第103話 スゴロク制作




 本日はスゴロクを作ろうと思う。


 それはもちろん、リケットさんとロロさんから『娯楽を増やしてほしい』とお願いされたから。これが一番の理由であることはたしかなのでけど、前々から『いつか作りたいな』と思っていたから、いいきっかけになったと言ってもいいかもしれない。


 用意するサイコロは一つだけ。バフで二つになる時があってもいいかなと思って、基本は一つのサイコロを振ってもらうことにした。色々考えたのに、秒でマスを通り過ぎてしまっては悲しいし。


 そして肝心のマス目の内容だけど、住民全員から案を募ることにした。このスゴロクがどういったものなのかを説明し、みんなにイベントを考えてもらう。そしてそれは母さんに集められて、母さんがそのイベントに適した報酬を設定してくれるようだ。


 どうせなら、俺も楽しんだほうが良いだろう――そういう考えでこの役目を担ってくれることにしたらしい。ありがたい。


 そんなわけで、俺は合体版葵――否、生前の姿の葵と一緒に木の板の上にフィールドを作り上げ、あとから母さんがそのマス目にイベントが書かれた木のカードを当てはめていくような感じ。


「結構でかくなっちゃったな」


「あまり文字を小さく書けないからね~、仕方ないんじゃない?」


「手書きだもんな」


 俺と葵が作り上げたフィールドは、縦横一メートル五十センチほどの大きさになっていた。イベントを記入する木札が一枚ピンポン玉ぐらいのサイズがあるから、葵の言う通り仕方のないことではあるんだけども。


「葵はもう母さんにイベントの内容提出してたっけ?」


「んーん。お兄ちゃんもまだだよね? どんなの書くの?」


「そうだなぁ……日本のことを書いても伝わらないだろうし、できるだけ異世界でも通じるような内容とかかな?」


「たしかにそうだね! 私もそれで考えよ~」


 葵はそんな風に俺と話しながらも、ぺたぺたとフィールドに色を塗っていく。サプラに花から抽出した色を乗せた絵具である。


 ごめんな……任せてばっかりで。お兄ちゃんが色塗りしたらきっと大変なことになってしまうから、手を出さないほうがいいってわかっちゃうんだよ。


 せめて乗り物だけでも綺麗にしようと、俺はすでに完成した車をちまちまと削って形を整えていくのであった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「では第一回、スゴロク大会を始めまーす!」


 夕食後、フーズさんの家と化している会議場の談話室にみんなで集まった。そこで俺が高らかにスゴロク大会の開始を宣言すると、みんな盛り上がった反応を見せてくれる。


 いちおう、景品っぽいものも用意した。といっても、俺が作ったわけではなく、俺がフーズさんに依頼してオリンピックのメダルのようなものを作ってもらったのだ。材質はともかく、色合いは金銀銅の三枚を作ってもらっている。メダルに描かれているのは、表に世界樹、そして裏には合体版葵のスライム姿だ。俺がそのようにお願いした。


 そこそこ喜んでくれたらいいなと思ってフーズさんに依頼したわけだけど、みんな本気で欲しそうにしていた。なんなら作った本人であるフーズさんもめちゃくちゃほしそうだった。自分で作ったのに。


 まぁこういう大会で勝利して手に入れるからこそ、価値が生まれるものなのだろう。


 スゴロク大会の参加者は、島の住民全員である。


 俺、葵、母さん、メノさん、リケットさん、ルプルさん、ロロさん、フロンさん、ディグさん、フーズさん――合計十人。


 ただ、十人でスゴロクをしてしまえば順番が回ってくるまでかなり時間が掛かってしまうから、二人組を作ることにした。これは、あみだくじを使って決めた。


 そして出来上がったというペアというのが、以下の五組である。


 俺とリケットさん、葵とフロンさん、母さんとメノさん、ルプルさんとディグさん、ロロさんとフーズさん。


 なかなか面白いペアになったんじゃないかなぁと思う。

 この島の住民で誰と誰が仲が悪いということはないが、誰と誰が仲が良いというのはある。リケットさんとロロさんペアだったり、葵たちとルプルさんだったり。


 だからこのスゴロク大会をきっかけにして、新たな仲良しが生まれても面白いなぁなんてことを思った。


「でもこうするとなると、メダルが足りないな……フーズさん、もう一枚ずつ作れたりする?」


「もちろん作るぜ? というか、四位と五位の四人だけ寂しいからさ、参加賞のメダルみたいなものも作っていいか?」


「そりゃ作る分には構わないけど、大変じゃない?」


「むしろ作らせてほしい、この通りだ」


 そう言って、フーズさんが俺に頭を下げる。なんでメダルを作るのに俺の許可がいるんだろうか……俺って、そんなに偉そうにしてるつもりはないんだけど。


 頭を下げ続けるフーズさんに「わかったから頭を上げてくれ」と言うと、みんながわっと沸き立つ。どうやら最下位でもメダルが貰えることになって喜んでくれているらしい。まぁ葵や母さんにとっては、自分のことが描かれたメダルだしな。


「……フーズ、アキトの似顔絵のメダルも作ってほしい」


「お安いごようだぜ、メノ姉ちゃん!」


 なに勝手に俺のメダルを作ってもらおうとしてるんだよメノさん。



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