第106話 結婚式の準備、進む

~作者前書き~


書籍化の追加情報です!

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発売時期はまた追ってお知らせいたします(o*。_。)oペコッ

イラスト最高ですぜ(*´▽`*)


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 結婚式の日取りが、正式に決まった。


 日程は今日から六日後。この地にも時々雨は降ったりしているけれど、ガーデンウェディングだからといって当日の天気はあまり心配していない。なんといってもこの島には雨雲さえぶっ飛ばしてしまうような人々が集まっておりますからね。


 ともかく、六日後だ。


 当日は結婚式を含め、母さんとフーズさんの歓迎会も同時に行われる予定となっている。母さんとしてはあまり自分が主役になって祝われるというのがお好みでないらしいし、俺たちの結婚式とフーズさんの移住はいい機会だったのだろう。もう結構島に馴染んでしまっているから、今更歓迎会をやるってのも変な気はするんだけど。


 母さんも当初は『歓迎会にはお酒がほしい』という言い分だったが、結局いまでも満足のいくお酒はできていないらしい。この生魔島という豊かな土壌に加えて自分のオーバースペックな機能を有する身体のおかげで、どんどんお酒が美味しくなってしまうらしい。


 本人は『アルコール中毒になってしまわないか心配だわ』なんてふざけたことお酒をガブガブ飲みながら言っていたけど、もう十分に中毒になっているんだよなぁ。まぁ、これまた異世界で手に入れた身体のおかげで、まったく体調が悪くなっていないようだから注意もしづらい。お酒に呑まれて変なことをし始めるということもないから、注意するようなことでもないし。


「ディグ~。昨日渡したお酒、フロンはなんて言ってた~?」


「どれも美味いが、順番をつけるなら四番三番一番二番って言ってたぜ」


「んー、やっぱり改良すればするほど、熟成すればするほど美味しくなるのよねぇ~。ディグはどれが好き?」


「俺は最近だと日本酒が好きだな。昨日は風呂で飲んだが、かなり良かった」


「あー、風呂で飲むお酒は格別よねぇ~。露天風呂でも作ろうかしら。リケットちゃんに水着作ってもらえばいいし」


 ふらりと酒造りの様子を見に行ってみたが、二人は酒蔵の中で昼間っからお酒を飲みながらそんな会話をしていた。さすが酒好き。大してお酒を飲まない俺がこの中に入っていけるとは思わなかったので、すごすごと退散することにした。


 葵たち以外は夕食の場でお酒を飲むことが多いし、葵たちは葵たちで、ロロさんが日々研究してくれる新しい飲み物を楽しんでいる。


 果物系のジュースがメインだが、そこに最近炭酸飲料まで加わった。こちらは飲料を入れて密封した容器の中に、ホウシュという植物の葉を入れて一晩寝かせることで完成する。メノさんが島の間引きがてらに採取してきてくれたものだ。


 食事で言えば、この島ではコショウ、ソーユ(魚醤)、ヤローソース(マヨネーズ)、砂糖、塩に加えて、最近あらたにみりんっぽいものも加わったおかげで、調理の幅も格段に広がった。やはりお米は偉大である。


 まだ転生して一年も経っていないが、随分と発展したもんだなぁ。


 最初は住む場所も洞窟だったし、トイレの心配や食事の心配、魔物の心配とかも――いや、それらは大体初日で全て解決してしまったんだけどさ。それでもそういう時期があったことはたしかだ。


 衣食住は充実しており、住民も増え、娯楽もあり、言うことなしである。

 仕事がないのが悩みだなんて、生前の俺では考えられないことだなぁ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「おぉ……随分華やかになったな。これはリケットさんが?」


「はい! お花は私とロロさんでやりました! ベンチとかアーチとかはアオイちゃんたちがやってくれましたよ」


 結婚式の会場となる場所は、テニスコートよりもちょっと広いぐらい。新郎新婦が上がるステージがあって、その手前にベンチが十個ほど設置してある。その他に食事をするための白く塗られた丸テーブルがいくつかと、おそらく新郎新婦が通るであろうアーチのかかった道。


 置いてある物を説明すればそんな感じなのだけど、とにかく花が綺麗だった。地球では見たことのない種類の花ばかりだが、七色どころではないたくさんの種類の色の花がこの会場には咲き乱れている。


 俺がもしこの役目を担っていたとしたら、たぶんもっとカオスな雰囲気になっていたんだろうなぁ……こういう美的センスは俺にはないものだ。素直にすごいと思った。


「もう完成と言っていいみたいだな。昨日の夜、葵たちも作業終わったって言っていたし」


「そうですね~。あとは私とロロさんが微調整してるって感じです! メノさんもとても満足していたようですし、きっといい結婚式になりますよ!」


 リケットさんはそう言いながら、視線を花で覆われたアーチに目を向ける。そこではロロさんが、ハサミを持って植物を丁寧にカットしているところだった。


 すでに十分すぎると思うけど、彼女たち的にはまだやることが残されているらしい。六日後までにまた植物が成長したりするだろうから、完璧を求めるなら最終日まで調整を続けそうな気がするな。


「ありがとな。こんなに素敵な場所を作ってくれて。なんだかまだ結婚式を挙げたわけでもないってのに、この風景を見られただけでも十分幸せな気分だ」


「そうですか!? それはよかったです~。やっぱり私たちとしては、一番にアキトさんに喜んでほしいですからね。――あっ、もちろん他の人をなんとも思っていないってわけじゃないんですよ? ただ、やっぱり私としては、アキトさんが一番なんです」


「あはは、そりゃどうも」


「こうして今の私がいるのは、アキトさんのきっかけがあってこそですからね」


 リケットさんはそう言って微笑み、「では作業に戻ります!」とロロさんの元へ小走りで向かって行く。そしてロロさんの足元に落ちているカットした植物を集めはじめた。楽しそうに何かを話している姿を見ると、神様が俺を見つけてくれて本当に良かったなと思う。


 他の誰でもない俺にこの仕事を任せてくれて、本当に良かった。


「次はいったいどんな人が、どんな理由でこの島に来るのかねぇ」


 その時のために、もっともっとこの島を発展させていかなきゃいけないなぁ。


 でもなぁ、リケットさんたちも言ってくれているけど、俺としてもわりと満足しちゃってるところはあるんだよな。それこそ美味しいものを追求するとかそれぐらい。


 やはりここは、地球勢――五十嵐家での会議が必要か。






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