第105話 世界樹の果実カードを発動!
スゴロクを進めること数巡。
現在位置的にトップにいるのは葵とフロンさんペアで、金額的にトップにいるのは最初に国家転覆罪で全財産が没収されたルプルさんとディグさんペア。
スゴロクのマスに配置されたカードには、この島で起きたことや、みんなの性格が透けて見えるようなイベント、プラスもマイナスも織り交ざっており、さらに言えばみんなで作り上げたものだから、より一層楽しむことができている。
これはこれで何回も遊べそうだし、マスに配置するカードはどんどん新しいものを作っていっても大丈夫だから、もっとたくさん遊べそうな気がするなぁ。
それこそ、新しい人が増えたりしたら、その人特有のイベントを付け加えたりしたら、この島に馴染むきっかけにもなりそうだし、この島で起きたことを知ることができる良いきっかけになると思う。
ただの娯楽として作ったものだったが、思った以上にいいものになったなぁ。
……うん。
この瞬間が来るまでは、俺もそう思っていた。
「…………」
「どうしたのメノちゃん? えっとなになに――『島に好みの異性が現れて一目ぼれ、結婚する。全員からお祝い金一万ディアもらう』――……あ、これを書いたの私ね」
悪びれた様子は一切なく、母さんはなんでもないことのようにそう言った。
ま、まぁこういったスゴロクゲームに置いて、結婚イベントって定番だからなぁ。おそらくみんなが恋愛的な要素を入れなかったから、母さんが良かれと思って足したのだろう。作りたくなる気持ちはよくわかる。
しかしメノさんはそのマスに置かれたカードをジッと見つめたあと、ビクビクした様子でこちらを見た。なんか顔が青ざめていませんか?
「……こ、これは違う、私は浮気しない」
「うん、そりゃゲームだからね。心配してないよ」
「……そんなつもりじゃなかった」
メノさんは俺の服の袖をつかみながら、必死に弁明の言葉を口にしている。いまも「一目ぼれとかしないから」なんて言って俺をなんとか納得させようとしている。いやだからこれはゲームだし、全然心配していないんだって。
メノさんの性格的に、俺に向かって『他に好きな人ができた』みたいなことを言うのが想像できないし……いやでも、そうやってこの現状に胡坐をかいていちゃいけないとは思いますけどね。ずっと好きでいてもらうための努力はしますとも。
俺はメノさんをなだめるように『大丈夫大丈夫』と言ったのだけど、彼女の焦りはおさまらない。そしてとうとう、謎の行動に出た。
「……せ、世界樹の果実カード使う! 嫌なマス回避!」
ベチンとカードをフィールドに叩きつけ、初めて聞くような大きな声でメノさんがそう宣言する。明らかにプラスのイベントなんだけど、メノさんにとっては嫌なマスだったらしい。
メノさんは額の汗を拭って、危機はのりきったと言わんばかりに安堵の息を吐く。
誰も『それプラスのマスじゃ使えないんじゃない?』なんて言い出せない空気だ。
ペアである母さんはメノさんに見えないところで笑いをこらえているし、まぁ二人がそれでいいなら何もいうまい。
俺は俺で嬉恥ずかしといった感じなので、変に注目を集めないためにもさっさと次のターンに行くことにした。
「じゃあ次は俺たちだな。さっきは俺が振ったからリケットさんどうぞ」
「はい! 任せてくださいアキトさん! いまここに、私の全ての運を使ってみせます!」
ゲーム以外のところで使ったほうがいいと思います。
気合を入れた一投がフィールドを転がり、出た数字は六だった。
その数字が出た瞬間、きっとみんなが凍り付いたと思う。ただひとり、リケットさんだけは「大きい数字が出ました! ついてますね!」なんて言って喜んでいる模様。
「……あれ、六って、メノさんと一緒の――」
そう俺たちが止まったのはつい先ほどメノさんと母さんが止まったマスと同じマス。つまり、結婚してお祝い金を貰うマスだ。
リケットさんが必死に「これは私のことですから! アキトさんじゃなくて、私のことですから!」とメノさんに説明していた。
いや誰がどうとかじゃなくて、ゲームなんだって。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
スゴロクの優勝者は、ルプルさんとディグさんペアになった。最初に全財産没収というイベントが起きたものの、そもそも最初の所持金はみんな少なかったからあまり痛手にはならなかったようだ。
最終的にみんな一千万ディアとかそういう所持金になっていたし。まぁ、ドベの母さんとメノさんペアはギャンブルコースに特攻して借金しまくっていたけども。
メノさんが『家からお金持ってくる、返済可能』などと言い出したときにはびっくりしたなぁ。結婚といい借金といい、どうにもメノさんは遊びと現実と結び付けてしまうタイプらしい。ゲームが終わったあとにも、何度も『浮気とかしない』と繰り返し俺に言ってきたし。
ちなみにその他のメンバーの順位は、ロロさんとフーズさんが二位、俺とリケットさんが三位、そして葵とフロンさんが四位となっていた。
運がよかったのか悪かったのかはわからないけど、ともかく母さんと葵は自らの姿が刻印されたメダルは手に入れずに済んだらしい。
どうにも『負けたほうがよかった』と思ってしまうのは、俺自身が自分の絵が描かれたメダルなんていらないと思ってしまうからだろう。
「……フーズが作ってくれた」
「よかったな……。でもその俺、めちゃくちゃ美化されてると思うんだけど」
「……本物のほうがいい」
ベッドでだらんと寝転がって、メノさんは銀色のメダルを嬉しそうに眺めている。そこにはイケメン化された俺の顔が両面に掘られていた。
メノさんが可哀想だったから、ついついフーズさんに許可をしてしまったのだ。
まぁドベの彼女がここまで楽しそうにしているのなら、良しとしましょうか。
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