女は一名のみ滞在しているが、現在この島には俺の家族だったり、他に問題を抱えている人だったり、世界のトップともいえる七仙の全員が揃っているのだ。そしてその一人が俺の結婚相手となり、現在お風呂に入っている状態である。
そして俺はいまから、そこに、突撃するのである。
「お風呂に入ってから酔いが冷めたりしてませんか?」
「……早くきて」
浴室の扉の前で声を掛けてみたが、どうやらこのイベントは回避できないらしい。別に俺も男だし? 興味がないわけじゃないよ? いやむしろあるよ? でもいざとなったら俺の童貞心がうずくんだよ。お前恥ずかしい反応しちゃうんじゃねぇのってもう一人の俺が語り掛けてくるんだよ。
腰に巻いたタオルがずり落ちてしまわないか再度確認して、深呼吸。ゆっくりと浴室の扉を開いた。するとそこには、まっさらで綺麗な背中をこちらに向けて、風呂椅子に座るメノの姿が。
「お邪魔、します」
「……ん」
なぜか音を立てないよう忍び足になってしまっている俺に、メノは顔だけ振り返って、体を洗うようのタオルを手渡してくる。どうやらすでに泡立てたものを用意していたらしい。
俺はその泡だったタオルを反射的に受け取った。
「これはもしかしなくても、背中を流してほしいとかそういう感じのやつですか?」
「……そう。こっちの世界にはそんな文化はないけれど、アキトのいた世界ではこれで仲良くなれるってシズルが言ってた」
あんのクソババア余計なことばっかり吹き込んでんじゃねぇよっ!!
そしてメノも七百年生きていながらどうしてそんなに純粋でピュアッピュアなの!? もうちょっと人を疑うことを覚えようよ!
いや、しかしな……。
「たしかにそういう文化はあるし、裸の付き合いなんて言葉もあったりするけど、あまり男女ではやらないかな……メノも他の男性としたりしないでね?」
「……? するわけない」
よかった。そこには常識がきちんとあったらしい。
俺は安堵なのか呆れなのかよくわからないため息を吐いてから、貰った泡のついたタオルを見つめる。彼女が身体を隠すために持ち込んだタオルは、石鹸などが置いてある棚にたたんで置いてあった。
つまり、彼女の体を隠すものは、いま何も無い状態である。
そんな無防備極まりない状態で、俺に背を向けているのだ。いちおう手は胸に当てられているから、俺が後ろから覗き込んだとしても大事な部分は――いや、下半身は見えてしまうな。やめておこう。
「あのさ、メノは恥ずかしくないの?」
「……すごくすごく恥ずかしい」
「よく頑張ったな……」
「……ん」
案外平気そうに見えるが、やはり恥ずかしさはあるらしい。耳が赤いのは頭を洗ったお湯だけのせいではないようだ。
「じゃあ擦るから、力加減で強い弱いがあったら言ってくれよ」
「……わかった」
メノの返事を確認してから、俺はその場にしゃがみこんで彼女の背中を擦っていく。たぶんどれだけ強く擦っても傷なんてできないんだろうけど、ステータスの力があるとはいえ、一定のところまでは普通に痛覚が反応するから、心地よくはならないだろう。
そんなわけで、俺もタオルに籠める力に気遣いながら背中を擦っていく。
「……ん」
あ、腕もなんですね。承知しました。
首元からお尻の上部分まで、丁寧に擦ったところでメノが右手を横に伸ばしてきたのでそちらも丁寧に洗っていく。左手は太ももの上にお行儀よく置かれているので、彼女の前部分には目を向けないように気を付けねば。
「はい次は左手~」
「……ん」
彼女は俺の操り人形のように、言われた通りの行動をしてくれる。
彼女がとんでもない美少女であることを意識してはいけない。今の俺はただただ芸術品のような存在を丁寧に洗うだけの生き物だ。男ではないのだ。
そんなよくわからないことを考えていたおかげで、生理的にどうしても反応してしまう部分が落ち着きを取り戻してきたころ、メノが身体を前に伸ばして自分が持ち込んだタオルを手に取った。
ふう――どうやらこれで終わりのようだ。あとはそのタオルで体を隠して湯船に浸かってくれたら――なんで俺にタオルを渡してくるの?
「……それで目隠しして」
「どうして目隠しが必要なの?」
彼女の行動の意図がわからなかったので、ストレートに疑問をぶつける。彼女は横眼で俺を見て――チラっと俺の下半身に目を向けてから顔を真っ赤にしたのち、自らも顔を真っ赤にさせる。
そして、こう言った。
「……つ、次は前を洗ってもらうから、見られるの恥ずかしい」
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